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ライゼン通りのお針子さん3 ~誉れ高き職人達~
五章 フレイとルーク
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夏祭りも終わりいよいよ秋が訪れようとしていた頃。お店の扉が開かれる。
「やあ。子猫ちゃん。相変わらず可愛いね」
「いらっしゃいませ。ルークさん本日は如何されましたか」
ルークが入って来ると彼に気付いたアイリスが近寄っていった。
「いや~。用事って言う用事はないんだけどさ。子猫ちゃんの顔を見に来たんだ。それより聞いてくれよ。昨日親父が俺の事を伯爵家の跡取りとして正式に決めやがって。迷惑してるんだ」
「そ、それは大変ですね」
愚痴と侯爵家の跡取りにされた事に対しての怒りで不貞腐れた顔で話す彼へと彼女は大変なんだなと同情する。
「子猫ちゃんが気にするような事じゃないさ。でもいいよな。兄貴は自分の好きに生きられて。俺は伯爵家の跡取りになんなきゃいけないんだからさ。俺に全部面倒なこと押し付けやがってよ」
「ちょっと、小鳥さんに変な事吹き込まないでくれるかな」
その時誰かの声が聞こえそちらを見やると引きつった笑顔のフレイの姿があった。
「フレイさん?」
「何が変な事だよ。兄貴こそ本当のこと言われたからって怒るなよな」
「小鳥さんに言う事じゃないだろう」
火花を散らし合う二人の言い争いにアイリスは慌てて口を開く。
「ふ、二人とも落ち着いてください」
「子猫ちゃんに本当のこと言って何が悪いのさ」
「小鳥さんには関係のない事だろう。家の問題を話すんじゃないよ」
止めに入るアイリスの言葉が聞こえていないのか言い争いは激しさを増していく。
「え、ええっと……」
「お客様。他のお客様の迷惑になりますので言い争いなら外でお願いします」
困り果てた時に助け船のようにイクトが声をかけ仲裁する。
「これは、迷惑をかけるつもりはなかったのだけれど小鳥さん達ごめんね」
「子猫ちゃんごめんね。困らせてしまったようだ」
彼の言葉でようやく自分達が迷惑をかけていると気付いて二人は謝った。
「小鳥さん達が困っているから今日の所は引き下がってあげるよ」
「そりゃこっちの台詞だ。子猫ちゃんが困ってるから今日の所はやめてやるが、次会った時は覚悟しとけよ」
二人は睨み合い言い合うとアイリスの方へと向き直る。
「小鳥さん達迷惑をかけてすまなかったね」
「子猫ちゃん迷惑かけてごめんね」
「「……ふん!」」
二人はお互いを睨みやるとそっぽを向いて別々にお店から出て行く。
「……フレイさんとルークさん仲が良くないんですね」
「そうだね。まぁ、複雑な事情があるんだろうからそっとしておいてあげよう」
呆気にとられた顔でアイリスが言うとイクトも同意する。
「ルークさんフレイさんの弟さんだったんですね」
彼女はそう呟きながら納得する。
「でも、こんなこと言ったら二人には悪いですが。フレイさんとルークさんて似てますよね」
「そうだね。兄弟だなって俺も思ったよ」
二人して苦笑を零すと仕事に戻って行った。
それから翌日お店の扉が開かれフレイが部屋へと入って来る。
「小鳥さんこんにちは」
「あ、フレイさん。いらっしゃいませ、如何されましたか」
穏やかな微笑みを湛えた彼がアイリスへと声をかけると彼女はそちらへと近寄っていった。
「昨日は騒がせてお店に迷惑をかけてしまったからね。そのお詫びに来たんだ」
「昨日はビックリしましたが、ルークさんは弟さんだったんですね」
申し訳なさそうな顔で言われた言葉にアイリスは尋ねる。
「ああ。愚弟がこの店で何か迷惑をかけていないかな。もし何かあったらいつでも言ってね」
「ぐ、愚弟って……」
弟を愚弟と罵るフレイの様子にアイリスは苦笑いしか出なかった。
「これ、お詫びの品だよ。受け取ってもらえるかな」
「分かりました。わざわざ有難う御座います」
