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ライゼン通りのお針子さん4 ~光と影の潜む王国物語~
三章 特別部隊の隊服大量注文
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レイヴィンとディッドがレオを連れ戻しに来た翌日。再び彼等がお店へとやって来る。
「邪魔するよ」
「はい。あ、昨日の……」
扉を開いて入ってきたのはレイヴィンでアイリスは側に寄りながら口を開く。
「昨日は騒がせてしまって申し訳なかったね。君がアイリスだね。……なるほど、確かに面影はあるな」
「あの、本日はどういったご用件で?」
彼女の顔をまじまじと見詰めて悲しげに瞳を揺らす彼の様子に気付かずにアイリスは尋ねた。
「今日は君の腕を見込んで服を仕立ててもらいに来たんだよ。王国では今選りすぐりの人材を集めた特殊部隊が結成されててね、その隊員達の制服を君に仕立ててもらいたいんだ。どんな風に作るかは君に任せるが、国を守る騎士団の制服だ丈夫で頑丈だけど動きやすくてしなやかな物を頼みたい」
「分かりました。作ってみます」
レイヴィンの言葉にアイリスはメモを取りながら返事をした。
「あ、ちょっと隊長。またこんな所で油を売って……城に戻ってください」
「よぅ、ディッド。奇遇だな。それから油を売っていたわけじゃない。彼女に隊員達の服を依頼していたところだ」
扉が開かれ入ってきた騎士団の男性が彼を睨み話す。それにレイヴィンがにこりと笑い説明した。
「あんたがついていないと、レオ様がまたどこかに遊びに行ってしまいますよ」
「大丈夫。今日はソフィーと一緒に例のお部屋で缶詰だから」
「また彼女にしょうもない依頼頼んだんですね……」
「俺が頼むより彼女が頼む方のが聞いてくれるからね」
「……」
「あ、あのぅ……ソフィーさんとお知り合いなのですか?」
二人の会話を聞いていて気になったのでアイリスは尋ねる。
「俺とソフィーとは相思相愛の仲なんだ」
「えぇっ!?」
「あ~。隊長の話を真に受けないで……ソフィーさんにはよく錬金術のアイテムを依頼するんです」
レイヴィンの言葉に彼女は頬を赤らめ盛大に驚く。そこに半眼になった男性が説明した。
「そういえばまだ自己紹介していなかったですよね。オレはディッド。ここにいる隊長の補佐兼右腕を務めています」
「改めて自己紹介するのも何だか変な感じだが、俺はレイヴィン。王国騎士団第一部隊隊長を務めている」
「私はこの仕立て屋の店長のアイリスです」
ディッドといった男性に続けてレイヴィンも改めて名乗る。アイリスも自己紹介した。
「!? ……君がアイリスちゃん。そうか……君がミラさんのお孫さんなんだね」
「私のお婆ちゃんのことご存じなのですか?」
ディッドが盛大に驚くと悲しげに瞳を曇らせる。その様子に気付かずにお婆ちゃんの事を知っているのかと問いかけた。
「あ、あぁ……ミラさんにはとても良くしてもらったよ」
「この国でミラさんの事を知らない人はいないよ。あの人はとても温かく優しい人だった。困っている人を見ると放っておけないほど親切で、親身になってくれた。皆にとって母の様な人だったからね」
「そうなんですね、私お婆ちゃんの事何も知らなくて。でも、この国の人達はお婆ちゃんのことよくご存じなんですね」
二人の話にアイリスは何一つ知らない事に悲しげに語る。
「そりゃあ……ミラさんの事は皆の心にいつまでも残ってるよ」
「ディッド、これ以上は守秘義務だ。とにかく、アイリスと同じで頑張り屋さんで真面目で誰かのために一生懸命な人だった。だから君がミラさんのお店を受け継いだと聞いて皆で君のお店を守りたいと思っているんだよ。ミラさんのお店を受け継いだ君の事をこの国の人達は皆、見守りたいんだ。お節介かもしれないけれどね」
「私、この国の人達の為になれているんでしょうか」
ディッドが何か言いかけたがそれを止めるようにレイヴィンが口を開いて話を逸らす。それに気づかずに彼女は街の人達の為になれているだろうかと不安そうに呟く。
「それは勿論。このお店に来る人達を見ればわかるだろう」
「……はい。私皆さんに喜んでもらえるようにもっともっと頑張ります」
彼の言葉にアイリスはこのお店に来てくれる人達の顔を思い浮かべ笑顔に戻り答える。
「それじゃあ、依頼の品頼んだよ。急いではいるが大量注文だからな、出来た頃にイクトに頼んで連絡してくれればいい」
「畏まりました」
レイヴィンが言うと彼女は返事をした。それを見届けると二人はお店を後にする。
「……あの子がミラさんのお孫さんですか」
「レオ様がこの店に入り浸る理由が分かっただろう」
「はい。オレも、あの子の事を知ってしまったら放っておくわけにはいかないです」
「なんだろうな。皆が皆、あの日から動けずにいた。時が止まってしまったかのように。だけど、アイリスがこの国へとやってきてくれて、少しずつ皆の時が動き始めたんだ。それはきっといいことだ。そして、皆が皆、あの出来事を後悔している。その罪を償うかのように皆アイリスを助けたいのさ。イクトもマルセンもレオ様もソフィーもポルトもハンスだって。そして俺達もまた、な」
