巡る物語(うた)の世界で

水竜寺葵

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十四章 力を得た者達

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 魂の覚醒をした千代達。そしてなにやら雪奈によって力を得た冬夜。

彼等を引き連れていよいよ毒霧の鬼無羅が納めている土地へと向けて旅立った。

「おや、皆さんの力がどれほど変わったのかを試すのには丁度良い鬼武者が現れましたよ」

「今の私達なら勝てる気がする」

トーマが前方から躍り出てきた鬼武者の姿に言うと、千代が自信満々な表情で弓を引き絞る。

「今回は俺と雪奈さんは様子を伺わせて頂きますので、皆さんの実力を見せてもらいますよ」

「……ま、頑張ってね」

トーマの言葉に雪奈も傍観する体制に入った。いつも前衛に立ってくれていた二人が後ろで見てくる状況に少し不安になったが、ここで引き下がってはせっかく実力をつけたのに意味がない。皆は武器を手に取り前へと進み出る。

「まずはおれから行きます。……食らえ!」

「で、俺が追撃する」

「では俺はそれに続こうかな」

布津彦が光り輝く剣で斬り裂くと、柳と風魔が後に続く。鬼武者は大きく仰け反りダメージにより動きを止める。

「私の踊りに魅了されなさい」

「オレの剣を食らいなさい」

「ほらほら、まだまだ行くぜ」

胡蝶が妖艶に踊りを舞うと鬼武者は魅了の術にはまり攻撃を止めてフラフラしていた。そこにライトとサザが剣とブーメラン型のナイフを振りかぶり攻撃する。こうして一体目の敵を倒すと残り二体となった。

「この剣に命をかける……はっ!」

「行け……」

「冬夜今何をしたの?」

忍が刀を振るうとその攻撃を食らい動けなくなった相手へと向けて冬夜が右手を突き出す。すると見えない攻撃により相手は倒される。一体何が起こったのか分からないと言いたげな顔で千代が尋ねると彼が雪奈をちらりと見てから口を開く。