彼が言うと高級そうな紅茶の詰め合わせの箱を差し出す。お詫びの気持ちなのだからとそれを受け取るとお礼を言う。
「今日は詫びを言いに来ただけだからぼくはもう帰るね。それじゃあ、小鳥さんまた」
「はい。……フレイさんて相変わらずこういうところ律儀よね。気にしなくていいのに」
「やあ、子猫ちゃん。今日も可愛いね」
フレイが帰って行ってから直ぐに店の扉が開かれルークが入って来る。
「ルークさんいらっしゃいませ」
「今日は昨日の詫びをしにきたんだ。子猫ちゃんに迷惑をかけてしまったみたいだからな」
笑顔で出迎えると彼がそう言って近寄ってきた。
「これ、貰ってくれないかな」
「これって……こんな高価なもの頂くわけには」
そう言って彼が差し出してきたのは百%の純度で出来たダイヤモンドの指輪。そんなもの頂けないと言って首を振る。
「子猫ちゃんに迷惑かけた詫びがしたいんだ。是非貰ってくれないか」
「……分かりました。それでは頂きます」
断りづらい雰囲気に仕方なくその指輪を貰う。
「有り難う。今日は詫びをしに来ただけだからまたお店に顔出すな。じゃぁな」
「はぁ……この指輪如何しよう」
ルークが帰っていってしまった後掌にある指輪をどうしようかと悩む。
「とりあえず棚に仕舞っておけばいいかな」
そう結論付けると紅茶の箱を簡易台所へと持って行きイクトに説明する。
「そうか。フレイさんもルークさんも迷惑をかけたお詫びに来てくれたんだね。二人とも律儀だな」
「そうですよね。わざわざお詫びにこなくても気にしないのに」
「よっぽどアイリスに嫌われたくないのかもしれないね」
気にしなくていいのにと語る彼女へと彼がそう言って笑う。
「へ?」
「ははっ。アイリスのお店で迷惑をかけたくないんだろう。君の事をそれだけ慕ってくれているという事だ」
驚くアイリスにイクトが説明した。
「それは、どういう意味ですか?」
「う~ん、そうだな。このお店の事を気に入ってくれているってことだよ」
不思議そうな顔の彼女へと彼が苦笑して説明する。
そうして休憩を終えるとアイリスは作業部屋へイクトはカウンターでお客の相手をして過ごした。
「やあ。子猫ちゃん。相変わらず可愛いね」
「いらっしゃいませ。ルークさん本日は如何されましたか」
ルークが入って来ると彼に気付いたアイリスが近寄っていった。
「いや~。用事って言う用事はないんだけどさ。子猫ちゃんの顔を見に来たんだ。それより聞いてくれよ。昨日親父が俺の事を伯爵家の跡取りとして正式に決めやがって。迷惑してるんだ」
「そ、それは大変ですね」
愚痴と侯爵家の跡取りにされた事に対しての怒りで不貞腐れた顔で話す彼へと彼女は大変なんだなと同情する。
「子猫ちゃんが気にするような事じゃないさ。でもいいよな。兄貴は自分の好きに生きられて。俺は伯爵家の跡取りになんなきゃいけないんだからさ。俺に全部面倒なこと押し付けやがってよ」
「ちょっと、小鳥さんに変な事吹き込まないでくれるかな」
その時誰かの声が聞こえそちらを見やると引きつった笑顔のフレイの姿があった。
「フレイさん?」
「何が変な事だよ。兄貴こそ本当のこと言われたからって怒るなよな」
「小鳥さんに言う事じゃないだろう」
火花を散らし合う二人の言い争いにアイリスは慌てて口を開く。
「ふ、二人とも落ち着いてください」
「子猫ちゃんに本当のこと言って何が悪いのさ」
「小鳥さんには関係のない事だろう。家の問題を話すんじゃないよ」
止めに入るアイリスの言葉が聞こえていないのか言い争いは激しさを増していく。
「え、ええっと……」
「お客様。他のお客様の迷惑になりますので言い争いなら外でお願いします」
困り果てた時に助け船のようにイクトが声をかけ仲裁する。
「これは、迷惑をかけるつもりはなかったのだけれど小鳥さん達ごめんね」
「子猫ちゃんごめんね。困らせてしまったようだ」
彼の言葉でようやく自分達が迷惑をかけていると気付いて二人は謝った。
「小鳥さん達が困っているから今日の所は引き下がってあげるよ」
