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ライゼン通りのお針子さん3 ~誉れ高き職人達~
九章 王女様のお忍び
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冬に近づきだんだん寒くなってきた秋の月のある日。
「お邪魔致しますわ」
お店の扉を開いてお人形のように可愛らしい女の子が入って来る。
「いらっしゃいませ。仕立て屋アイリスへようこそ」
「……」
お客の側へとアイリスが近寄ると彼女は興味深そうに店内を見回す。
「ふふ、ドールハウスみたいで可愛いお店ですわね。気に入りましてよ」
「は、はぁ……有難う御座います」
微笑む少女の様子に呆気にとられながら受け答える。
「それで、貴女が店長さんですわね。わたくしの服を仕立ててちょうだいな」
「畏まりました。どのようにお作り致しましょう?」
お客の言葉に答えるとどういった服を希望されているのか尋ねた。
「貴女の腕は確かだと聞いていましてよ。貴女がわたくしに合うドレスを仕立てて下さればそれでいいですわ」
「はい。では寸法を測らせて頂いてもよろしいですか」
さっそく寸法を測ろうとすると少女は得意げに微笑み紙を差し出して口を開く。
「それならご心配なく。メイドに頼んでこちらの紙にわたくしの服を仕立ててくれる職人のデータの一部を書いてきてもらったから」
「は、はぁ……」
差し出された紙を受け取りながら、今までに出会ったことのないタイプのお客の態度に戸惑う。
「では、確かにお願いしましたわよ」
「はい。ご来店有り難う御座いました……イクトさん。今のお客様なんだかすごく身分が高い方のようでしたね」
「そうだね。この国の人ではなさそうだったけれど。君の噂を聞いて他国からもお客様がよくいらしているから、噂を聞いたどこかの国の貴族のご令嬢様がいらっしゃったのかもしれないね」
紙を渡すともう用はないといった感じで店を後にする。そのお客が出て行った扉をしばし眺めながらアイリスは言うとイクトも同意した。
とにかく他国から来たのだとしたらそんなに長くこの国に滞在していることもできないだろうという事で、今日中に依頼されたドレスを仕立てるためにアイリスは作業部屋へと向かう。
「さて、さっきのお客様のドレスか……可愛らしいお顔立ちをしていながらも年よりもしっかりとしている印象だった。どこか高貴な風格も醸し出していたし。隠し切れない気品も漂っていた……でもだからと言って近寄りがたいわけでもなく。本当は年相応の女の子のように過ごしたいけれどそれができない身分……そんな感じに見えたな」
考えながらデッサンを描き上げる。そうして数分後に出来上がったそれを見て材料を選んだ。
「……これをこうして。ここはこうで……最後にリボンを付けて。よし、完成」
出来上がったそれを見て微笑む。そこには肩だしで七分丈の袖の裾には黒い色のレースが使われており、腰はキュッとリボンで引き締めているがパニエをつかい裾の方までふんわりとした可愛らしい積み立ての真っ赤なバラの花のようなドレスがトルソーにかけられていた。
「お客様喜んでくれるといいな」
独り言を呟くと出来上がったドレスをイクトに見てもらおうと店内へと向かう。
それから翌日。昨日のお客がお店へとやって来る。
「お邪魔致しますわね」
「はい。あ、昨日の……」
「わたくし本日この国を立ちますの。ですから昨日頼んだドレスが仕上がっていたら持って帰りたいのですわ」
お店に入ってきた少女を見てアイリスは近寄っていった。彼女に気付いたお客もそう言ってドレスの事を尋ねる。
「はい。少々お待ちください」
直ぐに棚から籠を出すと少女の前へと持って行く。
「こちらになります」
「まぁ。目に鮮やかな赤い色で素敵ですわね。わたくしに似合うかしら? 早速試着させて頂きますわよ」
お客は言うと試着室へと入っていってしまい、気に入って頂けるだろうかとアイリスは緊張しながら様子を窺う。
「いかがでしょうか?」
