ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記~

水竜寺葵

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ライゼン通りのお針子さん2 ~職人の誇り見せてみます~

九章 夏祭り本番

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 あっという間に日数は過ぎ去り今日はいよいよ夏祭り本番。ライゼン通りも今日は屋台を出したり催し物をしたりと大忙し。

「よう、仕立て屋アイリスのお二人さん。お祭り楽しんでるか?」

「あ、貴方は……」

飲み物や食べ物を売るお手伝いをしているアイリスとイクトへと誰かが声をかけてくる。

その声に顔をあげてそちらを見ると男の人が立っていた。

「ん? そう言えばまだ名乗ってなかったか? オレはマクモだ」

「マクモさん。その服を着て下さったんですね」

男性がにこりと笑い自己紹介すると彼女も嬉しそうに微笑む。

「当たり前だろう。アイリスがオレにぴったりな服を仕立ててくれたってのに、着ないなんてもったいないからな」

胸下までの徳利タイプの肩だしの服の上には燃えるほどに真っ赤なロングコートを羽織り、ガウチョパンツは黒い生地に燃え上がる炎の柄が描かれている。その服を着ている彼こそ仕立て屋アイリスで服を頼んだ男性……マクモであった。

「ラストには花火があがるらしいから、あんた達も仕事ばっかしてないでどこか適当に切り上げて花火見ろよ」

「はい、有難う御座います」

彼の言葉にアイリスは返事をする。

「お、そうだ。噴水広場で踊り子のねぇちゃんが踊りを披露するらしい。見に行ってやったらどうだ」

「あ、そういえばミュウさん噴水広場で踊るから良かったら見に来てって言ってましたね」

マクモの言葉に彼女は隣にいるイクトへと顔を向けた。

「そうだったね。だけど、ここを抜けるわけには……アイリス一人で行っておいで」

「え、でもイクトさんだけ働かせるのは……」

「オレがここ見ててやるから二人で行って来いよ」

彼の言葉にアイリスは困った顔で躊躇う。その様子にマクモがにこりと笑い言った。

「え、でもお客さんを働かせるわけには」

「気にすんなって。オレもこの国に住む一人だ。だからこの国の人達のために何かしてやりたいんだよ」

断ろうとする彼女へと彼が笑顔を崩さずそう話す。

「それでは、お願いします。アイリス、ここは彼に任せて少し休憩しよう」

「そうですね。マクモさんお願いします」

「おう。祭り楽しんで来いよ」

イクトがマクモの好意を受け取るとアイリスへと声をかける。彼女も頷くとここは彼に任せてミュゥリアムの踊りを見に広場へと行くことにする。

歩き去っていく二人へと向けてマクモが声をかけ見送った。

噴水広場へとやって来るとメイン会場というだけあり人でにぎわっていて、人混みの中を掻き分けステージ前へとやって来る。

「それでは皆様お待たせいたしました。ミュゥリアムさんによるダンスと演奏家であるフレイさんによるコラボステージをお届けいたします」

「え、フレイさんとミュウさんが一緒のステージに?」

「これは凄いステージになりそうだな」

司会者の言葉にアイリスが驚いているとイクトも小さく笑い呟く。

「皆さん、こんばんは。今日ハ私の踊り見て楽しんデいって下さい」

「ぼくの演奏も聴いてくれると嬉しいな」

舞台へとミュゥリアムがやって来ると反対側からフレイが来て椅子に座る。すると彼へと向けて女性陣の黄色い悲鳴が巻き起こった。

「すごい人気……」

「フレイさんはカッコいいから女性の人達に人気なのかもしれないね」

その様子に呆気にとられ呟く彼女へとイクトが相槌を打った。

「それにしても、ミュウさんの衣装。とってもよく似合っている。流石だね」

「ミュウさんの魅力を引き出せるように考えて作りましたから」

彼がミュゥリアムの衣装を見て言うとアイリスもにこりと笑い話した。

ベリーダンスの衣装のような作りとなっていて、首紐タイプで胸下までの短さの服にフレアが段になったタイプの巻きスカート。その短い裾からほっそりとした足が伸びていて、手首には反対側が透けて見えるほどに薄いリボンを巻きつけている。彼女が動くたびにひらひらとリボンが舞って綺麗だ。首には銀で出来たアクセサリーをつけている。

ミュゥリアムはまるで自分が着ている服を見せつけるかのように踊り、観客達を魅了していく。

フレイが奏でる優しい音色に激しい踊りという対極に観客達はすっかり引き込まれていった。

踊りが終わると暫くの間静寂が会場内を包む。そして溢れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。

「ミュゥリアムさんとフレイさんでした」

司会者の言葉に再び溢れんばかりの喝采が起こる。

「凄いステージでしたね」

「そうだね」

「あ、やっぱり……アイリスさん、イクトさん」

興奮した様子で話すアイリスへとイクトが同意する。その時背後から誰かに声をかけられ振り返った。

「あ、シュテナ様、ジョン様にジャスティンさんも」

「お会いできて良かった。ずっとアイリスさんに会いたいと思っていたんです」

振り向いた先にいた三人へと彼女は笑顔になり駆け寄る。

ジョルジュが微笑み言うとアイリスは疑問符を浮かべた。

「貴女に仕立ててもらった礼服のおかげで、来賓の皆さんから素敵な服だと褒められまして。こんなに素敵な服を仕立てていただいたお礼が言いたいと思っていたんです」

「わたしもお礼が言いたいと思ってずっと探していたんですよ」

「アイリスが仕立ててくれた隊服を国王様も気に入ってくれてな。私からもお礼を言わせてもらえないか」

「そんな、お礼なんて。皆さんが喜んでくれただけで私は満足ですから」

三人の言葉にアイリスは慌てて答える。

シュテリーナは薄桃色の肩出しの半そでのドレスに腰はキュッと引き絞られていてふんわりとしたスカートの中にはワイヤーパニエを履いている。胸元にはサファイアのブローチが煌いていた。

ジョルジュはイギリス式の正装の水色のスーツで、首元は白いリボン。金のボタンは王家の家紋が刻まれている。

ジャスティンは目に生える青色のマントには騎士団のマークが刻まれていて立ち襟の縁には金色のラインが入り、腕の飾りボタンにはライオンの姿が模られていた。

三人ともこの服を気に入っており、アイリスに頼んでよかったと思っているのである。

「これから王宮の庭で花火を上げる前の挨拶をやりますの」

「アイリスさんとイクトさんには特別席を用意してますので、そこで花火を鑑賞して下さい」

「……また、勝手にそんなことを」

シュテリーナが言うとジョルジュも話す。その言葉を聞いていたジャスティンが小さく溜息を吐き出したが、特に言及する気はないらしく黙り込む。

「そんな、特別席なんて……」

「アイリス、感謝の気持ちなのだからむげに断っては失礼だと思うよ」

慌てて断ろうとするアイリスへとイクトがそっと止めるように話す。

「そうですよね。ジョン様とシュテナ様のご厚意ですよね。分かりました」

「そう言って頂けて嬉しいです。さあ、ご案内しますね」

「必要な物がありましたら言ってください。こちらで用意いたしますので」

彼女の言葉に嬉しそうに微笑んだ二人がそう言いながら道案内する。

そうしてアイリスとイクトは王宮の庭の一番花火が見える特等席で花火を鑑賞し、夏祭りを楽しんだのだった。
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