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ライゼン通りのお針子さん2 ~職人の誇り見せてみます~

三章 春祭り本番

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 春祭りもついに最後の日。この日は春の訪れを告げる女神が妖精達を引き連れて町中を練り歩くパレードが華やかに開催される日である。

「あ、イクトさん。着ましたよ!」

店先に出てアイリスが人混みの中顔を覗かせながら言う。ライゼン通り入口から賑やかな音楽が聞こえてくると妖精達にふんした子どもが踊りながら道を歩いてくる。その中央には輿に乗った春の女神……レイヤが微笑み籠の中から白いお花を町中へとばらまいていた。

「アイリスが作った服、とってもよく似合っているね」

「よかった……レイヤさんの美しさに似合う服をちゃんと作れていて」

遠くからこちらの方へとやって来る女神の姿を捕らえたイクトが言うと、彼女も安堵して笑う。

「春の訪れそれは素敵な出会い~♪ 皆で春を迎えよう~♪」

「!」

「フレイさんの衣装もとってもよく似合っているね」

竪琴を奏でながら歌い歩くフレイがアイリスの前を通り過ぎる時ウィンクを一つつく。それに彼女が驚いていると隣にいるイクトがそう言って笑った。

彼が言う通りフレイもレイヤも自分達が着ている服を誇らしく人々に見せながら歩いていて、それはつまりアイリスの仕立てた服を気に入ってくれているという何よりの証であった。

パレードを見る人々も二人の服をみて仕立て屋アイリスで仕立ててもらったのではないのかと噂話をしている。

「春の祝福を……仕立て屋アイリスに」

「え? ……有難う御座います」

「有難う」

そうこうしていると輿に乗ったレイヤがいつの間にかお店の前まで来ていて、二人を見るとにこりと笑い籠の中から白い花をアイリス達へと向けて差し出す。

彼女は驚いたがすぐに笑顔になりそれを受け取る。イクトもそれを貰うとお礼を述べた。
そうしてパレードが通り過ぎた後にはたくさんのお花がライゼン通りにちりばめられており、花を受け取った人々の笑顔であふれていた。

その後、パレードを終えたレイヤがこの服を仕立ててくれたのは仕立て屋アイリスであると皆に伝え、アイリスの腕を褒め称えたそうである。

フレイも群がる女性達に対応しながら服の事を説明すると、君達も素敵なドレスを仕立ててもらいに行くと良いと言ってお店を宣伝してくれたそうだ。

その効果もあってか、仕立て屋アイリスにはまた新たなお客がひっきりなしに訪れるようになる。

そうして花祭りが終わったある日。お店の扉が開かれる。

「いらっしゃいませ……あ、レイヤさん」

「こんにちは~。今日はお礼を言いにきました。貴女のおかげで素敵なパレードができました。これで無事にこの国に春をお届けできました。本当に有難う御座います」

アイリスが気付き声をかけるとそこに立っているレイヤの姿に笑顔になる。

女神が優しい微笑みを湛えながらそう言って頭を下げた。

「そ、そんな。お礼なんて……喜んで頂けただけで私は嬉しいですから」

「ふふっ。本当にアイリスさんは良い子ですね~。そんなアイリスさんに、私からのお返しです~」

「え?」

レイヤが言うと手に持っていた花束を差し出す。それを受け取りながらアイリスは驚く。

見たこともない種類のお花で出来た花束に彼女は顔をほころばす。

「わ~。素敵なお花」

「これは精霊のお花と言って、永遠に枯れないお花なんです。このお花をお店に飾ってください。きっと良いことが起こりますよ」

喜ぶアイリスの姿に女神も嬉しそうに笑いながら説明する。

「有難う御座います」

「では、私はこれで、またお会いする日まで、さようなら~」

お礼を述べる彼女の姿ににこりと笑うとレイヤがそう言ってお店を出て行った。

「やあ、小鳥さん。お邪魔するよ」

「ふ、フレイさん。いらっしゃいませ」

女神から貰ったお花を飾っているとフレイが店へとやって来る。アイリスはまたナンパされたらどうしようと思いながら対応した。

「あれ、パレードは終わったんですよね? どうしてその服を?」

「気に入ったからだよ。君が心を込めて仕立ててくれたこの衣装に職人の思いを感じた。だから、かな」

ふと視線を落とすと衣装を着ていることに気付きアイリスは尋ねる。

それに彼が微笑み理由を説明してくれた。

「今日はお礼を言いに来たんだ。小鳥さんの衣装のおかげで沢山の人に笑顔をお届けできたからね」

「そんな、お礼なんて……フレイさんがその服を気に入ってくださっただけで十分です」

フレイの言葉に彼女は手を振って答える。

「本当に君には感謝してるんだ。だから、ぼくの気持ちを受け取てもらえないかな?」

「フレイさん……分かりました」

困った顔で頼んでくる彼へとアイリスは無下に断るわけにもいかず頷く。

「有り難う。……いろいろと考えたんだけど、ぼくらしいお礼ってこんなことくらいしか思いつかなくて……ぜひ、君のために一曲奏でたいと思うんだ。聞いてくれるかな?」

「はい」

フレイの言葉に彼女は笑顔で頷く。それを確認した彼が竪琴を構え音楽を奏でだす。

しばらくの間お店の中には竪琴の美しい音色が鳴り響いた。

「す、すごい。素敵な音楽に聞きいっていました」

「喜んでもらえてぼくも嬉しいよ。それじゃあ、またね小鳥さん」

フレイが奏で終えるとアイリスは盛大な拍手を送る。嬉しそうに顔をほころばすと彼は店を後にした。

仕立て屋アイリスの春はこうして始まりを迎えたのである。
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