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第四章 踊り子さんからの招待状
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アイリスが店長になってから初めての夏が訪れた。そしてこの日仕立て屋に新たな客がやってくる。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ、仕立て屋アイリスへようこそ」
たどたどしい片言の言葉であいさつした客は顔立ちも体格も整ったほっそりとした女性だった。
お客が来店したことを知らせる鈴の音で店頭へと出てきたアイリスは美人な女性にしばし見ほれる。
(うわ~べっぴんさん。こんな綺麗な人がうちの店に来てくれるなんて……でも言葉がおかしい。もしかして他国から来た人なのかしら)
「あなたの評判を聞いて私あなたに服を作ってもらいたくてきましタ」
美女に見とれているとお客がそう言って頼んできた。
「は、はい。どのようなお洋服を作れば宜しいでしょうか」
「私は旅の踊り子です。今回光栄にもこの国で開催される国王生誕祭のお祭りデ踊りを披露することとなりましタ。でも私が持っている衣装では私が表現したい踊りに合いません。そこであなたの評判を聞いてあなたに衣装を作ってもらいたいと思いましタ。この国の人達を楽しませ喜ばせる事の出来る衣装を作って欲しいでス」
お客の言葉に我に返った彼女が尋ねると女性はそう説明する。
「どんな踊りですか?それが分からない事にはイメージが……」
「では、実際に踊ってみますネ。そうすればいいアイデアが思いつくかもしれません」
困った顔でアイリスが言うとお客がそう言って踊り始めた。その踊りは見る者を魅了し釘付けにするほど素敵で喜怒哀楽と言った感情表現に心が動かされるほどの素晴らしい舞に彼女はそれに見入っていた。
「どうですか?何かいいアイデアは浮かびましたカ」
「は……はい。お客様の踊りを見てイメージができました」
女性の言葉で我に返ったアイリスは慌てて返事をする。
「今日の夜の国王生誕祭のお祭りに間に合うように衣装を作ってください。夕方には取りに来まス」
「分かりました」
お客の言葉に彼女が返事をしたのを確認すると女性は店から出ていった。
「アイリス。お客様がいらしてたみたいだったけど、ちゃんと一人で接客できたようだね」
「あ、イクトさん。お帰りなさい」
「ただいま」
外に出ていたイクトが戻って来るとアイリスは笑顔で出迎える。
「それで、ジャスティンさんのご用事って何だったんですか」
「うん。今日は国王生誕祭の日だから、国王様のパーティーで着る用の衣装をうちの店で仕立ててくれないかとの相談だったよ」
「すごいじゃないですか。国王様の服を仕立てるなんて」
彼女の言葉に彼が答えるとアイリスは瞳を輝かせて喜ぶ。
「ははっ、そうだね。だがこの依頼の品を作るのは俺じゃなくてアイリス君だよ」
「へっ?わ、私ですか」
しかし次にイクトから聞かされた言葉に彼女は驚く。
「うん。隊長は君の腕を見込んで今回うちに依頼したいと言ってきたんだ」
「私が国王様の衣装を作るなんて……でもどうしよう。さっきお客さんから衣装を作ってくれって依頼されたばかりなんです。夕方までに二人の衣装を作れるかしら」
彼から話しを聞いたアイリスは困ったといった感じで考え込む。
「大丈夫、俺も手伝うから。二人で協力すれば半日で完成させることだってできるさ」
「はい。頑張ります」
イクトが手伝ってくれるならきっと大丈夫だと思った彼女は小さく頷き作業部屋へと向かう。
「前回の依頼を達成できたことで少し自信がついたみたいだね。……本当はもう俺が手伝わなくても大丈夫なんだろうけど、アイリスはまだ気付いていないみたいだな」
作業部屋へと入っていった彼女を見詰めながら彼がそっと独り言を零す。
「……そろそろ。頃合いかもしれないな」
真面目な顔で考えをまとめるとアイリスの待つ作業部屋へと向かった。
「イクトさん。今日お見えになったお客様は踊り子さんで、お祭りで披露する踊りで着る衣装を仕立てて欲しいと頼まれたんです」
「それで、どんな衣装を作るのかはもう考えてあるのかな」
部屋へ入ってきたイクトへと彼女が笑顔で声をかける。
