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ライゼン通りのお針子さん3 ~誉れ高き職人達~

十三章 職人達の誇り

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 翌朝。台所の扉が開かれソフィー達が自信満々な笑顔で出てくる。

「出来たわよ。さぁ、後は頼むわね」

「分かりました。任せて下さい」

彼女の言葉にアイリスも力強く頷く。そうして出来上がった素材を受け取ると段取りを決めたとおりにアイリスは服を縫い合わせ、イクトはアクセサリー類や細かい作業を行い、イルミーナと助手の二人は裁断と裏地を担当し手際よく仕上げていった。

「で、出来た!」

そうして完成した服を見詰め職人達は達成感に顔をほころばす。

トルソーには王様が着る事を想定して仕立て上げた礼服がかけられており、鮮やかな赤い色のマントには白いファーが縁取り、ジャケットはよく見ると薄っすら縦縞模様が入った深緑色。スカーフは紫色でそれを留めるブローチは銀の台座にエメラルドが煌く。絹で出来た白いワイシャツに黒のズボンのボタンには彫刻が施されたような王家の家紋が浮かび上がる。裏地にも力が込められておりマントは薄い赤色で、ジャケットはリバーシブルになっていて薄茶色。袖を折り返すと表の色である深緑色がワンポイントとなる仕組みであった。

「ソフィーさん達が頑張ってくださったのでとても良いものが出来ました。有難う御座います」

「いいえ、アイリスの頑張りが良かったのよ」

「そんな、イルミーナさん達が私の縫い上げた服に合わせて裏地を作ってくださったおかげです」

「イクトさんって手先起用なんですね。あっという間にアクセサリーが出来上がってしまってびっくりしました」

「おいらも頑張ったけど皆が頑張ったおかげだよ」

「まぁ、皆お疲れ様ってことで」

職人達が力を合わせて作り上げたどこにもない世界でたった一つの逸品が完成し皆誇らし気にそして満足気に微笑みお互いを称え合う。

それから献上の品が出来上がったと大臣に報告すると一週間後の健国際に間に合うように作ってくれればいいと考えていた程度だったのに、まさかこんなにも早く完成するとは思わなかったと驚きすぐに国王様に知らせると言って部屋を出て行く。

話しを聞いた王様から伝達があり職人達は一度家へと帰され健国際の日に再び謁見の間に集められた。

「うぅ……ついに献上の日か。緊張します」

「大丈夫。いつも通りに、ね」

これから式典が行われ献上の品を国王陛下へと賜るという事になると考えると緊張でがちがちに固まってしまうアイリスへとイクトが優しく穏やかな声で大丈夫だと安心させる。

「国王陛下、ジョルジュ王子、シュテリーナ王女のおな~り~」

わきに控えていた兵士が大きな声で言うとファンファーレが鳴り響き軽やかな音楽と共に王様達が謁見の間へと入り玉座へと立つ。

それから式典は滞りなく行われついに献上の品を手渡す瞬間となった。

「国王様。こちらが職人達が作り上げた献上の品になります」

大臣が高級そうな箱に収めた献上の品を差し出す。国王はそれを受け取ると暫く黙って箱を見詰めた。

「ど、どうしたんだろう?」

その様子に不安になりながらアイリスは固く両手を握りしめる。

「今すぐ箱を開けて中を見せよ」

「え? は、はい。畏まりました」

如何したのかと見守っていると国王がそう言って大臣も訝しげな顔をしたがすぐに箱を開け中を見せた。

「……うむ。なるほど」

中に入っていた服を手に取り細部まで細かく見ると納得したように独り言を零す。

「今すぐこの服を着る」

「え? い、今すぐにですか?」

国王の言葉に驚いて聞き返す大臣に大きく頷くも返事もしないで奥へと引き込む。

「王様如何されたのでしょうか」

「まぁ、心配しないで様子を見守ろう」

突然部屋を出て行った王様の様子に驚くアイリスにイクトがそっと声をかける。

数分後戻ってきた王様が着ていたのは献上された品。それを身にまとった彼の顔はとても嬉しそうに微笑んでいた。

「われはこの献上の品とても良く気に入った。この服には細部まで職人達のこだわりを感じる。このような品は世界中のどこを探しても見つからないであろう。この服を作り上げた職人達の腕は見たらわかる。其方等はこの国一の……いいや世界一の誉れ高き職人達であるとここに宣言しても良い。実に良い品を有り難う。ここに集まった職人達に盛大な拍手を」

国王の言葉に会場にいた人達からの割れんばかりの盛大な拍手が巻き起こりアイリスは驚く。

こうして国王様からお褒めの言葉を貰った職人達は国への献上品の納品の依頼を見事達成したのである。

後日。日常へと戻った仕立て屋にお客が訪れた。

「失礼する」

「いらしゃいませ。あ、レオさんお久しぶりです」

お客が来たことを知らせる呼び鈴に反応し作業部屋から店内へとやって来たアイリスはレオの顔を見て微笑む。

「この間の健国際で服の案を考えたのは君だと聞いたよ。流石はアイリス殿。見事な腕前だったな」

「そ、そんな。私の書いたデッサン画を見てソフィーさん達が頑張って作ってくれたからです。ですからこれは私一人の実力というよりも皆さんのおかげなんです」

彼の言葉に慌てて手を振って答えているとお店の扉が開かれる。

「お父様、自分達にはあまり城を抜け出してフラフラするなと言うくせに一人だけ抜け駆けしてずるいですよ」

「そうですわ。わたし達には駄目だというのに、自分だけお城を抜け出してアイリスさんのお店に行くなんて酷いです」

「おや、バレてしまったか」

入ってきたジョルジュとシュテリーナがレオへと向けて不貞腐れた顔で話す。その言葉に彼が笑って答える。

「え? お父様ってまさかレオさんは……お、王様!?」

「アイリス本当に気づいていなかったのかい? 俺はてっきり知っていてあえて普通に接しているのだとばかり」

驚く彼女の言葉にイクトもまさかといった顔で尋ねた。

「はははっ。アイリス殿はわしの正体にまったくと言っていいほど気付いていなかったからな。まさかこのような形でバレてしまうとは思わなかったが」

「言われてみればこの前お会いした王様のお顔と同じなような気が……」

「アイリス殿。わしが王様でも変に畏まったり敬ったりしないでほしい。ここに来ている間はただのレオとして見てくれないかな」

改めてレオの顔を見て王様と同じだと納得していると、真面目な顔で彼がお願いする。

「分かりました。レオさんが王様だとしても仕立て屋アイリスの大切なお客様に変わりはありません。これからも店主とお客様としてよろしくお願い致します」

「ああ。有り難う。君ならそう言ってくれると思っていたよ」

笑顔で了承するアイリスの言葉にレオも嬉しそうに微笑む。

こうしてこれからも国王様は城を抜け出しお忍びで仕立て屋アイリスへと度々訪れるようになるのであった。
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