「とても明るい色でわたくしに似合うか心配だったのですけれど髪の色と肌の白さが際立ってとてもいい感じですわ。それに実はわたくしこういう可愛らしいドレスも一度着てみたいと思っていましたの。ですが。ただ可愛いだけだとわたくしには似合わなくてでもこれならわたくしにぴったりですわね。お噂に聞く腕前感心しましてよ」
「良かった……」
試着室の中から少女が嬉しそうに声をあげる。その言葉を聞いて安堵の溜息を零すと微笑む。
「とても気に入りましたわ。これ頂けるかしら」
「はい。今伝票をお持ち致しますね」
試着室から出てきたお客の言葉にアイリスはカウンターへと向かう。
「こんにちは。アイリスさん今日はわたしに合う服を仕立てて貰えませんか?」
「こんにちは。僕も服を仕立てて頂きたいのですが」
そこにやって来たジョルジュとシュテリーナが服を仕立ててくれと頼む。
「あら、ジョルジュ王子、それにシュテリーナ王女ご機嫌よ」
「「あっ?!」」
「お二人ともお知り合いですか?」
挨拶をする少女の顔を見た二人が驚くとイクトが尋ねる。
「エレス王女どうしてこちらに?」
「お供も連れずにここにお一人でいるのですか?」
「え? 王女様!?」
ジョルジュとシュテリーナが言った言葉に伝票をもってきたアイリスも驚いて目を大きく見開く。
「これは申し遅れましたわ。わたくしはエレス・ロイヤル・ランディン。ランディン王国の第一王女です」
「ランディン王国って言うと海の向こうの大陸の国だと聞いているけど、そんな遠いところからわざわざいらしたのですか?」
「ええ。アイリスさんのお噂はかねがねお聞きいたしておりましたので興味がありましたの。ですからお忍びでこの国に来たのですわ。まさかジョルジュ王子とシュテリーナ王女もここの常連だとは思いませんでしたけれど」
自己紹介する王女の言葉にイクトが驚いて問いかける。それにエレスは小さく頷き答えた。
「お付きの者も連れずにですか?」
「あら、お二人もお供を連れて着ていらしゃらないじゃありませんの。わたくしが一人でこのお店に来て何かおかしなことでもありまして?」
「いや、でもお忍びとはいえ共に同行している人はいるはず。まさか一人でここまで来たなんてことはないですよね?」
ジョルジュの言葉に不思議そうに首を傾げ説明する彼女へとシュテリーナも尋ねる。
「お忍びでってことにしていますので国に帰る時に迎えが来る以外わたくしと行動を共にする者はおりませんわ。護衛なんてついていたらすぐに王女だってばれてしまいますでしょ。一人で行くという事を、お父様が許してくださらなくて、一泊二日の滞在を何とか許していただいたのですわ。ですから本当はもう少しゆっくりしていたいのですけれど時間が無くて……またゆっくりできるときにお邪魔致しますわね」
説明してくれた言葉に納得した様子のジョルジュとシュテリーナ。イクトとアイリスは驚いたまま状況を飲み込めなくて苦笑する。
「アイリスさん。是非とも一度わたくしの国にも遊びにいらしてくださいな。貴女ならいつでも歓迎いたしますわ」
「は、はい。行く機会がありましたら寄らせて頂きますね」
絶対にないだろうとは思いながらここで変な顔をするのは良くないと思いにこりと笑い頷く。
「それではわたくしはそろそろ迎えが来るので行かないといけません。ジョルジュ王子。シュテリーナ王女。今度はジョルジュ王子のお誕生日の日にお父様と一緒にお祝いをしに来ますわ。その時はもう少しゆっくりして行けれると思います」
「分かりました。また遊びにいらしてくださいね」
「お会いできる日を楽しみにしています」
エレスの言葉に二人がにこりと笑い答える。そうして彼女がお店を出て行った後アイリスはジョルジュとシュテリーナへと顔を向けた。
「先ほどは驚いてしまいお話しできなかったのですが、えっとお洋服を仕立てれば宜しいんでしょうか」
「はい。普段着る服が小さくなってしまい着れなくなったので、この際アイリスさんにお願いしようと思いまして」
「わたしもお気に入りの服が着れなくなってしまったので、新しいのを仕立ててもらおうと思ったんです」
彼女の言葉に二人は答える。それに了承し依頼を受けると楽しみだと言ってジョルジュとシュテリーナは帰っていった。
