20 / 124
ライゼン通りのお針子さん2 ~職人の誇り見せてみます~
七章 夏祭りの準備
しおりを挟む
長雨が明けるといよいよ夏本番。毎日蒸し暑い日が続くある日。仕立て屋アイリスでは夏祭りの準備に追われていた。
観光名所であるこのコーディル王国では一番の稼ぎ時であるのだから、祭りの準備にも熱が入る。
「イクトさん。この段ボールは何ですか?」
「確かそれにはランタンが入っていたと思うよ。店先につるして飾るんだ」
倉庫から段ボール箱を持ち出してきたアイリスが尋ねると、イクトが店内のレイアウトを変える作業をしながら答えた。
「では店先につるしてきますね」
「いや、危ないからそれは俺がやるよ。アイリスは店内の飾りつけをお願いできるかな」
「分かりました」
二人は話し合うとそれぞれ作業を交代し、観光客向けの飾りつけを仕上げていく。
「ふ~。……できた」
「お疲れ様。段ボールの片づけは後にして、ちょっと休憩しようか」
額に滲む汗を拭いながらアイリスが言うと、イクトも作業を終わらせたようでそう声をかけてくる。
「では、お茶を入れてきますね」
「俺はお菓子でも用意するよ」
二人で簡易台所のある部屋へと向かうとお茶とお菓子を用意して一服つく。
その時お店の方から鈴が鳴る音が聞こえ、誰かお客様が来たことを知らせる。
「私行ってきます」
立ち上がろうとするイクトを止めてアイリスは言うと店内へと戻った。
「いらっしゃいませ、仕立て屋アイリスへようこそ」
「よう。邪魔するぜ」
彼女が店に戻ると陽気な声の男性が満面の笑みを浮かべて答える。
「あんたがここの店長のアイリス?」
「はい。本日はどのような御用でしょうか」
笑顔を崩さず男性が尋ねきた。それに答えると用件を窺う。
「オレに似合う逸品を仕立ててもらいたくてな。これから夏本番だろ? お祭りの時に着てパーッと燃え上がるようなそんなオレにぴったりな服を仕立ててくれよ」
「畏まりました。では、寸法を測らせて頂きますね」
男性の言葉にアイリスは答えると試着室へと案内する。
「寸法……あ、そっか。サイズを測るのか。よし、分かった! お願いするわ」
「ふ、服は脱がなくても大丈夫ですよ」
彼が独り言を呟くと彼女の目の前でいきなり服を脱ぎ始めたので、慌てて声をかけてその行動を止めた。
「は~。どんな服が出来上がるのか今から楽しみだな」
(元気のいい人だな……まさに夏の海が似合う男みたいな感じ)
いちいち元気いっぱいに話す男性の様子にアイリスは思った事を内心で呟く。
「よう、アイリス。また服を仕立ててもらいたいんだが……!?」
「あ、マルセンさんいらしゃいませ」
扉が開かれマルセンが店に入って来ると男の顔を見て驚く。
その様子に気付かずにアイリスはいつものように声をかけた。だが、彼はその言葉が聞こえていないくらい驚き男性を見ている。
「お、にぃちゃんもこの店のお客さんだったのか。良い店だよな、ここ」
「な、なんでお前がここにいるんだよ!? あんまりフラフラするなって言われてんだろうが」
男性がマルセンに気付くと親しい間柄なのか笑顔で話しかけた。彼の方へと歩み寄ると勢いよく怒鳴るように言葉を放つ。
「だって、ずっと部屋でじっとしてるのなんて退屈で仕方ないだろ」
「あんた、自分の立場分かってんのか?」
男性が唇を尖らせ抗議すると彼が怒鳴るような口調で尋ねる。
「分かってるって、この国を護るせ――」
「なっ!? 分かってんなら変な言動は慎めって!」
彼が何か言いかけたがそれを遮るようにマルセンが慌てて大声をあげて言う。
「あ、あの……マルセンさん、お知り合いですか?」
「あ、ああ。ちょっとした知り合いでな。……悪い。俺用事を思い出した。また今度な」
何時も落ち着いている彼が怒鳴っている姿を見て驚いていたアイリスは、ようやく我に返るとそっと声をかける。それにマルセンが答えると慌ててお店から出て行ってしまった。
「え、あの、マルセンさん?」
「相変わらず元気のいいにぃちゃんだな。……それじゃあ、オレも帰るわ。一週間後に服取りに来るからな」
その背へ向けて声をかけるが彼が立ち止まることはなく扉は閉ざされる。
男性が独り言を呟いた後アイリスへと向き直りにかりと笑った。
「はい。お任せください」
「またな!」
彼女は笑顔で答えるとそれを見届けた男性が言って店から出て行った。
「アイリスなんだか賑やかだったけど、団体のお客様だったのかな?」