「そうですね……」
店の外へと出た二人が小声でそう話し合ったことをアイリスが知ることはない。
「邪魔するよ」
「はい。あ、昨日の……」
扉を開いて入ってきたのはレイヴィンでアイリスは側に寄りながら口を開く。
「昨日は騒がせてしまって申し訳なかったね。君がアイリスだね。……なるほど、確かに面影はあるな」
「あの、本日はどういったご用件で?」
彼女の顔をまじまじと見詰めて悲しげに瞳を揺らす彼の様子に気付かずにアイリスは尋ねた。
「今日は君の腕を見込んで服を仕立ててもらいに来たんだよ。王国では今選りすぐりの人材を集めた特殊部隊が結成されててね、その隊員達の制服を君に仕立ててもらいたいんだ。どんな風に作るかは君に任せるが、国を守る騎士団の制服だ丈夫で頑丈だけど動きやすくてしなやかな物を頼みたい」
「分かりました。作ってみます」
レイヴィンの言葉にアイリスはメモを取りながら返事をした。
「あ、ちょっと隊長。またこんな所で油を売って……城に戻ってください」
「よぅ、ディッド。奇遇だな。それから油を売っていたわけじゃない。彼女に隊員達の服を依頼していたところだ」
扉が開かれ入ってきた騎士団の男性が彼を睨み話す。それにレイヴィンがにこりと笑い説明した。
「あんたがついていないと、レオ様がまたどこかに遊びに行ってしまいますよ」
「大丈夫。今日はソフィーと一緒に例のお部屋で缶詰だから」
「また彼女にしょうもない依頼頼んだんですね……」
「俺が頼むより彼女が頼む方のが聞いてくれるからね」
「……」
「あ、あのぅ……ソフィーさんとお知り合いなのですか?」
二人の会話を聞いていて気になったのでアイリスは尋ねる。
「俺とソフィーとは相思相愛の仲なんだ」
「えぇっ!?」
「あ~。隊長の話を真に受けないで……ソフィーさんにはよく錬金術のアイテムを依頼するんです」
レイヴィンの言葉に彼女は頬を赤らめ盛大に驚く。そこに半眼になった男性が説明した。
「そういえばまだ自己紹介していなかったですよね。オレはディッド。ここにいる隊長の補佐兼右腕を務めています」
「改めて自己紹介するのも何だか変な感じだが、俺はレイヴィン。王国騎士団第一部隊隊長を務めている」
「私はこの仕立て屋の店長のアイリスです」
ディッドといった男性に続けてレイヴィンも改めて名乗る。アイリスも自己紹介した。
「!? ……君がアイリスちゃん。そうか……君がミラさんのお孫さんなんだね」
「私のお婆ちゃんのことご存じなのですか?」
ディッドが盛大に驚くと悲しげに瞳を曇らせる。その様子に気付かずにお婆ちゃんの事を知っているのかと問いかけた。
「あ、あぁ……ミラさんにはとても良くしてもらったよ」
「この国でミラさんの事を知らない人はいないよ。あの人はとても温かく優しい人だった。困っている人を見ると放っておけないほど親切で、親身になってくれた。皆にとって母の様な人だったからね」
「そうなんですね、私お婆ちゃんの事何も知らなくて。でも、この国の人達はお婆ちゃんのことよくご存じなんですね」
二人の話にアイリスは何一つ知らない事に悲しげに語る。
「そりゃあ……ミラさんの事は皆の心にいつまでも残ってるよ」
「ディッド、これ以上は守秘義務だ。とにかく、アイリスと同じで頑張り屋さんで真面目で誰かのために一生懸命な人だった。だから君がミラさんのお店を受け継いだと聞いて皆で君のお店を守りたいと思っているんだよ。ミラさんのお店を受け継いだ君の事をこの国の人達は皆、見守りたいんだ。お節介かもしれないけれどね」
「私、この国の人達の為になれているんでしょうか」
ディッドが何か言いかけたがそれを止めるようにレイヴィンが口を開いて話を逸らす。それに気づかずに彼女は街の人達の為になれているだろうかと不安そうに呟く。
「それは勿論。このお店に来る人達を見ればわかるだろう」
「……はい。私皆さんに喜んでもらえるようにもっともっと頑張ります」
彼の言葉にアイリスはこのお店に来てくれる人達の顔を思い浮かべ笑顔に戻り答える。
「それじゃあ、依頼の品頼んだよ。急いではいるが大量注文だからな、出来た頃にイクトに頼んで連絡してくれればいい」
「畏まりました」
レイヴィンが言うと彼女は返事をした。それを見届けると二人はお店を後にする。
「……あの子がミラさんのお孫さんですか」
「レオ様がこの店に入り浸る理由が分かっただろう」
「はい。オレも、あの子の事を知ってしまったら放っておくわけにはいかないです」
「なんだろうな。皆が皆、あの日から動けずにいた。時が止まってしまったかのように。だけど、アイリスがこの国へとやってきてくれて、少しずつ皆の時が動き始めたんだ。それはきっといいことだ。そして、皆が皆、あの出来事を後悔している。その罪を償うかのように皆アイリスを助けたいのさ。イクトもマルセンもレオ様もソフィーもポルトもハンスだって。そして俺達もまた、な」
「そうですね……」
店の外へと出た二人が小声でそう話し合ったことをアイリスが知ることはない。
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