その後帰国したエレス王女が仕立て屋アイリスで依頼をしたという話があっという間に広がり大陸中でコーディル王国には腕の良い仕立て人がいるという噂が広まったそうである。
「お邪魔致しますわ」
お店の扉を開いてお人形のように可愛らしい女の子が入って来る。
「いらっしゃいませ。仕立て屋アイリスへようこそ」
「……」
お客の側へとアイリスが近寄ると彼女は興味深そうに店内を見回す。
「ふふ、ドールハウスみたいで可愛いお店ですわね。気に入りましてよ」
「は、はぁ……有難う御座います」
微笑む少女の様子に呆気にとられながら受け答える。
「それで、貴女が店長さんですわね。わたくしの服を仕立ててちょうだいな」
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「貴女の腕は確かだと聞いていましてよ。貴女がわたくしに合うドレスを仕立てて下さればそれでいいですわ」
「はい。では寸法を測らせて頂いてもよろしいですか」
さっそく寸法を測ろうとすると少女は得意げに微笑み紙を差し出して口を開く。
「それならご心配なく。メイドに頼んでこちらの紙にわたくしの服を仕立ててくれる職人のデータの一部を書いてきてもらったから」
「は、はぁ……」
差し出された紙を受け取りながら、今までに出会ったことのないタイプのお客の態度に戸惑う。
「では、確かにお願いしましたわよ」
「はい。ご来店有り難う御座いました……イクトさん。今のお客様なんだかすごく身分が高い方のようでしたね」
「そうだね。この国の人ではなさそうだったけれど。君の噂を聞いて他国からもお客様がよくいらしているから、噂を聞いたどこかの国の貴族のご令嬢様がいらっしゃったのかもしれないね」
紙を渡すともう用はないといった感じで店を後にする。そのお客が出て行った扉をしばし眺めながらアイリスは言うとイクトも同意した。
とにかく他国から来たのだとしたらそんなに長くこの国に滞在していることもできないだろうという事で、今日中に依頼されたドレスを仕立てるためにアイリスは作業部屋へと向かう。
「さて、さっきのお客様のドレスか……可愛らしいお顔立ちをしていながらも年よりもしっかりとしている印象だった。どこか高貴な風格も醸し出していたし。隠し切れない気品も漂っていた……でもだからと言って近寄りがたいわけでもなく。本当は年相応の女の子のように過ごしたいけれどそれができない身分……そんな感じに見えたな」
考えながらデッサンを描き上げる。そうして数分後に出来上がったそれを見て材料を選んだ。
「……これをこうして。ここはこうで……最後にリボンを付けて。よし、完成」
出来上がったそれを見て微笑む。そこには肩だしで七分丈の袖の裾には黒い色のレースが使われており、腰はキュッとリボンで引き締めているがパニエをつかい裾の方までふんわりとした可愛らしい積み立ての真っ赤なバラの花のようなドレスがトルソーにかけられていた。
「お客様喜んでくれるといいな」
独り言を呟くと出来上がったドレスをイクトに見てもらおうと店内へと向かう。
それから翌日。昨日のお客がお店へとやって来る。
「お邪魔致しますわね」
「はい。あ、昨日の……」
「わたくし本日この国を立ちますの。ですから昨日頼んだドレスが仕上がっていたら持って帰りたいのですわ」
お店に入ってきた少女を見てアイリスは近寄っていった。彼女に気付いたお客もそう言ってドレスの事を尋ねる。
「はい。少々お待ちください」
直ぐに棚から籠を出すと少女の前へと持って行く。
「こちらになります」
「まぁ。目に鮮やかな赤い色で素敵ですわね。わたくしに似合うかしら? 早速試着させて頂きますわよ」
お客は言うと試着室へと入っていってしまい、気に入って頂けるだろうかとアイリスは緊張しながら様子を窺う。
「いかがでしょうか?」
「とても明るい色でわたくしに似合うか心配だったのですけれど髪の色と肌の白さが際立ってとてもいい感じですわ。それに実はわたくしこういう可愛らしいドレスも一度着てみたいと思っていましたの。ですが。ただ可愛いだけだとわたくしには似合わなくてでもこれならわたくしにぴったりですわね。お噂に聞く腕前感心しましてよ」
「良かった……」