「あ、イクトさん。えっと、男の方が来店されて、その後でマルセンさんが来て。初めてのお客様とは知り合いだったらしく驚いてました。でも。マルセンさんの様子が少しおかしくて……私マルセンさんが怒鳴っている姿なんて初めてみました」
「マルセンが怒鳴るなんて、よっぽどのことがないと怒らない彼が? 一体そのお客様との間に何があったんだろうね」
イクトが様子を見にお店へと戻って来るとアイリスは先ほど見たマルセンの様子について説明する。彼もその話を聞いていささか信じられないといった感じに呟く。
「アイリス、そのメモは?」
「あ、先ほど来たお客様の寸法を書いたメモです。夏祭りに着ていく服を仕立ててもらいたいとのことでした」
彼女の手に持っているメモに気付いたイクトが尋ねる。それにアイリスは男性から頼まれた依頼について話した。
「そうか、それでさっそく仕立てようと思っているのかな」
「はい。今受けている依頼はこれだけですから」
彼の言葉に彼女はすぐに返事をする。
「皆夏祭りの準備で忙しいからね。でも、もう少ししたら夏祭りに着ていく服を仕立てて欲しいって依頼が増えてくるよ」
「そうですね。依頼が増えても対応できるように頑張ります」
イクトが笑って答えるとアイリスも頷き力拳を作り意気込む。
「うん。それじゃあ店番は任せて、アイリスはお客様の服を仕立てておいで」
「はい」
その様子に目を細めて優しく笑う。アイリスも返事をすると作業部屋へと向かっていった。
「お客様に似合うとびっきりの逸品。夏祭りに着ていくのにぴったりな服……か」
作業部屋へとやって来たアイリスはメモを机の上へと置くと考え込む。
「あのお客様太陽のように明るくて、まさに夏の海が似合うそんな感じのイメージだったな。……まぁ、この国から海は遠いから海をイメージした服はちょっと違うかもしれないけれど」
腕を組みうんうんと唸る。夏の海が似合う人だった。でもこの国に海はない。この国の夏祭りに似合い、男性のイメージに合う服を考えていたアイリスの頭の中に一つの答えが導き出される。
「そうだ。この国の夏祭りのイメージとお客様のイメージ、二つをかけ合わせてみたらどうかな。この前カヨコさんの依頼を受けた時みたいに。別々のものを融合させて……よし」
アイリスは服のイメージを掴むと早速素材を選びいつものように仕立てていく。
そうして服が出来上がると達成感に微笑む。きっとこれならばあの男性も喜ぶことだろうとアイリスは思った。
観光名所であるこのコーディル王国では一番の稼ぎ時であるのだから、祭りの準備にも熱が入る。
「イクトさん。この段ボールは何ですか?」
「確かそれにはランタンが入っていたと思うよ。店先につるして飾るんだ」
倉庫から段ボール箱を持ち出してきたアイリスが尋ねると、イクトが店内のレイアウトを変える作業をしながら答えた。
「では店先につるしてきますね」
「いや、危ないからそれは俺がやるよ。アイリスは店内の飾りつけをお願いできるかな」
「分かりました」
二人は話し合うとそれぞれ作業を交代し、観光客向けの飾りつけを仕上げていく。
「ふ~。……できた」
「お疲れ様。段ボールの片づけは後にして、ちょっと休憩しようか」
額に滲む汗を拭いながらアイリスが言うと、イクトも作業を終わらせたようでそう声をかけてくる。
「では、お茶を入れてきますね」
「俺はお菓子でも用意するよ」
二人で簡易台所のある部屋へと向かうとお茶とお菓子を用意して一服つく。
その時お店の方から鈴が鳴る音が聞こえ、誰かお客様が来たことを知らせる。
「私行ってきます」
立ち上がろうとするイクトを止めてアイリスは言うと店内へと戻った。
「いらっしゃいませ、仕立て屋アイリスへようこそ」
「よう。邪魔するぜ」
彼女が店に戻ると陽気な声の男性が満面の笑みを浮かべて答える。
「あんたがここの店長のアイリス?」
「はい。本日はどのような御用でしょうか」
笑顔を崩さず男性が尋ねきた。それに答えると用件を窺う。
「オレに似合う逸品を仕立ててもらいたくてな。これから夏本番だろ? お祭りの時に着てパーッと燃え上がるようなそんなオレにぴったりな服を仕立ててくれよ」
「畏まりました。では、寸法を測らせて頂きますね」
男性の言葉にアイリスは答えると試着室へと案内する。
「寸法……あ、そっか。サイズを測るのか。よし、分かった! お願いするわ」
「ふ、服は脱がなくても大丈夫ですよ」
彼が独り言を呟くと彼女の目の前でいきなり服を脱ぎ始めたので、慌てて声をかけてその行動を止めた。
「は~。どんな服が出来上がるのか今から楽しみだな」
(元気のいい人だな……まさに夏の海が似合う男みたいな感じ)
