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ライゼン通りのお針子さん4 ~光と影の潜む王国物語~
八章 隣国の王女様のご来店
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ケインの挑戦状を見事クリアーした日から季節は変わり夏の蒸し暑い日々が続くある日、一人の少女がお店へと訪れる。
「へ~。ここがケインが言っていた仕立て屋アイリスか。ふふ、可愛らしいお店じゃないの」
「いらっしゃいませ、仕立て屋アイリスへようこそ。今日はどのようなご用件でしょうか?」
店内を見回し微笑む少女へとアイリスが近寄って声をかけた。
「ケインから聞いて興味を持ってきたのよ。貴女がアイリスさんよね。わたしにぴったりな服を仕立ててもらいたいの。お願いできる?」
「はい。畏まりました。どのような服をお作り致しましょうか」
年下だというのに物おじせず凛とした感じの少女の様子に呆気にとられながら尋ねる。
「貴女の腕は確かなんでしょ。どんな服を仕立てるのかは貴女に任せるわ」
「は、はい。畏まりました」
どことなく威圧感すら感じる少女にアイリスは知らず知らずに緊張して上ずった声で返事をした。
「それじゃあ、この紙にわたしの服のサイズを書いてあるので、これを基に型紙を起こしてくれれば大丈夫よ。そうね……期限は明日の朝までよ。それまでにわたしにぴったりな逸品を作って頂戴」
「畏まりました」
少女の様子に畏縮しながら頭を下げる。
「それじゃあ、また明日を楽しみにしているわね」
「……イクトさん先ほどのお嬢様、ずいぶんと身分の高い方のようでしたね。私、つい畏縮してしまいました」
「そうだね、この国の人ではなさそうだけれど、どこかの国のお偉い様の娘さんなのかもしれないね」
少女が出ていくとアイリスがイクトへと話しかけた。それに彼も相槌を打ちながらお客が出て行った扉を見詰める。
「ケインさんに続けて先ほどのお嬢様……アイリスの腕が試されているようだね」
「うぅ……私、そんなに挑戦状を叩きつけられるような事をした覚えはないのですが……」
彼の言葉に彼女は体を縮こまらせて呟く。
「まぁ、アイリスの噂を聞いてその腕が本物かどうかを確かめに来た、どこかの国のお坊ちゃまお嬢様かもしれないね」
「そう言えばこの前も夏休みを利用してやってきたどこかの国の貴族の学生さん達がやって来てましたものね。そんな遠くの国にまで私の噂って流れているんですね」
「世界お針子大会で優勝したことは全国に知れ渡っているだろうからね、それにコーディル王国の国王が認めた一流の職人としても有名なんだよ」
少し前に夏休みを利用してやってきた遠い異国の貴族の学園に通う生徒達の服を仕立てた事を思い出しながら語るとイクトが口を開き話す。
「私、そんなに有名人になってしまうとは思っていませんでした」
「でも、アイリスはどんなに有名人になろうと、変わらずにお客様の為に一針一針丁寧にお仕事をこなすだけだろう」
恐れ多いといった感じで呟くアイリスへと彼が優しく微笑み問いかけるように言う。
「勿論です。この国に来た日からずっと変わりません。この仕立て屋アイリスでお針子としてお客様の為に服を仕立てる。それが私がずっと叶えたかった夢ですから」
「うん。それじゃあ、今回の依頼もいつも通り丁寧なお仕事でこなしていこうね」
「はい」
それに笑顔で答える彼女へとイクトがそれでいいと言いたげに微笑む。そうして会話を交わした後アイリスは作業部屋へと入っていった。
「さて、と。このメモ書きを基に型紙を起こして……今日来たお嬢様。風格があり、気品に満ちていてどこか威圧感を感じるそんな中にも親しみやすさとやさしさと愛情にあふれていたな……それなら、私があのお客様の為に作る服は……」
独り言を零しながら思案したイメージを型紙に起こしていく。そうして夜の帳が降り始めた頃トルソーには一つのワンピースがかけられていた。
「お疲れ様、アイリスお店の方は締めておいたよ」
「あ、イクトさん。お疲れ様です。見て下さい。あのお嬢様の依頼の品が出来たんです」
「うん。アイリス、これなら俺も喜んでもらえると思うよ」
作業部屋へとやってきたイクトにトルソーにかけられた服を見せる。それを見た彼が微笑み告げた。
トルソーには白を基調とした生地にパフ・スリーブの袖、裾と胸元に付いたレースは水色でワンピースには黄色のオーナメント柄が入り、胸元にはバラ色のブローチがつけられている。そんな可愛らしいのにどこか厳かに見えるワンピースがかけられていた。
