ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記~

水竜寺葵

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ライゼン通りのお針子さん4  ~光と影の潜む王国物語~

一章 幼馴染との再会

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 春の陽気に包まれるある日、仕立て屋アイリスの扉が開かれる。

「ここが……仕立て屋アイリス」

入ってきた青年が緊張した面持ちで周囲を見回した。

「いらっしゃいませ。仕立て屋アイリスへようこそ……って、えっ?」

「やぁ、アイリス。久しぶりだね。元気そうで良かった」

お客が来たことを知らせる呼び鈴に対応しようと店頭へと出てきたアイリスは驚いて固まる。目の前に立つ青年が優しく素朴な微笑みを浮かべた。

「キース!?」

「ははっ。驚いたようだね。アイリスがお針子のライセンスを取得するって言って別れた日からずっと会っていなかったけれど、立派な店長さんになったと噂はかねがね聞いているよ」

「おや、アイリスのお友達かな」

驚く彼女へと青年が微笑み語る。彼女の声に反応してイクトもやって来ると彼へと向けて尋ねた。

「はじめまして、僕はキース・ブライン。この度コーディル王国騎士団第十三番隊部隊の隊員として移籍してきました。しばらくの間はこの街に滞在しますのでよろしくお願い致します」

「王国騎士? それじゃあキースは本当に夢をかなえたのね」

キースと名乗った青年へとアイリスが瞳を見開いて尋ねる。

「うん。アイリスがお針子になるんだって言って故郷を飛び出していった後、僕も王都の騎士養成学校に入ったんだ。卒業とともにそのまま王都で働いていたのだけれど、コーディル王国から要請が来てこの国の騎士団に移籍したんだよ」

「そうか、そうなんだ……」

彼の説明を聞いて納得したアイリスはイクトへと視線を向けた。

「あ、イクトさんキースは私の故郷で家が隣通しだったんです。それで幼いころからよく一緒に遊んでいたの」

「幼馴染というわけだね。それでいつになくアイリスが嬉しそうなわけだ」

彼女の説明を聞いて納得した彼が微笑む。

「お互い王都に行ってからは一度も会っていなかったので、まさかこの国で再会できるとは思っていませんでした」

「僕も君の噂を聞いていなかったらずっと知らないままだったろうね。アイリスの仕立ての腕については王都でも有名だったんだ。仕立て屋の世界に若き女流のお針子が入ったっそうだ。彼女が次の時代を担う仕立て屋業界の革命者になるに違いないってね」

アイリスが言うとキースも語る。

「そ、そんな革命者だなんて大げさな……」

「相変わらず謙遜だね。アイリスの仕立ての腕は確かなんだよ。だから噂になる。僕もこの国に来ることがあれば必ず君のお店に顔を出そうって思っていたんだよ。アイリスのお店をこの目で実際に見て見たかったからね」

慌てて首を振る彼女へと彼が優しく微笑み話す。

「私も久しぶりにキースに会えて嬉しい。しばらくはこの国にいるのならまた遊びに来てね」

「勿論そのつもりだよ。とはいえ騎士としての仕事が忙しくなってきたら中々顔を出せなくなるかもしれないけれど、時間を見つけたらここに来るようにするよ」

穏やかに話し合う二人を見守っていたイクトが口を開く。

「アイリスもキース君に会うと元気を貰えるみたいだからまた顔を出してもらえると助かる」

「分かりました。僕もお仕事頑張るから、アイリスもお店頑張てね」

「うん。またね」

彼の言葉にキースが答えると笑顔で別れの言葉を述べる。その様子にアイリスも満面の笑みを浮かべて見送った。

「ふふ、あの泣き虫キースが王国騎士とはね~」

「お互い久々に再会できて嬉しそうだったな。アイリスもいつになく楽しそうだったしね」

彼が出て行った扉を見詰め微笑む彼女へとイクトがそっと声をかける。

「そりゃあ、やっぱり同じ故郷の出身者と出会えたら嬉しくなっちゃいますよ。キースも立派に夢をかなえて王国騎士団で頑張っているみたいだし、私も負けていられないよね。よ~し。今日もお仕事頑張るぞ」

「ははっ。やる気十分のようだね。それじゃあそろそろ仕事に戻ろうか」

「はい」

二人で会話を交わすとアイリスは受け持っている依頼の品を作る為作業部屋へと入り、イクトはカウンターで作業をして過ごす。

久々の幼馴染との再会を果たしたアイリスはいつになくご機嫌に仕事をこなしたのである。

次に会ったらどんな話をしようかと考えながら、彼女はこの日一日の作業を続けた。

「……アイリス元気そうだったな。それに、ずいぶんと会っていない間に成長していた。僕も、もっともっと頑張らないとな」

お店の外に出たキースがそっと独り言を呟く。久々に再会した彼女が大きく成長していたことに感化されたようだ。

「おっと、いけない。そろそろお城に戻らないと。午後から王国騎士団と冒険者は全員召集を受けているんだった。……伝説の冒険者か。一体どんな人なんだろう」

平和な王国コーディルにも不穏な空気が流れ始めていたが、アイリスがそのことについて知る事になるのはもう少し後になってからである。
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