上 下
34 / 124
ライゼン通りのお針子さん3 ~誉れ高き職人達~

プロローグ

しおりを挟む
 アイリスがこの町にやってきて三度目の春を迎えた。仕立て屋アイリスは今日もお客でにぎわっている。

「こんにちは~」

「いらっしゃいませ。仕立て屋アイリスへようこそ」

春の女神であるレイヤが入ってきた途端部屋中に陽だまりのような暖かさと花の香りが漂う。

「また今年も春の訪れを告げにやってきました。今年もアイリスさんが作ってくださった衣装を着てパレードに参加しますので是非見にいらしてくださいね~」

「私が作ったドレスを気にいってくださり嬉しいです。勿論今年もイクトさんと一緒に見に行きますよ」

「ふふ。仕立て屋アイリスに春の訪れがありますように」

レイヤと会話しているとお店の扉が開かれお客が入店してくる。

「よう。アイリス元気か? なぁなぁ。何か面白い事ない?」

「マクモさん。またお城を抜け出してきたのですか?」

夏が似合う火の精霊であるマクモが入ってきた途端賑やかになった。城を抜け出したのかと尋ねると彼が渋い顔をする。

「ジャスティンの目をかいくぐって来るの結構大変だったんだぜ」

「そんなに大変な思いをしてもここに来たいってことよねぇ」

彼の言葉にレイヤが穏やかに微笑み尋ねるように言う。

「おう。オレ、この店気に入ったからな。アイリスの顔を見るのも楽しいし」

「お店を気に入って頂けるのは有り難いですが、マクモさん後で叱られたりしませんか?」

後で抜け出したことがバレて叱られることを心配する彼女に笑顔で口を開く。

「大丈夫、大丈夫。叱られたって気になんかしないからさ」

「少しは気にしろ! また勝手に城を抜け出してここに来るなんてお前は守護精霊である立場を考えろって言われているだろうが」

大丈夫だと話す彼へと怒る声が聞こえてきた。そちらを見やると目を吊り上げ苛立ちを顔に出すマルセンの姿が。

「たく……王様が咎めないことをいいことにここに入り浸るんじゃないぞ」

「相変わらずにぃちゃんは元気がいいな」

「おやおや、ずいぶんと賑やかだと思ったら皆さんでしたか」

愚痴るように呟く彼へとマクモが笑顔で声をかける。そこに奥の部屋にいたイクトが店頭へと出てきた。

「今年も賑やかで楽しい一年になりそうだね」

「はい。今年も皆さんのために頑張ります」

そっとアイリスへと声をかける彼に彼女は答えるように笑顔で宣言する。

こうしてまた仕立て屋アイリスの新しい一年が始まりを迎えるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...