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ライゼン通りのお針子さん2 ~職人の誇り見せてみます~

十六章 王国御用達の専属仕立て人!?

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 木々も葉を落とし厳しい冬が始まるというある日のことである。

「……ふん。ここが仕立て屋アイリス? 小さくて狭い店だこと」

「まったくです。こんなお店ともいえないような仕立て屋に先生のお仕事が取られそうだなんて思えません」

「で、でも。見た目で判断するのはどうかと……」

店の前できつい目の女性が言った言葉にもう一人の女性が答える。おどおどとした態度の青年が小さな声をあげたが二人はその言葉が聞こえていなかったのか何も言わずお店へと入っていった。仕方ないので彼も後をついていく。

「いらっしゃいませ。仕立て屋アイリスへようこそ」

「ここの店主を出してもらいましょうか」

アイリスが笑顔で出迎えるもきつい目の女性が冷たい声で言う。

「あ、あの。私がここの店主のアイリスです」

「貴女が店主ですって? ふざけないでさっさと店主を出しなさい」

彼女の言葉に女性が激怒すると叫ぶ。その言葉にお店に来ていた常連客達や他のお客がふり返って二人へと注目する。

「彼女が正真正銘。このお店の店主です。……それより、人のお店でいきなり怒鳴るなんて営業妨害ではありませんか? ……マリガレーター工房の主であり王国御用達仕立て屋のレイチェルさん」

「営業妨害はこっちの台詞です。こんな小さな仕立て屋のしかもこんな女の子が店主のお店に王国御用達仕立て人のお仕事を奪われそうだなんてね」

ジョルジュが注意するように声をかけると、女性が腕組みして怒りをあらわに言い放つ。

「!?」

「では、貴女が病気で仕事を休んでいた王国御用達仕立て屋の方なんですね」

驚くアイリスの代わりにイクトが静かな口調で尋ねる。

「ええ、そう。私が王国御用達仕立て屋のイルミーナ・ロディウスです」

「私は先生のお手伝いをしているレイチェル・ジュディウス」

「ぼ、僕は先生の弟子のロバート・ジッチルです」

「それで、家のお店にどのような御用でしょうか」

イルミーナ達が名乗るとイクトが穏やかな口調で尋ねた。

「単刀直入に言うと、ここのお店がうちに変わって王国御用達の仕立て屋になるという噂を耳にしましたの。それで、どれほど立派なお店かと思い来てみたというわけ。……でも、来てみたら町の小さなお店じゃないの。こんなお店に私の仕事が取られるというのは許せないわ」

「それで、文句を言いに来たんですか」

イルミーナの言葉にシュテリーナが険しい表情をして聞く。

「このまま黙っているわけにはまいりません。本当に王国御用達の仕立て屋としての仕事ができるかどうか私自らその力量を確かめてあげます。貴女は私の出した依頼の品を作ればいいわ。でも作れなかったその時は仕立て屋として働くのにふさわしくないということでこのお店はたたんでもらうわよ」

「……分かりました。それで、私は何を作れば宜しいんですか」

彼女の圧力に頷くしか選択肢がなくアイリスは答えると続けて尋ねる。

「この紙に書いてある品で伝説級の服を作ってもらいます。一週間後にその品を見せてもらうわ。それまでにできなかったり、伝説級の品を作れなかった場合は、分かっていてね」

「はい」

イルミーナがいうだけ言うと紙を渡してレイチェル達を連れて帰っていった。

「……」

「アイリス、大丈夫?」

呆然と立ち尽くすアイリスへとイクトがそっと声をかける。

「なんだか呆気に取られてしまって、でも、これ作らないとですね」

「それで、どんな材料で作るんだい。すぐに用意するよ」

彼女がにこりと笑い言うと彼が微笑み答える。

「えっと、モケモケの布に木綿の布とミルケストの糸、竜の涙と賢人の宝石にメトモの実とヨウキ鳥の羽、それから胎動の心という物と精霊の雫です」

紙に書かれた品を読み上げたアイリスの言葉に常連客やイクトの顔が険しくなる。

「竜の涙だって!?」

そこにマルセンが声をあげた。

「え?」

「それはこの国から西に行った洞窟に生息するドラゴンを倒さないと手に入らない幻の品だ」

「最初から手に入らないことが分かっていて、あのイルミーナってやつこの品を選んだんだ!」

驚く彼女へとジャスティンが説明する。マルセンが険しい顔でそう言い放った。

「それだけではなくてよ。モケモケの布も木綿の布もミルケストの糸も市場では出回りませんの。とても貴重な品だから王族や貴族の所にやって来る行商人が稀に持ってくるくらいの品ですわよ」

