ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記~

水竜寺葵

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ライゼン通りのお針子さん2 ~職人の誇り見せてみます~

十五章 レイヤ再び来店

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 秋も深まりそろそろ冬支度を始める頃。仕立て屋アイリスに女神が再び訪れる。

「こんにちは~」

「いらっしゃいませ。って、女神様!?」

鈴の音を聞いて店先へと出てきたアイリスはレイヤの姿に驚く。

「アイリスさんとはお友達ですので、できれば名前で呼んでもらえると嬉しいのですが……」

「あ、すみません。驚いてしまって、レイヤさん今日は如何されたのですか」

困った顔で女神が言うと彼女は慌てて謝り用件を窺う。

「はい。この前のドレスとっても素敵でした~。ですから、今日は自分用に私服を作ってもらいたくて来ました」

「普段着ということでしょうか」

にこりと笑いレイヤが言った言葉にアイリスは確認するように尋ねる。

「はい。よろしくお願いします」

「畏まりました」

頭を下げてお願いする彼女へとアイリスは笑顔で了承した。

「アイリスさんも忙しいと思いますので、急いで作らなくても大丈夫ですが、う~ん。そうですね~。……三週間後くらいに取りに来ます。それまでにお願いします」

「はい、お任せください」

レイヤが考えるように手を顎に当てるとそう言ってにこりと笑う。

彼女は笑顔で頷くとメモ用紙に確りと予定日を記入する。

「それで、どのような感じにお作りしたら宜しいですか?」

「アイリスさんが私に似合うと思う服を作ってください」

どんな感じに作ればよいか尋ねると女神がお任せすると言って笑った。

「分かりました」

「それでは、お願いします~」

アイリスが頷いたのを確認するとレイヤが店を出て行く。

「レイヤさんの私服どんな感じが良いかな。……やっぱり秋冬に着る機能性のいい服が良いかな。でも、女神様って人間と同じで暑いとか寒いとか感じるのかな?」

「よう。悩める少女さん。何か困っているみたいだな」

レイヤの服をどう作ろうかと悩んでいると誰かに声をかけられ振り返る。

「マクモさんそれにマルセンさんも。お二人が一緒なんて、珍しいですね」

「こいつは一人でフラフラどこかへ出かけるからな。監視するようにとジャスティンに頼まれたんだ」

「監視って……まるでオレが悪いことしているみたいな言い方だな」

アイリスの言葉にマルセンが答えるとマクモが渋い顔をしてぼやく。

「お前も自分の立場を考えて行動しろっていつも言われているだろう。なにか問題でも起こされたら困るからな」

「はいはい。……それで、アイリス何をそんなに悩んでたんだ?」

彼の言葉にマクモが適当に返事をするとアイリスへと尋ねる。

「レイヤさんから依頼を頼まれたのですが、どんな感じの服を仕立てたらいいのかと……女神様って人間と同じで暑さや寒さを感じるのかなってちょっと考えていたんです」

「なるほど、まぁ、神様や精霊ってその属性によって違うからな。例えばレイヤの場合は春の女神だから暖かいのは平気だけど寒いのは苦手なんだ。氷の精霊なら氷山や寒いところは平気だが炎や熱帯地域などは苦手な感じかな」

彼女の言葉にマクモが説明した。

「なるほど、つまり寒さや暑さをちゃんと感じるんですね」

「どうだ、何か参考になったか?」

納得するアイリスの様子に彼が言う。

「はい、マクモさん有難う御座います。でも、よくそんなことご存知ですね」

「おう、神や精霊達とは友達だからな」

「さ、アイリスはお仕事があるんだから、そろそろ帰るぞ。……アイリスまた、様子を見に来るからな」

疑問を抱いた彼女が尋ねるとマクモが当たり前だといった顔で答える。

彼が何か妙な発言をしないうちにマルセンが声をかけるとマクモを連れてお店から出て行った。

「さて、今受けている依頼で急いで仕上げないといけないのは……よし、これが終わったらレイヤさんの依頼の品が作れるね」

伝票を見て確認すると作業部屋へと戻り今週中に仕上げないといけない品を先に作り上げる。

それから翌日レイヤから頼まれた私服を作る為素材を選び制作した。

「できた。うん、ブルームゥーンの布に黄色のクゥトゥの糸、それから橙色の羽毛を胸に付けたんだけど、レイヤさんのイメージにぴったりだ」

「お疲れ様。少し休憩にしないかな」

作業部屋にこもりっきりのアイリスを心配したイクトがそう言って入って来ると、お盆に乗せたカップとケーキを差し出す。

「イクトさん。見て下さい! レイヤさんの服出来上がったんです」

「うん、とても可愛いワンピースだね」

彼女の言葉に彼が微笑み感想を述べる。

オレンジ色のワンピースは秋色格子の模様が描かれていて、ランタン型の袖と襟は薄い黄色になっている。胸元には可愛らしく橙のボンボンがついていて、腰には黄色のベルトが付けられていた。よく見るとその穴はハート型になっている。

