上 下
54 / 124
ライゼン通りのお針子さん4  ~光と影の潜む王国物語~

四章 アイリスの思うままに

しおりを挟む
 レイヴィンから注文を受けた後アイリスは悩んでいた。

「う~ん。特別部隊の隊服か……特別っていうのだから普通の騎士団の隊服ではだめなのよね。となるとどんな感じが良いのかしら。レイヴィンさんは丈夫で頑丈だけど動きやすくしなやかな服が良いって言っていたけれど……」

「アイリスただいま。……どうしたの?」

悩み続けていると在庫の品を発注に行っていたイクトが戻ってくる。

「あ、イクトさんお帰りなさい。実は先ほどレイヴィンさんが来て、特別部隊の隊服を作ってくれと頼まれたんです」

「特別部隊の……それで、アイリスは悩んでいたんだね」

彼女の話を聞いた彼が優しい声音で尋ねるように言う。

「はい。特別部隊がどの様なお仕事をなさるのかは知りませんが、特別と言われるほどですから普通の隊服ではだめな気がして……それでどんな生地で如何作ればいいのだろうと考えていたんです」

「そうだね、確かに特別部隊という程だから普通の隊とは違うと思う。だけどね、アイリス。俺はいつも通りアイリスの思うままに作ってみたらいいと思うよ」

「私の思うままに……ですか」

困ったといった顔で語るアイリスへとイクトが柔らかく微笑み安心させる声音で話す。それを聞いた彼女は小さく呟き思案する。

「うん。アイリスが見たままの隊長達の特別部隊の隊服を考えればいいと思う」

「私、やれそうな気がしてきました。早速作ってみます」

彼の言葉でアイデアがまとまったアイリスは早速作業部屋へと籠る。

「……特別部隊が組まれたという事はあの噂は本当だったんだな。……アイアンゴーレム、か」

アイリスが作業部屋へと籠ったことを確認するとイクトが怒りと悲しみに瞳を揺らしながら小さく呟きを零す。

その姿を彼女が見たら驚いていたかもしれないが、彼がこんな姿をアイリスの前でさらすことはない。心の内に秘めた傷跡を彼女に語る日が来るのは全てに覚悟を決めた時となるのであろう。

そのころ作業部屋へと籠ったアイリスは沢山の生地の中かからお目当ての品を探す。

「あ、あった。不死鳥の布に竜神の髭糸。それから鳳凰の瞳……よしこれなら」

ソフィーが錬金術で作り上げた最上級の布と糸とボタンを取り上げると、生地を型紙にあてて裁断していく。

そうして見本用にと切り上げたそれを一針一針丁寧に縫い上げ形を整えていった。

「最後にボタンを付けて……うん、できた」

「お疲れ様。うん、いつも通り安心してみていられるお仕事だったよ」

見本用に造り上げた隊服が出来上がるとイクトがそっと紅茶とクッキーの入った盆を差し出す。

「あ、イクトさん。でもまだこれから百着分を縫い上げないといけないんです」

「そうだね。俺も縫い上げるのを手伝うよ。それと、さっき隊長がやって来てね隊員達の型紙を起こすのにこれを使ってくれと、データを貰ったよ」

彼に気付いた彼女が笑顔で振り返るとイクトが手伝うと言いメモ用紙を差し出す。

「レイヴィンさんわざわざ持ってきてくださったんですね」

「うん。どんなものが出来上がるのかとても楽しみにしているそうだよ」

アイリスはそれを受け取りながら言うと、彼がレイヴィンの言葉を伝える。

「私頑張ります」

「俺も一緒に頑張るから二人で仕上げよう」

「はい」

意気込む彼女へとイクトも微笑み語った。それを聞いたアイリスは笑顔で答える。

こうしてお店が閉店する時間まで二人で作業部屋へと籠り服を縫い上げた。

それから毎日お店へと訪れるお客の対応はイクトがやってくれて、アイリスは一日中作業部屋へと籠り隊服を仕立て上げる。彼も手が空いている時は服を縫い上げるのを手伝ってくれてあっという間に百着分の隊服を作り上げてしまった。

「出来た!」

「お疲れ様。よくこの短期間で全ての服を完成させられたね」

「イクトさんが手伝ってくださったからですよ」

依頼の品全てを縫い上げ終えると疲れにより机に突っ伏してしまうアイリスへとイクトが微笑み賛嘆する。それに彼女はいつも通り彼のおかげだと話した。

「俺は隊長に伝えに行ってくるから、アイリスは少し休憩しておいで」

「はい」

イクトが言うとアイリスは答える。それを見届けると彼は作業部屋を出て行った。

「……私、また隊服百着作れちゃったんだ」

目の前に縫い上げた隊服が広がっている様子を見ながら彼女は呟く。隊服百着なんてジャスティンに頼まれた時以来だからちゃんとできるだろうかと少し不安だったのだがこうして作り上げることが出来た事に達成感に頬が緩む。

「後は、これをレイヴィンさんが気に入ってくれるかどうかよね」

そう呟くとイクトに言われたとおり休憩するべく簡易台所へと向かって作業部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!

るっち
ファンタジー
 土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた
ファンタジー
 起きると、そこは森の中。パニックになって、 周りを見渡すと暗くてなんも見えない。  特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。 誰か助けて。 遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。 これって、やばいんじゃない。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...