「はい。こんな感じの衣装を作ろうと思ってるんですが……どうでしょうか?」
「うん。いいんじゃないかな。それじゃ早速型紙をあてて行こう」
「はい」
デザイン画を見せながら説明するアイリスへと彼が微笑み了承する。そして二人は衣装作りへと入っていった。
「このムームーの絹布にミルクルルの糸そしてポポタンカの羽でアクセサリーを作って……うん。この素材なら」
「それじゃあ縫い合わせは手伝うから、形を仕上げていこう」
「はい」
沢山ある素材の中から衣装に使う物を探すと裁断を始める。切り取った布をイクトが縫い合わせていく。
「これはまた……見た事のないデザインの衣装になったな」
「はい。お客様の踊りは人を魅了して虜にしてしまうそんな素敵な踊りだったので、この衣装ならよりお客様の踊りを引き立ててくれるんじゃないかと思いまして」
出来上がったのはへそ出しの衣装。上は肌が露出するくらい短いのに、スカートの丈は長く体にヒットする形の作りとなっていて、胸元にはギャザーがかかり金や銀のアクセサリーがついている。スカートにはポポタンカの羽で作った飾りがついていて、振動に合わせてゆらゆらと揺れる仕組みになっている。
「それじゃあ次は王様の衣装を作ろうか。隊長から王様の服のサイズを聞いてきたからその通りに裁断すればいいよ」
「はい。王様はどんな方なんですか」
メモ用紙を作業台の上に置きながらイクトが言う。それに目を通しながら彼女は尋ねた。
「そうだね、とってもお優しい方だとお伺いしている。それから厳格な方だとも。参考になるかどうかわからないが隊長から去年王様がきていた衣装を預かってきている」
「はい。これは……う~ん。なんだかごてごてしすぎていませんか」
彼が預かってきた衣装を見せるとアイリスは、堅苦しくそして派手な装飾がいたる所についた、いかにも重そうな服に思ったことを口に出す。
「派手な物が好きな方だと聞いている。それでこんなに装飾が多い作りとなっているんだろう」
「この衣装じゃ王様の良さが引き立っていないように感じます」
イクトの言葉に彼女は素直な感想を述べる。
「それじゃあアイリスならどんな服を仕立ててあげるのかな」
「私なら……」
優しい口調で聞かれた言葉にアイリスはデザインを紙に書く。
「もっと落ち着いていて清楚感と厳かな雰囲気を漂わせながらも王様としての威厳を感じさせるこんな感じの服を作ります。そしてもっと動きやすく見ていて重く感じる服ではなく軽い感じで見る人を安心させてあげられるような。そう、こんな感じでしょうか」
「うん。俺もその衣装の方が好きかな。それじゃあ王様に似合う服を作っていこう」
「はい」
デッサン画を見せながら説明する彼女へとイクトも同意して再び衣装づくりを開始した。
「できた……」
「お疲れ様。本当に夕方までに終わらせる事ができたね」
完成した衣装を見て達成感に喜ぶアイリス。イクトも労うように声をかける。
「イクトさんが手伝ってくださったおかげです」
「うん。それじゃあ俺はこの衣装を隊長に届けに行ってくる。アイリスは踊り子のお客様にその衣装を渡しておいてね」
「はい」
彼女の言葉に小さく返事をすると、出来上がった衣装を袋に詰めながらそう説明する。アイリスも衣装を持ち店内へと戻った。
「お願いした衣装を取りにきましタ」
「いらっしゃいませ。こちらになります」
夕日が差し込む店内にお客がやって来るとアイリスは急いで衣装を手に持ち近寄っていく。
「わぁお!素晴らしい。こんなに素敵な衣装をどうもアリガトウございます」
「いえ、お気に召していただけて嬉しいです」
衣装を見ただけで感激して喜ぶ女性に彼女も安堵して微笑む。
「是非ともあなたを今日のお祭りの会場に招待したいでス」
「あ、あの実はこれ私一人で作ったわけではなくて、このお店で働いているイクトさんと二人で作ったんです。なので私だけ招待を受けるわけには……」
自分だけが招待されるのは気が引けると思い断ろうとするとお客が納得した顔で頷きにこりと笑う。
「それならお二人を招待しまス。ぜひ私の踊りを見にいらしてください」
「は、はい。それなら喜んで」
女性の言葉にアイリスは二人一緒ならと招待を受けることにする。
「私はミュゥリアム。ミュゥて呼んで下さい。この街でお友達出来て私嬉しいでス。アイリスさんよろしくです」