「後は明日お客様がこれを見て気に入ってくれるかどうかですね」
「大丈夫、自信をもって」
「はい」
イクトに言われるとどんなに不安な気持ちも一瞬で「大丈夫だ」と思えるようになるから不思議だと思いながらアイリスは微笑んだ。
そして翌日宣言通りにお客が来店する。
「おはようございます。昨日頼んだ服を取りに来たわ」
「はい、アイリス」
「こちらになります」
少女の言葉にイクトが目配せするとアイリスが棚から服の入った籠を取り出し持って行く。
「……ふふ。成る程、ケインの言った通りね。確かに職人の技見せてもらったわよ。申し遅れました、私はジュディス・セレア・オルドーラ。皆からはジュディーと呼ばれているわ」
「オルドーラって……貴女様はオルドーラ王国第一王女様ですか」
「へっ、えぇっ!? オルドーラ王国のお姫様!?」
ジュディスと名乗った少女の言葉にイクトが目を見開く。その言葉に二重に驚いたアイリスが驚愕の表情で彼女を見やった。
「そうね、オルドーラ王国第一王女よ。この国にはケインに会うためにお忍びで来ているの。彼のひいおじいさんがザールブルグ王室の血をひいていてね、だけどある事情から国も家族も何もかも捨ててただの民間人としてこの国へとやってきたのよ。その理由を知っているのはオルドーラ王室とザールブルグ王室のごく一部の関係者だけだけどね」
「は、はぁ……それでケインさんから隠し切れない気品を感じたんですね」
ジュディスの言葉に驚きと呆気にとられるのとで呆けた顔で彼女は呟く。
「ケインから貴女の話を聞いてどうしても国に戻る前に会いたくなっちゃってね。……またこの国へと遊びに来ることがあったらその時は立ち寄らせてもらうわ」
「はい、またのご来店お待ちいたしております」
彼女の言葉にアイリスは笑顔に戻り話した。
「ふふっ。早速この服を着てケインの所に見せに行かないとね。あ、後ティアナとアレクにも自慢しちゃおうかしら……ふふふっ。それじゃあ、またね」
「……ジュディー様。まさか王女様だったなんて」
「そうだね、隣国の王女様がこの国にお忍びで良く立ち寄っているのは噂で聞いていたけれど、まさか生きているうちにお目にかかれるとは思っていなかったよ」
ご機嫌な様子で店を後にしたジュディスを見送った二人は顔を見合わせ話し合う。
こうして隣国の王女様の挑戦状を見事クリアーしたアイリスの噂はオルドーラ王国に帰ったジュディスの話を聞いた人々の間で広まり、同盟国であるザールブルグ王国にまで広く伝わったのであった。
「へ~。ここがケインが言っていた仕立て屋アイリスか。ふふ、可愛らしいお店じゃないの」
「いらっしゃいませ、仕立て屋アイリスへようこそ。今日はどのようなご用件でしょうか?」
店内を見回し微笑む少女へとアイリスが近寄って声をかけた。
「ケインから聞いて興味を持ってきたのよ。貴女がアイリスさんよね。わたしにぴったりな服を仕立ててもらいたいの。お願いできる?」
「はい。畏まりました。どのような服をお作り致しましょうか」
年下だというのに物おじせず凛とした感じの少女の様子に呆気にとられながら尋ねる。
「貴女の腕は確かなんでしょ。どんな服を仕立てるのかは貴女に任せるわ」
「は、はい。畏まりました」
どことなく威圧感すら感じる少女にアイリスは知らず知らずに緊張して上ずった声で返事をした。
「それじゃあ、この紙にわたしの服のサイズを書いてあるので、これを基に型紙を起こしてくれれば大丈夫よ。そうね……期限は明日の朝までよ。それまでにわたしにぴったりな逸品を作って頂戴」
「畏まりました」
少女の様子に畏縮しながら頭を下げる。
「それじゃあ、また明日を楽しみにしているわね」
「……イクトさん先ほどのお嬢様、ずいぶんと身分の高い方のようでしたね。私、つい畏縮してしまいました」
「そうだね、この国の人ではなさそうだけれど、どこかの国のお偉い様の娘さんなのかもしれないね」
少女が出ていくとアイリスがイクトへと話しかけた。それに彼も相槌を打ちながらお客が出て行った扉を見詰める。
「ケインさんに続けて先ほどのお嬢様……アイリスの腕が試されているようだね」
「うぅ……私、そんなに挑戦状を叩きつけられるような事をした覚えはないのですが……」
彼の言葉に彼女は体を縮こまらせて呟く。
「まぁ、アイリスの噂を聞いてその腕が本物かどうかを確かめに来た、どこかの国のお坊ちゃまお嬢様かもしれないね」
「そう言えばこの前も夏休みを利用してやってきたどこかの国の貴族の学生さん達がやって来てましたものね。そんな遠くの国にまで私の噂って流れているんですね」