試着室の中から少女が嬉しそうに声をあげる。その言葉を聞いて安堵の溜息を零すと微笑む。
「とても気に入りましたわ。これ頂けるかしら」
「はい。今伝票をお持ち致しますね」
試着室から出てきたお客の言葉にアイリスはカウンターへと向かう。
「こんにちは。アイリスさん今日はわたしに合う服を仕立てて貰えませんか?」
「こんにちは。僕も服を仕立てて頂きたいのですが」
そこにやって来たジョルジュとシュテリーナが服を仕立ててくれと頼む。
「あら、ジョルジュ王子、それにシュテリーナ王女ご機嫌よ」
「「あっ?!」」
「お二人ともお知り合いですか?」
挨拶をする少女の顔を見た二人が驚くとイクトが尋ねる。
「エレス王女どうしてこちらに?」
「お供も連れずにここにお一人でいるのですか?」
「え? 王女様!?」
ジョルジュとシュテリーナが言った言葉に伝票をもってきたアイリスも驚いて目を大きく見開く。
「これは申し遅れましたわ。わたくしはエレス・ロイヤル・ランディン。ランディン王国の第一王女です」
「ランディン王国って言うと海の向こうの大陸の国だと聞いているけど、そんな遠いところからわざわざいらしたのですか?」
「ええ。アイリスさんのお噂はかねがねお聞きいたしておりましたので興味がありましたの。ですからお忍びでこの国に来たのですわ。まさかジョルジュ王子とシュテリーナ王女もここの常連だとは思いませんでしたけれど」
自己紹介する王女の言葉にイクトが驚いて問いかける。それにエレスは小さく頷き答えた。
「お付きの者も連れずにですか?」
「あら、お二人もお供を連れて着ていらしゃらないじゃありませんの。わたくしが一人でこのお店に来て何かおかしなことでもありまして?」
「いや、でもお忍びとはいえ共に同行している人はいるはず。まさか一人でここまで来たなんてことはないですよね?」
ジョルジュの言葉に不思議そうに首を傾げ説明する彼女へとシュテリーナも尋ねる。
「お忍びでってことにしていますので国に帰る時に迎えが来る以外わたくしと行動を共にする者はおりませんわ。護衛なんてついていたらすぐに王女だってばれてしまいますでしょ。一人で行くという事を、お父様が許してくださらなくて、一泊二日の滞在を何とか許していただいたのですわ。ですから本当はもう少しゆっくりしていたいのですけれど時間が無くて……またゆっくりできるときにお邪魔致しますわね」
説明してくれた言葉に納得した様子のジョルジュとシュテリーナ。イクトとアイリスは驚いたまま状況を飲み込めなくて苦笑する。
「アイリスさん。是非とも一度わたくしの国にも遊びにいらしてくださいな。貴女ならいつでも歓迎いたしますわ」
「は、はい。行く機会がありましたら寄らせて頂きますね」
絶対にないだろうとは思いながらここで変な顔をするのは良くないと思いにこりと笑い頷く。
「それではわたくしはそろそろ迎えが来るので行かないといけません。ジョルジュ王子。シュテリーナ王女。今度はジョルジュ王子のお誕生日の日にお父様と一緒にお祝いをしに来ますわ。その時はもう少しゆっくりして行けれると思います」
「分かりました。また遊びにいらしてくださいね」
「お会いできる日を楽しみにしています」
エレスの言葉に二人がにこりと笑い答える。そうして彼女がお店を出て行った後アイリスはジョルジュとシュテリーナへと顔を向けた。
「先ほどは驚いてしまいお話しできなかったのですが、えっとお洋服を仕立てれば宜しいんでしょうか」
「はい。普段着る服が小さくなってしまい着れなくなったので、この際アイリスさんにお願いしようと思いまして」
「わたしもお気に入りの服が着れなくなってしまったので、新しいのを仕立ててもらおうと思ったんです」
彼女の言葉に二人は答える。それに了承し依頼を受けると楽しみだと言ってジョルジュとシュテリーナは帰っていった。
その後帰国したエレス王女が仕立て屋アイリスで依頼をしたという話があっという間に広がり大陸中でコーディル王国には腕の良い仕立て人がいるという噂が広まったそうである。
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