「えぇ!?」

マーガレットの言葉にアイリスはさらに驚く。

「賢人の宝石に胎動の心……これらはとても希少価値の高い宝石です。そんなもの王族でも手に入るかどうかといった物なのに」

「それにメトモの実は染料として使うものなのですが、この季節では手に入りません」

ジョルジュが言うとシュテリーナも説明する。

「ヨウキ鳥の羽モ私の故郷よりはるか南に行った国に生息する鳥だって聞いてます。それモ春の時期にしかいない渡り鳥だト。でも、幻の鳥と言われるほどデめったに遭遇できないそうデす。つまり、今の時期だとイルかどうかも分からない、探し出すだけでも大変なんでス」

「精霊の雫は水の精霊が作り出した宝石だって聞いたことがある。つまり、精霊界にしか存在しない代物なんだ。国王様でもそれを手に入れるのに交渉だけでも数百年はかかると言われている。とてもじゃないけど普通に手に入れられるとは思えない」

ミュゥリアムが言うとイクトも困ったといった顔で話す。

「そ、そんな……」

「はじめからアイリスに作らせないつもりで、こんな無理な依頼をしてくるなんて……許せませんわ」

絶句するアイリスの様子にマーガレットが激怒して言う。

「でも、一度受けてしまった依頼を断ることはできない。……さて、どうしたものか」

「……なぁ、ジャスティン。今俺と同じこと考えているだろ」

「ああ、そうだな。……私とマルセンで竜の涙を手に入れてくる」

マルセンが目配せして尋ねるとジャスティンが頷きそう宣言した。

「わたくしも協力するわ。金のミルケストの糸なら屋敷に来る商人から以前見せてもらったことがあるから、手に入れておきますわ」

「なら、わたし達も一緒に金のミルケストの糸を手に入れるためにお手伝いします」

「僕達と一緒ならもしかしたら譲ってくれるかもしれませんしね」

マーガレットの言葉にシュテリーナとジョルジュも力強く頷き話す。

「私も商人さんや貴族の人に踊りを見てもらっテそのお礼の品の代わりニ何とかして賢人の宝石ヲ譲ってもらえるよう交渉してみます」

「皆……有り難う!」

「他の品も何とかして手に入れれると良いのだけれど……もしかしたら他のお客様から何か良い情報を得られるかもしれないね」

にこりと笑いミュゥリアムが言うとそんな暖かくて優しい皆の言葉にアイリスは救われた思いで精一杯の気持ちを込めてお礼を言う。

イクトがにこりと笑い希望を捨てないでと言いたげに話す。

そうして皆が素材探しへと向かい店から出た時にお店の扉が開かれる。

「やあ、小鳥さん」

「フレイさん?」

父親との一件の後お店に顔を出す事のなかったフレイがアイリスの下を訪ねてきたのだ。

「話は聞いたよ。とても困った事になっているって……それでぼくも協力したいと思ってね。ミュウさんを手伝って来ようと思う。踊りに演奏がついたら無敵になると思わないかな」

「有難う御座います。……あの」

「親父とはちゃんと話を付けてきた。勘当されちゃったけどね。でも、これでいいんだ。ぼくは自分の道を進む。世界一の吟遊詩人になっていつか親父を見返してやるのさ」

有難い彼の言葉にお礼を言うもこの前の事が気になって彼女は口を開くが言葉が出てこない。それに気づいているフレイがにこりと笑うと話し合いの結果を教えてくれた。

「それじゃあ、ぼくは行くよ。小鳥さん心配しないで、ぼく達が必ず依頼に必要な品を手に入れてくるから」

「はい」

フレイが言うと出て行った。その頼もしい後姿をアイリスは見送る。

「よう。アイリス話は聞いたぜ」

「こんにちは~。アイリスさん私達に任せて下さい」

「失礼する……アイリス。困っていると聞いてきた」

「マクモさん、レイヤさん。それにクラウスさんも」

元気な声でマクモが言うと、レイヤとクラウスを連れて来店してきた。アイリスは驚いて彼等の下へと駆け寄る。

「春のヨウキ鳥の羽が必要なんですよね。私に任せて下さい」

「メトモの実が必要だと聞いた。レイヤと俺でなんとかしよう」

「胎動の心が必要なんだろう。オレに任せておけって」

「皆さん……有難う御座います」

三人の言葉に彼女は感動して涙をにじませながらお礼を述べる。

「それを伝えに来た。今からそれらすべて集めてくるから、アイリスはここで待ってな」

マクモが言うとレイヤとクラウスもにこりと笑い任せろと言いたげな顔をした。三人がお店を出るとその後ろ姿をアイリスは見送る。

素材集めは上手くいくのか、イルミーナの依頼をこなせるのか不安はぬぐい切れないが、皆の力を信じて彼女はただ祈るように待つだけであった。
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