「オレも戦えるようになりたくて、雪奈に頼んで特訓を受けた。この世界にいる精霊や妖と契約して力を得たんだ。皆の目には見えないけれどさっき攻撃したのも妖怪だ」

「そうなんだ。凄いね」

「千代、後一体だ。今こそ決める時だ」

冬夜の説明を聞いて納得した彼女へと彼がそう言って残りの一体を倒せと言う。

「皆が頑張ってくれた。だから今度は私の番……えい!」

「麗、今だよ。腕輪の力を使って」

「え?」

千代が銀に煌く矢を放つとそれを待ってましたと言わんばかりにケイトが麗に声をかける。しかし意味が分からず彼女は目を丸くした。

「麗の付けている腕輪はね。オオカミの神様からの贈り物。神様の力が宿っているの」

「だからその腕輪に願うんだ。そうしたら皆の力があがるよ」

「よく分からないけれど、分ったやってみる。……お願い皆を助けて」

「何だか力が湧いて来た。この矢に全てをかける……はっ!」

麗が言うと腕輪を握りしめて祈る。するとそれが光り皆の身体に力が宿る。

力が湧いて来た千代が言うと黄金に煌く矢を放つ。すると残っていた鬼武者も倒され戦闘は終了した。

「皆様素晴らしい成長ぶりですね。これならば酒呑童子も倒せましょう」

「戦闘にもだいぶ慣れたみたいだしね。この調子なら問題ないと思うよ」

拍手の音が聞こえそちらを見るとトーマが笑顔で喝采しており雪奈も皆を褒める。

「さあ、この調子で残りの無羅と影鬼を退治してしまいましょう」

「今の俺達ならできるかもしれないね」

「絶対に出来るわ」

彼の言葉に柳が微笑み言うと、千代も力強く頷く。

空船へと戻って来ると進路を北へと進める。すると辺り一面毒々しい色の紫へと変わった。

「何?」

「これは毒霧です。無羅の力ですよ」

「この中に入っていって大丈夫なの?」

千代が戸惑うとトーマが説明する。その言葉に顔色を青ざめさせて胡蝶が問いかけた。

「この霧には効力がないようですので問題はないでしょう」

「効力がない? こんなに禍々しいほどの紫色をしているのに?」

彼の言葉にライトが首をかしげて尋ねる。

「えぇ。誰かの力により毒霧の効力が弱まっているようです。いや~。良かったですね」

「……そろそろ降りる準備をしてよ」

雪奈がやったことを知っていながら彼がにやにやと笑い言う言葉を無視して彼女が声をかけた。

空船を下りると辺りは深い霧で覆われていて先が見えない。

「確かに吸っても苦くもなんともないな」

「ただの霞だと思って進みましょう」

風魔の言葉にトーマが言うと都へと向けて足を進める。

「っ、皆倒れてる!?」

「ぼく達は平気だけどこの人達は長い間毒霧を吸い続けてしまったから体調を崩してしまったんだよ」

「助けないと」

麗の悲痛な叫びにケイトが説明する。千代が助けようというと皆も頷く。

「助けてどうするの。無羅が生きている限りこの状況は続くんだ。根元を倒さない限り意味がない」

「みんなの気持ちはとーてもよく分かるわ。わたしだって助けたいもの。でもね、この人達を本当の意味で助け出すためにも今は我慢して」

しかしここで止めるように口を開いたのは雪奈だった。

彼女のもっともな意見に皆深刻な顔で黙り込む。ケイコがそう言うと納得とそれでもやはりという気持ちに揺れながら先へと進む道を選ぶ。

都へとやってくると無羅が住む屋敷の近くへとやって来た。ここが霧の発生源なのか今まで以上に濃くなって前も見えない程である。

「それで、ここからどうやって乗り込むんだ」

「胡~蝶~」

忍の質問にケイトがにこりと笑い胡蝶を見上げた。

「え……いやよ」

「だいじょーぶ。力を付けた胡蝶ならできるって」

その視線の意味を瞬時に理解した彼女が首を振って拒む。しかしケイコもにこりと笑い大丈夫だと語る。

「まさかまた魅了の術で無羅を何とかしようって言うんじゃないだろうな」

「無羅は煉獄とは違って馬鹿じゃない。魅了の術にはまるような奴ではない」

「それなら如何して魅了の術を使うのですか?」

サザが険しい顔で問いかけると雪奈は説明した。その言葉に布津彦が分らないと言いたげに首をかしげる。

「無羅にかけるのではなくて門番の兵士の鬼にやるという事ですよ」

「門番が魅了の術にはまったところを襲い、中に侵入するってことだな」

トーマの言葉で理解が出来た柳が話す。

「胡蝶にしかできない事。やってくれるよね」

「う……分かったわよ。でも襲われそうになったら皆が私を守ってね」

「大丈夫です。その時はオレ達が何とかしまーす」

冬夜に念押しされ皆もお願いだとばかりに見詰めてくるので胡蝶がついに折れて頷く。

ライトの言葉に励まされながら彼女は門番の方へと近づいて行った。

「あ、あの~。旅の者ですけれどこの霧で道に迷ってしまって……ここは何処でしょうか」

「っ! 美しい……是非俺の妻に」

「お前抜け駆けするな。俺の妻になってください」

胡蝶がもじもじしながら魅了の術を使うと簡単にはまった門番の兵が彼女を自分の妻にしようと争う。

「今です」

「はっ」

「えい」

トーマの合図により隠れていた忍とライトが兵士達を倒す。

「はぁ~。上手くいって良かったわ」

「さ、この調子で先に進むよ」

「……」

安堵の吐息を吐き出した胡蝶へと雪奈が無慈悲な言葉を放つ。それに彼女は泣きそうな顔で項垂れた。

そうして彼女の魅了の術を上手く使いながら先へと進みついに無羅がいる部屋の前へとやって来た。

「さ、乗り込みますよ。皆さん準備は宜しいですか?」

トーマの言葉に皆小さく頷く。それを確認した彼が扉をひき開けた。

「何者だ?!」

そこには小柄な体の男性が立っていて髪の色は毒霧と同じ紫色をしている。

「あんたが無羅? お前を倒しに来たんだ」

「はん。そうか貴様等が最近この辺りの鬼を退治して回っている異界から着たりし者達か。ここでオレが貴様等を倒せば酒呑童子様に褒められあの影鬼より地位が上になる。くくくっ。貴様等覚悟しろ」

動じない様子で柳が宣言すると無羅がにたりと笑い言い放つ。

「千代、麗、胡蝶。俺達の後ろに」

「さあ、鬼退治のスタートだ」

風魔が背後へと女子達を庇いながら前へと進み出る。サザがにやりと笑い言うと武器を構えた。

「オレから行く……やれ」

「っと……霊使いか。それもかなり強い力を持っている。だがオレには通用しないぜ」

冬夜が腕を振り下ろすと視えない攻撃が相手を襲う。しかしそれを半歩下がる事で避けると無羅がにやりと笑い飛び掛かって来た。

「はぁつ」

「ふん」

「ちっ……邪魔な奴等だ」

彼を守るために前へと進み出た布津彦と忍の剣が相手を拒む。無羅がその場から飛びのくと思い通りにならない状況に舌打ちする。

「ほらほら、食らえってね」

「オレの剣も受けてください」

畳み掛けるようにサザとライトが攻撃してくると相手は全て避けて背後へと退く。

「ちょこまかちょこまか……うざったいんだよ!」

「これは毒霧?」

「奴の手からまかれているのか」

両手を突き出し毒霧を放ってくる様子に千代が驚くと柳も呟く。

「……それで、足止めするつもり?」

「何?」

今まで傍観していた雪奈が言った言葉に毒霧が効いていない様子に無羅が驚く。

「あいにくと、君の毒霧は効かないように細工しておいたんでね……千代。麗今だよ」

「うん」

「はい」

にやりと笑い言うと背後にいる二人へと視線を向ける。千代も麗も分かっていた様ですでに腕輪と弓矢に力を込めていた。

「「いっけ~ぇえ」」

二人同時に声をあげると金色に輝く矢が放たれ無羅の右腕を貫く。

「輪廻の果てで眠れ……はっ」

矢を受けた事で体勢を崩した相手へと雪奈のナイフが心臓を引き裂いた。相手は灰となり消え去る。

無羅が倒されたことにより毒霧が無くなると晴れ渡る晴天の下、人々を救うために冬夜が解毒薬を大量に作り暫くの間この辺りに滞在しつつ過ごす。

解毒薬を毎日投与していって人々の体調が回復したのを確認すると次の目的地へと向けて空船へと戻っていった。
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