「そりゃこっちの台詞だ。子猫ちゃんが困ってるから今日の所はやめてやるが、次会った時は覚悟しとけよ」
二人は睨み合い言い合うとアイリスの方へと向き直る。
「小鳥さん達迷惑をかけてすまなかったね」
「子猫ちゃん迷惑かけてごめんね」
「「……ふん!」」
二人はお互いを睨みやるとそっぽを向いて別々にお店から出て行く。
「……フレイさんとルークさん仲が良くないんですね」
「そうだね。まぁ、複雑な事情があるんだろうからそっとしておいてあげよう」
呆気にとられた顔でアイリスが言うとイクトも同意する。
「ルークさんフレイさんの弟さんだったんですね」
彼女はそう呟きながら納得する。
「でも、こんなこと言ったら二人には悪いですが。フレイさんとルークさんて似てますよね」
「そうだね。兄弟だなって俺も思ったよ」
二人して苦笑を零すと仕事に戻って行った。
それから翌日お店の扉が開かれフレイが部屋へと入って来る。
「小鳥さんこんにちは」
「あ、フレイさん。いらっしゃいませ、如何されましたか」
穏やかな微笑みを湛えた彼がアイリスへと声をかけると彼女はそちらへと近寄っていった。
「昨日は騒がせてお店に迷惑をかけてしまったからね。そのお詫びに来たんだ」
「昨日はビックリしましたが、ルークさんは弟さんだったんですね」
申し訳なさそうな顔で言われた言葉にアイリスは尋ねる。
「ああ。愚弟がこの店で何か迷惑をかけていないかな。もし何かあったらいつでも言ってね」
「ぐ、愚弟って……」
弟を愚弟と罵るフレイの様子にアイリスは苦笑いしか出なかった。
「これ、お詫びの品だよ。受け取ってもらえるかな」
「分かりました。わざわざ有難う御座います」
彼が言うと高級そうな紅茶の詰め合わせの箱を差し出す。お詫びの気持ちなのだからとそれを受け取るとお礼を言う。
「今日は詫びを言いに来ただけだからぼくはもう帰るね。それじゃあ、小鳥さんまた」
「はい。……フレイさんて相変わらずこういうところ律儀よね。気にしなくていいのに」
「やあ、子猫ちゃん。今日も可愛いね」
フレイが帰って行ってから直ぐに店の扉が開かれルークが入って来る。
「ルークさんいらっしゃいませ」
「今日は昨日の詫びをしにきたんだ。子猫ちゃんに迷惑をかけてしまったみたいだからな」
笑顔で出迎えると彼がそう言って近寄ってきた。
「これ、貰ってくれないかな」
「これって……こんな高価なもの頂くわけには」
そう言って彼が差し出してきたのは百%の純度で出来たダイヤモンドの指輪。そんなもの頂けないと言って首を振る。
「子猫ちゃんに迷惑かけた詫びがしたいんだ。是非貰ってくれないか」
「……分かりました。それでは頂きます」
断りづらい雰囲気に仕方なくその指輪を貰う。
「有り難う。今日は詫びをしに来ただけだからまたお店に顔出すな。じゃぁな」
「はぁ……この指輪如何しよう」
ルークが帰っていってしまった後掌にある指輪をどうしようかと悩む。
「とりあえず棚に仕舞っておけばいいかな」
そう結論付けると紅茶の箱を簡易台所へと持って行きイクトに説明する。
「そうか。フレイさんもルークさんも迷惑をかけたお詫びに来てくれたんだね。二人とも律儀だな」
「そうですよね。わざわざお詫びにこなくても気にしないのに」
「よっぽどアイリスに嫌われたくないのかもしれないね」
気にしなくていいのにと語る彼女へと彼がそう言って笑う。
「へ?」
「ははっ。アイリスのお店で迷惑をかけたくないんだろう。君の事をそれだけ慕ってくれているという事だ」
驚くアイリスにイクトが説明した。
「それは、どういう意味ですか?」
「う~ん、そうだな。このお店の事を気に入ってくれているってことだよ」
不思議そうな顔の彼女へと彼が苦笑して説明する。
そうして休憩を終えるとアイリスは作業部屋へイクトはカウンターでお客の相手をして過ごした。
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