「はい。私も新しいお知り合いが増えて嬉しいです。ミュゥさんよろしくお願いします」
ミュゥの言葉に彼女も素直に喜び笑顔になった。
それからイクトが戻って来ると招待されたことを伝える。それならばと彼が急いで衣装を仕上げると、アイリスは人生で初めてドレスアップして会場へと向かった。
「ま、まさか王宮の庭でやるとは思っていなくて……やっぱりお断りすれば良かったかしら」
「いまさら引き返したりしたらミュゥさんに申し訳ないよ。ほら、始まるみたいだよ」
庭に集まったのは上流階級から庶民まで様々な人達が一様に会し賑わいを見せていて、まさか王宮の庭で踊るとは思っていなかった彼女は場違いなところへ来てしまったと思い帰りたいと言い出す。
そんな彼女の様子にイクトが苦笑してやんわり止めるとステージに明かりがともったのを見てそう伝えた。
「皆の者今宵はわしの誕生日を祝ってくれて感謝する。今宵は楽しんでいってくれたらわしも嬉しい。そして今日はこのパーティーのための衣装を仕立ててくれた若き女流の職人も会場へと来てくれている。わしはいままで着てきた衣装の中で一番気に入っている。彼女へ大きな拍手を」
「!?」
ステージに立った国王は朗らかな笑みを湛え開催に伴う挨拶をするのだが自分の衣装を作ってくれたアイリスが来ていると知り彼女へ精一杯の感謝の気持ちを伝える。
会場内から大きな拍手を受け驚くアイリス。隣にいるイクトも笑顔で彼女へと拍手を送っていて気恥ずかしさと嬉しさとで頬を紅潮させた。
「さて、今日はこの生誕祭のために遠い異国からわざわざ踊りを披露しに来てくれている踊り子さんが見えている。紹介しようミュゥリアムさんだ。彼女はとても素敵な踊りで人々を楽しませてきた。その踊りを今宵は皆に楽しんでもらいたいと思う」
「みなさん。私の踊りぜひ見てくださイ」
国王が次にミュゥを紹介すると演奏家による音楽が始まり彼女の踊りが披露される。
その見たこともない踊りと華やかな衣装を身にまとったミュゥに人々は魅了され彼女の舞に見入っていた。
そして踊りが終わると会場中から溢れんばかりの拍手とはやし立てる口笛の音が響く。
こうして国王生誕祭の夜はふけっていきアイリスはイクトと共にお祭りを楽しんだのだった。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ、仕立て屋アイリスへようこそ」
たどたどしい片言の言葉であいさつした客は顔立ちも体格も整ったほっそりとした女性だった。
お客が来店したことを知らせる鈴の音で店頭へと出てきたアイリスは美人な女性にしばし見ほれる。
(うわ~べっぴんさん。こんな綺麗な人がうちの店に来てくれるなんて……でも言葉がおかしい。もしかして他国から来た人なのかしら)
「あなたの評判を聞いて私あなたに服を作ってもらいたくてきましタ」
美女に見とれているとお客がそう言って頼んできた。
「は、はい。どのようなお洋服を作れば宜しいでしょうか」
「私は旅の踊り子です。今回光栄にもこの国で開催される国王生誕祭のお祭りデ踊りを披露することとなりましタ。でも私が持っている衣装では私が表現したい踊りに合いません。そこであなたの評判を聞いてあなたに衣装を作ってもらいたいと思いましタ。この国の人達を楽しませ喜ばせる事の出来る衣装を作って欲しいでス」
お客の言葉に我に返った彼女が尋ねると女性はそう説明する。
「どんな踊りですか?それが分からない事にはイメージが……」
「では、実際に踊ってみますネ。そうすればいいアイデアが思いつくかもしれません」
困った顔でアイリスが言うとお客がそう言って踊り始めた。その踊りは見る者を魅了し釘付けにするほど素敵で喜怒哀楽と言った感情表現に心が動かされるほどの素晴らしい舞に彼女はそれに見入っていた。
「どうですか?何かいいアイデアは浮かびましたカ」
「は……はい。お客様の踊りを見てイメージができました」
女性の言葉で我に返ったアイリスは慌てて返事をする。
「今日の夜の国王生誕祭のお祭りに間に合うように衣装を作ってください。夕方には取りに来まス」
「分かりました」
お客の言葉に彼女が返事をしたのを確認すると女性は店から出ていった。
「アイリス。お客様がいらしてたみたいだったけど、ちゃんと一人で接客できたようだね」
「あ、イクトさん。お帰りなさい」
「ただいま」
外に出ていたイクトが戻って来るとアイリスは笑顔で出迎える。
「それで、ジャスティンさんのご用事って何だったんですか」
「うん。今日は国王生誕祭の日だから、国王様のパーティーで着る用の衣装をうちの店で仕立ててくれないかとの相談だったよ」
「すごいじゃないですか。国王様の服を仕立てるなんて」
彼女の言葉に彼が答えるとアイリスは瞳を輝かせて喜ぶ。
「ははっ、そうだね。だがこの依頼の品を作るのは俺じゃなくてアイリス君だよ」
「へっ?わ、私ですか」
しかし次にイクトから聞かされた言葉に彼女は驚く。
「うん。隊長は君の腕を見込んで今回うちに依頼したいと言ってきたんだ」
「私が国王様の衣装を作るなんて……でもどうしよう。さっきお客さんから衣装を作ってくれって依頼されたばかりなんです。夕方までに二人の衣装を作れるかしら」
彼から話しを聞いたアイリスは困ったといった感じで考え込む。
「大丈夫、俺も手伝うから。二人で協力すれば半日で完成させることだってできるさ」
「はい。頑張ります」
イクトが手伝ってくれるならきっと大丈夫だと思った彼女は小さく頷き作業部屋へと向かう。
「前回の依頼を達成できたことで少し自信がついたみたいだね。……本当はもう俺が手伝わなくても大丈夫なんだろうけど、アイリスはまだ気付いていないみたいだな」
作業部屋へと入っていった彼女を見詰めながら彼がそっと独り言を零す。
「……そろそろ。頃合いかもしれないな」
真面目な顔で考えをまとめるとアイリスの待つ作業部屋へと向かった。
「イクトさん。今日お見えになったお客様は踊り子さんで、お祭りで披露する踊りで着る衣装を仕立てて欲しいと頼まれたんです」
「それで、どんな衣装を作るのかはもう考えてあるのかな」
部屋へ入ってきたイクトへと彼女が笑顔で声をかける。
「はい。こんな感じの衣装を作ろうと思ってるんですが……どうでしょうか?」
「うん。いいんじゃないかな。それじゃ早速型紙をあてて行こう」
「はい」
デザイン画を見せながら説明するアイリスへと彼が微笑み了承する。そして二人は衣装作りへと入っていった。
「このムームーの絹布にミルクルルの糸そしてポポタンカの羽でアクセサリーを作って……うん。この素材なら」
「それじゃあ縫い合わせは手伝うから、形を仕上げていこう」
「はい」
沢山ある素材の中から衣装に使う物を探すと裁断を始める。切り取った布をイクトが縫い合わせていく。
「これはまた……見た事のないデザインの衣装になったな」
「はい。お客様の踊りは人を魅了して虜にしてしまうそんな素敵な踊りだったので、この衣装ならよりお客様の踊りを引き立ててくれるんじゃないかと思いまして」
出来上がったのはへそ出しの衣装。上は肌が露出するくらい短いのに、スカートの丈は長く体にヒットする形の作りとなっていて、胸元にはギャザーがかかり金や銀のアクセサリーがついている。スカートにはポポタンカの羽で作った飾りがついていて、振動に合わせてゆらゆらと揺れる仕組みになっている。
「それじゃあ次は王様の衣装を作ろうか。隊長から王様の服のサイズを聞いてきたからその通りに裁断すればいいよ」
「はい。王様はどんな方なんですか」
メモ用紙を作業台の上に置きながらイクトが言う。それに目を通しながら彼女は尋ねた。
「そうだね、とってもお優しい方だとお伺いしている。それから厳格な方だとも。参考になるかどうかわからないが隊長から去年王様がきていた衣装を預かってきている」
「はい。これは……う~ん。なんだかごてごてしすぎていませんか」
彼が預かってきた衣装を見せるとアイリスは、堅苦しくそして派手な装飾がいたる所についた、いかにも重そうな服に思ったことを口に出す。
「派手な物が好きな方だと聞いている。それでこんなに装飾が多い作りとなっているんだろう」
「この衣装じゃ王様の良さが引き立っていないように感じます」
イクトの言葉に彼女は素直な感想を述べる。
「それじゃあアイリスならどんな服を仕立ててあげるのかな」
「私なら……」
優しい口調で聞かれた言葉にアイリスはデザインを紙に書く。