「世界お針子大会で優勝したことは全国に知れ渡っているだろうからね、それにコーディル王国の国王が認めた一流の職人としても有名なんだよ」
少し前に夏休みを利用してやってきた遠い異国の貴族の学園に通う生徒達の服を仕立てた事を思い出しながら語るとイクトが口を開き話す。
「私、そんなに有名人になってしまうとは思っていませんでした」
「でも、アイリスはどんなに有名人になろうと、変わらずにお客様の為に一針一針丁寧にお仕事をこなすだけだろう」
恐れ多いといった感じで呟くアイリスへと彼が優しく微笑み問いかけるように言う。
「勿論です。この国に来た日からずっと変わりません。この仕立て屋アイリスでお針子としてお客様の為に服を仕立てる。それが私がずっと叶えたかった夢ですから」
「うん。それじゃあ、今回の依頼もいつも通り丁寧なお仕事でこなしていこうね」
「はい」
それに笑顔で答える彼女へとイクトがそれでいいと言いたげに微笑む。そうして会話を交わした後アイリスは作業部屋へと入っていった。
「さて、と。このメモ書きを基に型紙を起こして……今日来たお嬢様。風格があり、気品に満ちていてどこか威圧感を感じるそんな中にも親しみやすさとやさしさと愛情にあふれていたな……それなら、私があのお客様の為に作る服は……」
独り言を零しながら思案したイメージを型紙に起こしていく。そうして夜の帳が降り始めた頃トルソーには一つのワンピースがかけられていた。
「お疲れ様、アイリスお店の方は締めておいたよ」
「あ、イクトさん。お疲れ様です。見て下さい。あのお嬢様の依頼の品が出来たんです」
「うん。アイリス、これなら俺も喜んでもらえると思うよ」
作業部屋へとやってきたイクトにトルソーにかけられた服を見せる。それを見た彼が微笑み告げた。
トルソーには白を基調とした生地にパフ・スリーブの袖、裾と胸元に付いたレースは水色でワンピースには黄色のオーナメント柄が入り、胸元にはバラ色のブローチがつけられている。そんな可愛らしいのにどこか厳かに見えるワンピースがかけられていた。
「後は明日お客様がこれを見て気に入ってくれるかどうかですね」
「大丈夫、自信をもって」
「はい」
イクトに言われるとどんなに不安な気持ちも一瞬で「大丈夫だ」と思えるようになるから不思議だと思いながらアイリスは微笑んだ。
そして翌日宣言通りにお客が来店する。
「おはようございます。昨日頼んだ服を取りに来たわ」
「はい、アイリス」
「こちらになります」
少女の言葉にイクトが目配せするとアイリスが棚から服の入った籠を取り出し持って行く。
「……ふふ。成る程、ケインの言った通りね。確かに職人の技見せてもらったわよ。申し遅れました、私はジュディス・セレア・オルドーラ。皆からはジュディーと呼ばれているわ」
「オルドーラって……貴女様はオルドーラ王国第一王女様ですか」
「へっ、えぇっ!? オルドーラ王国のお姫様!?」
ジュディスと名乗った少女の言葉にイクトが目を見開く。その言葉に二重に驚いたアイリスが驚愕の表情で彼女を見やった。
「そうね、オルドーラ王国第一王女よ。この国にはケインに会うためにお忍びで来ているの。彼のひいおじいさんがザールブルグ王室の血をひいていてね、だけどある事情から国も家族も何もかも捨ててただの民間人としてこの国へとやってきたのよ。その理由を知っているのはオルドーラ王室とザールブルグ王室のごく一部の関係者だけだけどね」
「は、はぁ……それでケインさんから隠し切れない気品を感じたんですね」
ジュディスの言葉に驚きと呆気にとられるのとで呆けた顔で彼女は呟く。
「ケインから貴女の話を聞いてどうしても国に戻る前に会いたくなっちゃってね。……またこの国へと遊びに来ることがあったらその時は立ち寄らせてもらうわ」
「はい、またのご来店お待ちいたしております」
彼女の言葉にアイリスは笑顔に戻り話した。
「ふふっ。早速この服を着てケインの所に見せに行かないとね。あ、後ティアナとアレクにも自慢しちゃおうかしら……ふふふっ。それじゃあ、またね」
「……ジュディー様。まさか王女様だったなんて」
「そうだね、隣国の王女様がこの国にお忍びで良く立ち寄っているのは噂で聞いていたけれど、まさか生きているうちにお目にかかれるとは思っていなかったよ」
ご機嫌な様子で店を後にしたジュディスを見送った二人は顔を見合わせ話し合う。
こうして隣国の王女様の挑戦状を見事クリアーしたアイリスの噂はオルドーラ王国に帰ったジュディスの話を聞いた人々の間で広まり、同盟国であるザールブルグ王国にまで広く伝わったのであった。
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