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ライゼン通りのお針子さん3 ~誉れ高き職人達~

十二章 国からの依頼

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 クリスマスに近づいてきたある日の事。仕立て屋アイリスの扉を開けて誰かが入ってきた。

「失礼します」

「いらしゃいま……あ、リリアさん! あれからどうなったのかずっと気になっていたんですよ」

店内へと入ってきたのはリリアで、彼女の姿にアイリスが微笑む。

「以前はご迷惑おかけして本当にごめんなさい。あれからソフィーのお店で暫く働いていたのですが、一人でお店を持つことになったんです。それで、経営が落ち着くまで少し時間がかかってしまって、すぐに顔を出せなくてごめんなさい。これからは私もこの町で錬金術のお店をやっていくので良かったら遊びにいらしてくださいね」

「そうか。リリアお店を持つことになったんだね。今度アイリスと二人で遊びに行かせてもらうよ」

リリアの話を聞いていたイクトが微笑み必ず行くと話す。

「それでは、お店があるので私はこれで失礼します」

「リリアさんお店を経営することになったんですね。良かった」

「あの様子だと記憶が戻ったわけではなさそうだけれど、とりあえず落ち着いて暮らせるようになって良かったよ」

彼女はそれだけ告げると店を後にする。アイリスが良かったと微笑む横で彼も頷く。

「失礼する」

「いらしゃいませ……あの。どのようなご用件でしょうか?」

その時扉を開けて王国騎士団だと思われる男性が店の中へと入ってきた。

「国王陛下より仕立て屋アイリスへと伝令である。今度健国際が開催されるにあたり記念すべきこの日のために職人達を集め国への献上品を作ってもらう運びとなった。その正式な依頼を頼みにやって来た。国王様は君には期待しているとの事だ。よろしく頼む」

「は、はい。分かりました」

騎士団の男性の言葉に返事をすると彼が出て行ってからほぅっと溜息を吐き出す。

「王国から正式に依頼が来たという事はこれから職人達が集められ王宮の一室を使い献上の品を作る事になるのだろう。アイリス。俺も手伝うから安心して」

「はい」

「オーアイリスさん。凄いデすね。私も応援致しまス」

イクトの言葉に返事をしていると独特な口調で話す声が聞こえてきてそちらへと振り返る。

「ミュウさんいつの間に?」

「先ほど来ましタ。お話の邪魔しテは良くないと思い黙ってました。アイリスさんなら大丈夫です。自信持って下さイ」

いつの間にか店内に入って来ていたミュゥリアムの姿に驚くアイリスへと彼女は答えた。

「有難う御座います」

「では、これからアイリスさん大変ダと思うので、今日は帰ります。また遊びにきますネ」

ミュゥリアムは言うと店を出て行く。こうしてアイリスとイクトは王国からの依頼の品を作るという事となり後日王宮へと呼ばれそこに集められた職人達と対面することとなる。

「あら、やっぱりあなた達も呼ばれたのね」

「ソフィーさん。ソフィーさんも選ばれたんですか」

聞こえてきた声に振り向くと微笑むソフィーの姿があった。それにアイリスは近寄り話しかける。

「ええ。私だけじゃないわよ」

「おいらも一緒だよ。お姉さんのお手伝いをするのさ」

「私もお店を構えたばかりですが、その腕は信頼できると言われて選ばれたんです」

彼女の言葉に答えるようにポルトとリリアが話す。

「ソフィーにポルトにリリアが一緒なら今回の品はとても質の良いものが出来そうだな」

「あら、アイリスさんにイクトさんじゃありませんか。あなた達も呼ばれていたのね」

「え、その声は……」

イクトが答えていると女性の声が聞こえアイリスは驚いてそちらへと振り返る。

そこには腕を組み立っているイルミーナと彼女の手伝いをしているレイチェルに弟子のロバートの姿もあった。

「まさかあなた達と手を組むことになるとは思っていなかったけれど、選ばれた以上は仕方ないですからね。共に頑張りましょう」

「本当はアイリスさん達が選ばれるだろうって予想していたんです。共に職人として仕事ができるのを楽しみにしていたんですよ」

相変わらず偉そうな態度で話すイルミーナにアイリスとイクトへとこっそり耳打ちして教えるロバート。

「まぁ、せいぜい先生の足を引っ張らないようにすることですわね」

「兎に角よろしく頼みますよ」

レイチェルが言うとイルミーナもそれだけ告げてこの場を立ち去っていった。

それから暫く経ち集められた職人達の前へと大臣がやって来る。

「おふぉん。……これより陛下よりたわまったお言葉をお伝えする。記念すべき四千年目の健国際において今回ここに集められた職人達の力を合わせて国に献上する品を作ってもらう運びとなった。職人の町らしく職人達の技が光る逸品をぜひ作ってもらいたいとのお言葉だ。これよりここに集まった職人達皆の力を合わせて最高の品を作ってもらう。どのような品を献上するかは職人達に任せるとのおうせだ。国王陛下に献上する品だ心して取り掛かるように。以上」