「気に入ってくれるといいんですが……」

「大丈夫。レイヤさんきっと喜んで下さると思うよ。さ、お茶でも飲んで休憩して。ここの所働き詰めで疲れていると思うから、休憩するのも大事だよ」

心配そうに呟くアイリスへと彼が安心させるように答えお茶を勧めた。

「はい。……ふふ。あ、すみません。ここに来たばかりの頃も同じこと言われたなって思って」

「そう言えばあの時もマルセンの依頼の品を徹夜で作り上げて、俺がちゃんと休むようにって言った事があったね」

彼女がおかしそうに笑ったのでイクトが不思議そうに見詰めていると、過去のことを思い出していたのだと答える。

その言葉に彼も当時の事を思い起こしながら話した。

「たった一年でこんなに忙しくなって、イクトさんもお店番と買い出しで大変なのに、依頼の品の制作まで手伝ってもらって、私がもっとお店の事手伝えればいいのに」

「アイリスの作る服を皆着たいって思って依頼してくれるんだ。店番や買い出しとか他の業務の事は気にしないで、それに、俺はアイリスにはお針子として服を作り続けてもらいたいと思ってる。だから、気にしないで。でも、暇なときはお手伝いしてもらうからね」

申し訳なさそうにアイリスが話す言葉に、イクトが優しく笑いながら穏やかな口調で語る。

「イクトさん……私、お店のためになるようにもっともっと頑張りますね」

「うん。期待しているよ、この店の……いや、俺の大事なお針子さん」

「はい。期待に答えれるように頑張ります。私の大事な店員さん」

お互い微笑み久々に家族であるという認識を確認し合えたような気持を抱く。

そんな温かな気持ちを抱いて、このお店とイクトのためにもっと頑張ろうと張り切るアイリスの仕事ぶりは更に上達する。

そうして日時は進みレイヤが服を取りに来る日となった。

「こんにちは~」

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

女神が来店してくるとアイリスは笑顔で対応し服を棚から取り出す。

「こちらになります」

「あらあら、とってもいい色ね~。私明るい色大好きなんです」

商品を差し出すとレイヤが微笑みそれを受け取る。

「試着してみてもいいかしら?」

「勿論です。どうぞ」

女神の言葉にアイリスは答えるとレイヤはさっそく試着室へと入っていった。

「どう、でしょうか」

「まぁ、まぁ~。とっても素敵。私このワンピース気に入りました。それに、こんなに薄いのにぬくぬくして温かい。これはもしかしてブルームゥーンの毛で作られた布で作ったですか」

彼女の声に女神が答えると試着室から顔を覗かせ尋ねる。

「はい。秋冬に着るにはぴったりな暖かいブルームゥーンの布で作りました」

「ふふ。暖かくてぬくぬくで気持ちがいいです。私寒いのが苦手なので嬉しいです。こんなに素敵な服を作ってくださり有り難う御座います」

アイリスの言葉にレイヤが微笑むとそう言ってお礼を述べた。

「とっても気に入りました。このまま着て帰ってもいいですか?」

「気に入って頂けて嬉しいです。はい、大丈夫ですよ」

試着室から出てきた女神が言うと彼女は笑顔で答える。

「それでは、お会計をお願いします」

「はい。今伝票をお持ちしますね」

レイヤの言葉にアイリスはカウンターから伝票を持ってくると女神へと差し出す。

「ふふっ。早速みんなにこの服を見てもらいに行きましょう~」

お会計を済ませると鼻歌交じりにスキップしながらレイヤはお店から出ていた。

その後王宮に呼び出されていたイクトが帰って来る。

「ただいま」

「イクトさんお帰りなさい。レイヤさんとっても喜んで帰っていかれました」

彼へとレイヤの様子を伝え、とても喜んでもらえたと報告する。

「それは良かったね」

「それで、国王様に呼び出されたんですよね。もしかして、この前の王国御用達仕立て人の件についての事ですか?」

「そうだね、気にするほどの事ではないんだけれど……また、今度ゆっくりと話そう」

話しを聞いた彼が良かったと微笑む。アイリスの言葉にイクトは今日国王から聞いた話を彼女に伝える事をためらいまた今度話すと言ってこの件を終わらせた。

しかし、後回しにしたところでいずれこの話を受けるか受けないかを決めなくてはならない。この仕立て屋で頑張るアイリスの姿にイクトは如何したものかと考えるのだった。
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