いちいち元気いっぱいに話す男性の様子にアイリスは思った事を内心で呟く。
「よう、アイリス。また服を仕立ててもらいたいんだが……!?」
「あ、マルセンさんいらしゃいませ」
扉が開かれマルセンが店に入って来ると男の顔を見て驚く。
その様子に気付かずにアイリスはいつものように声をかけた。だが、彼はその言葉が聞こえていないくらい驚き男性を見ている。
「お、にぃちゃんもこの店のお客さんだったのか。良い店だよな、ここ」
「な、なんでお前がここにいるんだよ!? あんまりフラフラするなって言われてんだろうが」
男性がマルセンに気付くと親しい間柄なのか笑顔で話しかけた。彼の方へと歩み寄ると勢いよく怒鳴るように言葉を放つ。
「だって、ずっと部屋でじっとしてるのなんて退屈で仕方ないだろ」
「あんた、自分の立場分かってんのか?」
男性が唇を尖らせ抗議すると彼が怒鳴るような口調で尋ねる。
「分かってるって、この国を護るせ――」
「なっ!? 分かってんなら変な言動は慎めって!」
彼が何か言いかけたがそれを遮るようにマルセンが慌てて大声をあげて言う。
「あ、あの……マルセンさん、お知り合いですか?」
「あ、ああ。ちょっとした知り合いでな。……悪い。俺用事を思い出した。また今度な」
何時も落ち着いている彼が怒鳴っている姿を見て驚いていたアイリスは、ようやく我に返るとそっと声をかける。それにマルセンが答えると慌ててお店から出て行ってしまった。
「え、あの、マルセンさん?」
「相変わらず元気のいいにぃちゃんだな。……それじゃあ、オレも帰るわ。一週間後に服取りに来るからな」
その背へ向けて声をかけるが彼が立ち止まることはなく扉は閉ざされる。
男性が独り言を呟いた後アイリスへと向き直りにかりと笑った。
「はい。お任せください」
「またな!」
彼女は笑顔で答えるとそれを見届けた男性が言って店から出て行った。
「アイリスなんだか賑やかだったけど、団体のお客様だったのかな?」
「あ、イクトさん。えっと、男の方が来店されて、その後でマルセンさんが来て。初めてのお客様とは知り合いだったらしく驚いてました。でも。マルセンさんの様子が少しおかしくて……私マルセンさんが怒鳴っている姿なんて初めてみました」
「マルセンが怒鳴るなんて、よっぽどのことがないと怒らない彼が? 一体そのお客様との間に何があったんだろうね」
イクトが様子を見にお店へと戻って来るとアイリスは先ほど見たマルセンの様子について説明する。彼もその話を聞いていささか信じられないといった感じに呟く。
「アイリス、そのメモは?」
「あ、先ほど来たお客様の寸法を書いたメモです。夏祭りに着ていく服を仕立ててもらいたいとのことでした」
彼女の手に持っているメモに気付いたイクトが尋ねる。それにアイリスは男性から頼まれた依頼について話した。
「そうか、それでさっそく仕立てようと思っているのかな」
「はい。今受けている依頼はこれだけですから」
彼の言葉に彼女はすぐに返事をする。
「皆夏祭りの準備で忙しいからね。でも、もう少ししたら夏祭りに着ていく服を仕立てて欲しいって依頼が増えてくるよ」
「そうですね。依頼が増えても対応できるように頑張ります」
イクトが笑って答えるとアイリスも頷き力拳を作り意気込む。
「うん。それじゃあ店番は任せて、アイリスはお客様の服を仕立てておいで」
「はい」
その様子に目を細めて優しく笑う。アイリスも返事をすると作業部屋へと向かっていった。
「お客様に似合うとびっきりの逸品。夏祭りに着ていくのにぴったりな服……か」
作業部屋へとやって来たアイリスはメモを机の上へと置くと考え込む。
「あのお客様太陽のように明るくて、まさに夏の海が似合うそんな感じのイメージだったな。……まぁ、この国から海は遠いから海をイメージした服はちょっと違うかもしれないけれど」
腕を組みうんうんと唸る。夏の海が似合う人だった。でもこの国に海はない。この国の夏祭りに似合い、男性のイメージに合う服を考えていたアイリスの頭の中に一つの答えが導き出される。
「そうだ。この国の夏祭りのイメージとお客様のイメージ、二つをかけ合わせてみたらどうかな。この前カヨコさんの依頼を受けた時みたいに。別々のものを融合させて……よし」
アイリスは服のイメージを掴むと早速素材を選びいつものように仕立てていく。
そうして服が出来上がると達成感に微笑む。きっとこれならばあの男性も喜ぶことだろうとアイリスは思った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる