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ライゼン通りのお針子さん3 ~誉れ高き職人達~
二章 錬金術師の女性の訪問
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しとしとと雨が降り続ける梅雨の時期。仕立て屋アイリスにやってくるお客もまばらなそんな季節に来客が来たことを告げる鈴の音が鳴り響いた。
「いらっしゃいませ。仕立て屋アイリスにようこそ」
「こんにちは。貴女がアイリスちゃんね。ふふ。なるほど確かに面影はあるわね。……イクト君が可愛がるわけだわ」
ミステリアスな雰囲気をまとった女性が店に入って来たかと思うとアイリスを見て呟くと一瞬その瞳が揺らぐ。
「あ、あの……今日はどのような御用で?」
「イクト君に用があったのだけれど、いないみたいね」
「すみません。イクトさん今王様に呼ばれてお城に行っていて戻ってきたらお伝えしておきましょうか?」
女性の言葉に彼女は申し訳なさそうに答える。
「いいのよ。王様に呼び出されたんなら暫く思い出話に花が咲いて戻ってこないだろうから、その件はまた今度にするわ。それよりも貴女に伝えたいことがあってね」
「はい。何でしょう?」
彼女の言葉にアイリスは不思議そうな顔で首をかしげ尋ねた。
「市場にいるハンスの事は知っているわよね。私が彼を借りる事になるから、しばらくの間お店に品物を下ろせなくなるの。その代わりに家のお店で働いている者をこのお店に寄こすから、注文があったら彼に頼んで。彼がこの店に訪問販売にくるからその時に注文の品もついでに届けるように頼むから安心してね」
「は、はい。あの、貴女は……」
いきなり説明しだした女性に一体何者なのかといった顔で見詰める。
「自己紹介が遅れたわね。私はソフィア。皆からはソフィーって呼ばれているわ」
「ソフィーさん。もしかして貴女は……」
その視線に気づいた彼女が自己紹介すると「ソフィー」という名に心当たりがあったアイリスが驚く。
「ええ。王国一の錬金術師って呼ばれている錬金術師とは私の事よ。……何が王国一何だか私には理解できないけれどね。この仕立て屋で使われている素材は全部私が作った物なの。でもしばらくの間用事で国の外に出かけるからその間は私は作れないのだけれど。家で働いている者が代わりに作るから大丈夫よ。……本当はもう一人でも十分にやれるだけの実力があるから独り立ちさせたらよいのだろうけれど、家の店にいたいって言ってくれるから甘えちゃっていてね」
「やっぱり……あの噂の錬金術師のソフィーさんだったんですね」
ソフィ―が語りながら瞳を曇らせる。アイリスは目の前に噂の錬金術師がいる事に目を白黒させた。
「話したいことはそれだけよ。それじゃあまたね。可愛いお針子さん」
「はい。……ソフィーさん噂に聞いていたけれど素敵な女性だなぁ。そんなすごい錬金術師さんが家のお店の素材を全部作っていたなんて……イクトさんとは親しい間柄みたいだけれどお友達なのかな?」
彼女が用件を伝えると店を後にする。一人になった店内でアイリスは独り言を呟いた。
それからイクトが戻って来るとソフィーが来たことと彼女の伝言を話して聞かせる。
「そうか、ソフィーが家に来ていたんだね」
「イクトさんソフィーさんとはお友達ですか?」
会えなくて残念そうな顔をする彼へと彼女は聞いた。
「ソフィーがこの町に来て工房を開いてからの付き合いだからもう二十年になるかな」
「イクトさんソフィーさんの事好きなんですか?」
ソフィ―の事を語るイクトの目がとても穏やかに、そして寂しそうに揺らいだのを見てもしかして好きな人なのではないかと勘ぐりしたり顔で尋ねる。
「ははっ。彼女とはただの友達だよ。確かにソフィーは昔から美人さんだったからね。彼女の事を好きになった人達も確かにいたけど」
「本当にただのお友達なんですか?」
可笑しそうに笑い違うと話す彼にアイリスが疑いの目で見ながら問い詰めた。
「うん。俺には好きな人はいないよ」
「イクトさんが好きになった人がいなくても、イクトさんみたいに優しくて素敵な人なら言い寄られたりとかしたことあったんじゃないですか?」
イクトの事を尊敬している彼女は昔から好かれていたのではないかと、なんとなく軽い気持ちで尋ねてみる。
「俺はそんな素敵な人なんかじゃないよ。……それに、俺には幸せになる資格なんてないから」
「イクトさん?」
それに彼がひどく悲しそうな苦しそうな顔で答え、不思議に思いイクトを見詰めた。
「アイリス。君がこのお店に来てお針子になりたいと言ってくれた事。俺を叔父と認めてくれた事。これ以上のないほど幸せなんだ。だから、それ以上の事は望まないよ」
「イクトさん……」
直ぐに柔らかい微笑みに戻った顔で言われた言葉に、アイリスはこれ以上の事は聞いてはいけないような気がして黙る。
「でも、そうか。ソフィーはしばらく町を離れるんだね。また、無茶なことしなければいいが……まぁ、ハンスと一緒ならそう遠いとこまで行くわけではないだろうから大丈夫かな」
「ソフィーさんて昔からよく町の外に行くのですか?」
考え深げなイクトの言葉に彼女はそんなにしょっちゅう町の外に行くのかと驚く。
「うん。錬金術に使う素材を集めに町の外に行って採取しているんだよ。俺も昔は付き合っていたが、今はこのお店があるから手伝うのはやめたけれどね」
「ソフィーさんて見かけによらず逞しいんですね」
説明してくれた彼の言葉にさらに驚いて目を丸くする。
「そうだね。町の外に彼女一人で出かけることはないらしいけど。でも、この国までくるのに一人で旅をしてきたそうだから逞しいと言えば逞しいのかもしれないね」
「私、ソフィーさんの事尊敬しちゃいます。親しくなれると良いな」
「大丈夫。心配しなくてもすぐにソフィーと友達になれるさ」
ソフィーに興味を持ったアイリスの言葉にイクトが微笑み大丈夫だと話す。
そうしてアイリスは錬金術師という職業についてもっと知りたいと思った一日となった。
「いらっしゃいませ。仕立て屋アイリスにようこそ」
「こんにちは。貴女がアイリスちゃんね。ふふ。なるほど確かに面影はあるわね。……イクト君が可愛がるわけだわ」
ミステリアスな雰囲気をまとった女性が店に入って来たかと思うとアイリスを見て呟くと一瞬その瞳が揺らぐ。
「あ、あの……今日はどのような御用で?」
「イクト君に用があったのだけれど、いないみたいね」
「すみません。イクトさん今王様に呼ばれてお城に行っていて戻ってきたらお伝えしておきましょうか?」
女性の言葉に彼女は申し訳なさそうに答える。
「いいのよ。王様に呼び出されたんなら暫く思い出話に花が咲いて戻ってこないだろうから、その件はまた今度にするわ。それよりも貴女に伝えたいことがあってね」
「はい。何でしょう?」
彼女の言葉にアイリスは不思議そうな顔で首をかしげ尋ねた。
「市場にいるハンスの事は知っているわよね。私が彼を借りる事になるから、しばらくの間お店に品物を下ろせなくなるの。その代わりに家のお店で働いている者をこのお店に寄こすから、注文があったら彼に頼んで。彼がこの店に訪問販売にくるからその時に注文の品もついでに届けるように頼むから安心してね」
「は、はい。あの、貴女は……」
いきなり説明しだした女性に一体何者なのかといった顔で見詰める。
「自己紹介が遅れたわね。私はソフィア。皆からはソフィーって呼ばれているわ」
「ソフィーさん。もしかして貴女は……」
その視線に気づいた彼女が自己紹介すると「ソフィー」という名に心当たりがあったアイリスが驚く。
「ええ。王国一の錬金術師って呼ばれている錬金術師とは私の事よ。……何が王国一何だか私には理解できないけれどね。この仕立て屋で使われている素材は全部私が作った物なの。でもしばらくの間用事で国の外に出かけるからその間は私は作れないのだけれど。家で働いている者が代わりに作るから大丈夫よ。……本当はもう一人でも十分にやれるだけの実力があるから独り立ちさせたらよいのだろうけれど、家の店にいたいって言ってくれるから甘えちゃっていてね」
「やっぱり……あの噂の錬金術師のソフィーさんだったんですね」
ソフィ―が語りながら瞳を曇らせる。アイリスは目の前に噂の錬金術師がいる事に目を白黒させた。
「話したいことはそれだけよ。それじゃあまたね。可愛いお針子さん」
「はい。……ソフィーさん噂に聞いていたけれど素敵な女性だなぁ。そんなすごい錬金術師さんが家のお店の素材を全部作っていたなんて……イクトさんとは親しい間柄みたいだけれどお友達なのかな?」
彼女が用件を伝えると店を後にする。一人になった店内でアイリスは独り言を呟いた。
それからイクトが戻って来るとソフィーが来たことと彼女の伝言を話して聞かせる。
「そうか、ソフィーが家に来ていたんだね」
「イクトさんソフィーさんとはお友達ですか?」
会えなくて残念そうな顔をする彼へと彼女は聞いた。
「ソフィーがこの町に来て工房を開いてからの付き合いだからもう二十年になるかな」
「イクトさんソフィーさんの事好きなんですか?」
ソフィ―の事を語るイクトの目がとても穏やかに、そして寂しそうに揺らいだのを見てもしかして好きな人なのではないかと勘ぐりしたり顔で尋ねる。
「ははっ。彼女とはただの友達だよ。確かにソフィーは昔から美人さんだったからね。彼女の事を好きになった人達も確かにいたけど」
「本当にただのお友達なんですか?」
可笑しそうに笑い違うと話す彼にアイリスが疑いの目で見ながら問い詰めた。
「うん。俺には好きな人はいないよ」
「イクトさんが好きになった人がいなくても、イクトさんみたいに優しくて素敵な人なら言い寄られたりとかしたことあったんじゃないですか?」
イクトの事を尊敬している彼女は昔から好かれていたのではないかと、なんとなく軽い気持ちで尋ねてみる。
「俺はそんな素敵な人なんかじゃないよ。……それに、俺には幸せになる資格なんてないから」
「イクトさん?」
それに彼がひどく悲しそうな苦しそうな顔で答え、不思議に思いイクトを見詰めた。
「アイリス。君がこのお店に来てお針子になりたいと言ってくれた事。俺を叔父と認めてくれた事。これ以上のないほど幸せなんだ。だから、それ以上の事は望まないよ」
「イクトさん……」
直ぐに柔らかい微笑みに戻った顔で言われた言葉に、アイリスはこれ以上の事は聞いてはいけないような気がして黙る。
「でも、そうか。ソフィーはしばらく町を離れるんだね。また、無茶なことしなければいいが……まぁ、ハンスと一緒ならそう遠いとこまで行くわけではないだろうから大丈夫かな」
「ソフィーさんて昔からよく町の外に行くのですか?」
考え深げなイクトの言葉に彼女はそんなにしょっちゅう町の外に行くのかと驚く。
「うん。錬金術に使う素材を集めに町の外に行って採取しているんだよ。俺も昔は付き合っていたが、今はこのお店があるから手伝うのはやめたけれどね」
「ソフィーさんて見かけによらず逞しいんですね」
説明してくれた彼の言葉にさらに驚いて目を丸くする。
「そうだね。町の外に彼女一人で出かけることはないらしいけど。でも、この国までくるのに一人で旅をしてきたそうだから逞しいと言えば逞しいのかもしれないね」
「私、ソフィーさんの事尊敬しちゃいます。親しくなれると良いな」
「大丈夫。心配しなくてもすぐにソフィーと友達になれるさ」
ソフィーに興味を持ったアイリスの言葉にイクトが微笑み大丈夫だと話す。
そうしてアイリスは錬金術師という職業についてもっと知りたいと思った一日となった。
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