「もっと落ち着いていて清楚感と厳かな雰囲気を漂わせながらも王様としての威厳を感じさせるこんな感じの服を作ります。そしてもっと動きやすく見ていて重く感じる服ではなく軽い感じで見る人を安心させてあげられるような。そう、こんな感じでしょうか」
「うん。俺もその衣装の方が好きかな。それじゃあ王様に似合う服を作っていこう」
「はい」
デッサン画を見せながら説明する彼女へとイクトも同意して再び衣装づくりを開始した。
「できた……」
「お疲れ様。本当に夕方までに終わらせる事ができたね」
完成した衣装を見て達成感に喜ぶアイリス。イクトも労うように声をかける。
「イクトさんが手伝ってくださったおかげです」
「うん。それじゃあ俺はこの衣装を隊長に届けに行ってくる。アイリスは踊り子のお客様にその衣装を渡しておいてね」
「はい」
彼女の言葉に小さく返事をすると、出来上がった衣装を袋に詰めながらそう説明する。アイリスも衣装を持ち店内へと戻った。
「お願いした衣装を取りにきましタ」
「いらっしゃいませ。こちらになります」
夕日が差し込む店内にお客がやって来るとアイリスは急いで衣装を手に持ち近寄っていく。
「わぁお!素晴らしい。こんなに素敵な衣装をどうもアリガトウございます」
「いえ、お気に召していただけて嬉しいです」
衣装を見ただけで感激して喜ぶ女性に彼女も安堵して微笑む。
「是非ともあなたを今日のお祭りの会場に招待したいでス」
「あ、あの実はこれ私一人で作ったわけではなくて、このお店で働いているイクトさんと二人で作ったんです。なので私だけ招待を受けるわけには……」
自分だけが招待されるのは気が引けると思い断ろうとするとお客が納得した顔で頷きにこりと笑う。
「それならお二人を招待しまス。ぜひ私の踊りを見にいらしてください」
「は、はい。それなら喜んで」
女性の言葉にアイリスは二人一緒ならと招待を受けることにする。
「私はミュゥリアム。ミュゥて呼んで下さい。この街でお友達出来て私嬉しいでス。アイリスさんよろしくです」
「はい。私も新しいお知り合いが増えて嬉しいです。ミュゥさんよろしくお願いします」
ミュゥの言葉に彼女も素直に喜び笑顔になった。
それからイクトが戻って来ると招待されたことを伝える。それならばと彼が急いで衣装を仕上げると、アイリスは人生で初めてドレスアップして会場へと向かった。
「ま、まさか王宮の庭でやるとは思っていなくて……やっぱりお断りすれば良かったかしら」
「いまさら引き返したりしたらミュゥさんに申し訳ないよ。ほら、始まるみたいだよ」
庭に集まったのは上流階級から庶民まで様々な人達が一様に会し賑わいを見せていて、まさか王宮の庭で踊るとは思っていなかった彼女は場違いなところへ来てしまったと思い帰りたいと言い出す。
そんな彼女の様子にイクトが苦笑してやんわり止めるとステージに明かりがともったのを見てそう伝えた。
「皆の者今宵はわしの誕生日を祝ってくれて感謝する。今宵は楽しんでいってくれたらわしも嬉しい。そして今日はこのパーティーのための衣装を仕立ててくれた若き女流の職人も会場へと来てくれている。わしはいままで着てきた衣装の中で一番気に入っている。彼女へ大きな拍手を」
「!?」
ステージに立った国王は朗らかな笑みを湛え開催に伴う挨拶をするのだが自分の衣装を作ってくれたアイリスが来ていると知り彼女へ精一杯の感謝の気持ちを伝える。
会場内から大きな拍手を受け驚くアイリス。隣にいるイクトも笑顔で彼女へと拍手を送っていて気恥ずかしさと嬉しさとで頬を紅潮させた。
「さて、今日はこの生誕祭のために遠い異国からわざわざ踊りを披露しに来てくれている踊り子さんが見えている。紹介しようミュゥリアムさんだ。彼女はとても素敵な踊りで人々を楽しませてきた。その踊りを今宵は皆に楽しんでもらいたいと思う」
「みなさん。私の踊りぜひ見てくださイ」
国王が次にミュゥを紹介すると演奏家による音楽が始まり彼女の踊りが披露される。
その見たこともない踊りと華やかな衣装を身にまとったミュゥに人々は魅了され彼女の舞に見入っていた。
そして踊りが終わると会場中から溢れんばかりの拍手とはやし立てる口笛の音が響く。
こうして国王生誕祭の夜はふけっていきアイリスはイクトと共にお祭りを楽しんだのだった。
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