咳ばらいを一つついた大臣がそう説明するとアイリス達は集められた職人それぞれの顔を見やった。皆どの様な物を作ろうかと言いたげにしているが誰も声を出さない。

「どんなものを作るかは私達に任せるだなんて……一体どうすればいいんでしょうか?」

「そうだね。ここにいる皆の意見を聞いてからどんなものを作るのか決めるという方が良いだろう」

困った顔で口を開いたアイリスの言葉にイクトも話す。

そうして会議をするかのように輪になると話し始めた。

「先に言っておきますけれど、私は仕立て屋よ。服しか作れません」

「私も仕立て屋なので服しか作ったことがないです」

イルミーナの言葉にアイリスも服しか作ったことがないと説明する。

「私は錬金術師だからいろんなものを作れるわ」

「私もです。どんなものでも作れると思います」

ソフィーが言うとリリアも話す。どうやらここにいるメンバーで何でも作れるのはこの二人だけ。アイリスもイルミーナも服しか作れない。

「それならば皆で力を合わせて国王様に献上する服を仕立てたらどうかな。布や糸やボタンにアクセサリーそういった類はソフィーとリリアに作ってもらう。そうして出来上がった素材でアイリス達は服を仕立てる」

「それ、いい考えだとおいらも思うよ。アイリスなら王様が喜ぶ服を作れると思う」

イクトの言葉に真っ先にポルトが賛成する。

「貴女の腕は私も一応は認めています。どんな服を仕立てるのかの案はアイリスさんにお任せしてもよろしいわよ」

「先生がそう言うなら私もアイリスさんに任せます」

イルミーナの言葉にレイチェルも賛成だと話す。

「それじゃあ私とリリアとポルトで素材を創り上げるからそれをアイリスちゃんとイクト君とイルミーナさん達で服に仕立て上げる。……それでいいかしら」

ソフィーの言葉に誰も反対する者はいない。それに頷くとそれぞれの役割分担を決めて早速献上するための品を作る事となった。

「それじゃあ、アイリス。貴女の書いたデッサン画を基に錬金術で素材を作るわ」

「はい。分かりました」

彼女の言葉にアイリスは頷く。その顔は緊張しているようで強張っていた。

「アイリス大丈夫だよ。そんなに緊張しなくても皆がついている。だから、いつも通りに君がお客様に着てもらいたいと思う品を考えればいい」

「イクトさん……分かりました。少し待っていてください」

その様子に気付いているイクトが優しく声をかけると緊張していたはずの彼女の顔に安心したような微笑みが戻る。それから数分後にデッサンを描き上げたアイリスが戻ってきた。

「これでどうでしょうか?」

「流石はアイリスさんですね。これなら国王陛下も喜ぶことでしょう」

「先生が褒めるのですから間違いありませんわ。私もアイリスさんの考えた案でいいと思います」

「僕もそう思います。これならばきっと大丈夫だと思います」

デッサン画を机の上に置くとそれを覗き見ていたイルミーナがにやりと笑い納得する。

レイチェルとロバートも了承した。

「分かったわ。それじゃあ早速このデッサン画を基に錬金術で素材を作って来るわ。リリア、ポルト行くわよ」

「おっけい! おいらにお任せあれ。アイリス達はちょっと待っていてよ。すぐに作って来るからさ」

「私も頑張るからアイリスさん待っていてくださいね」

ソフィーが言うとポルトとリリアがアイリスへ声をかけて部屋の奥に用意されている簡易台所へと向かう。そこには大きなお鍋や錬金術に必要な道具や材料が所狭しと並べられていた。

「さあ、久々に頑張らなくちゃね。ポルト、リリアやるわよ」

「うん。まっかせてお姉さん」

「よ~し。頑張るぞ」

彼女の言葉に二人は返事をするとそれぞれ役割分担して錬金術で必要な素材を創り上げていく。そうして全ての品が出来上がったのは翌日の朝だった。
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