巡る物語(うた)の世界で

水竜寺葵

文字の大きさ
上 下
14 / 21

十二章 合流

しおりを挟む
 薄暗い森の中に緑の光が現れると、そこには赤ん坊を抱いた雪奈の姿があった。

「おや、お早いお戻りだな」

「その赤ちゃん如何したの?」

「……」

背後からかけられた青年と少年の言葉にそちらへと振り返る。

「ライチ、トーマ。それに晴義。ちょうどいいや。この子お願い」

「まさか……我に子守をしろと言うのか?」

赤ん坊を差し出してくる彼女の様子に男性が顰め面で尋ねる。

「……」

「事情は帰ってきたらしてもらうからな」

「気を付けてね」

問答無用で赤ん坊を差し出された晴義が抱き上げると、ライチとトーマが口々に言う。

「じゃ、行ってくる」

雪奈は小さく笑むと緑の煌きに包まれ星を渡る。

その頃雪奈が離脱した後、トーマは千代達を連れて空船へと戻っていた。

「でも、雪奈がいないのに空船を動かせるの?」

「えぇ。問題はありませんよ。彼女の魔力が残っていますので次の目的地までなら飛行できます」

千代の問いかけに彼が答えると空船を浮遊させるため操作する。

「雪奈、どこにいったですか?」

「知り合いに預けてくるって言っていたけど、この世界に知り合いがいるはずはないよな」

ライトの言葉に続けてサザも聞いてきた。

「さて、ね。雪奈は俺達と違ってこちらの世界に詳しいみたいだったし、もしかしたら知り合いがいるのかもしれない」

「トーマとも知り合いみたいな感じだったしな。もしかして雪奈はこっちの世界から来た人だったりして」

風魔の言葉に続けて柳も茶化すように話す。

「今ここで論じていても何の解決にもならないだろう。それよりもこれからの事について作戦を立てた方がいいと思う」

「作戦と言うと?」

忍の言葉に布津彦が首をかしげて問いかける。

「今までは雪奈やトーマが前線に立ち戦ってくれていたおかげで煉獄、悪鬼、怠婆を倒すことが出来たが、これから先はそうもいかないだろう」

「鬼も強い奴が残っている……そう言う事ね」

「私達では互角に戦えるかどうかも分からないですよね」

彼の説明に胡蝶が真剣な顔で言うと麗も不安そうに瞳を歪めて呟いた。

「だからこそ作戦を立てた方がいい……ってことだね」

「そうだ。今までのように何とかなる相手とは限らないからな」

千代も真剣な顔で考えると忍が小さく頷き答える。

「トーマ。残っている無羅と影鬼について詳しい話を聞かせてもらえないかな」

「分かりました。毒霧の無羅はその通り名のとおり毒霧で相手を病ませて苦しめそして死に至らしめる厄介な鬼です。彼の納める土地は皆毒霧の影響で人々は病に倒れている事でしょう。そして幻影の影鬼……奴は人が一番見たくない幻覚を見せて狂わせ、操ってしまう厄介な相手です。皆さんも奴の幻影にかからないように気を付けて下さいね」

「毒霧の無羅は何とかできそうな気がするけど、幻覚の影鬼って奴は厄介な相手かもしれないな」

風魔の問いかけにトーマが説明すると柳が顎に手を当て考え深げに呟く。

「そうですね。まずは二対の竜神の下へ向かいましょう。彼等なら何か策を考えてくれているかもしれませんからね」

「その竜神のいる所にはあとどのくらいかかりそうなの?」

彼の言葉に千代が尋ねるとトーマがふっと微笑む。

「もう間もなく到着致しますよ。この辺りは竜神の力により守られておりますので皆様も安心して過ごせることでしょう」

彼の言葉に皆安堵して吐息を漏らす。

「ここまで戦い続きでしたので、暫くこの地で休息して参りましょう」

船を近くの山の頂上に停めるとトーマがそう言って各々久々にのんびりとした時間を過ごす。

そうして一日休んだ後、いよいよ二対の竜神に会うため彼等が住む太古の森へと向けて足を進める。

太古の森があるのはかつて栄えた瑠璃王国の跡地の近くで古い遺跡が数多く残っていた。

「ここが太古の森?」

「空気が澄んでいる。ここは大丈夫」

千代が問いかける背後で冬夜が淡々とした口調で安心してよいと話す。

「冬夜ここが大丈夫だって分かる根拠があるのか?」

「根拠? ……う~ん。分かんない。ただ今まで感じていた嫌な気を感じないから?」

柳の問いかけに彼が首をかしげて疑問形で答える。

「聞かれたってオレ達じゃ分かんねぇよ」

「でも、確かにここに来てから鬼達の姿見てませんね」

サザの言葉にライトが鬼に遭遇していない事に気付いて話す。

「ここは二対の竜神が守っていますからね。さぁ、そろそろ森に入りますよ」

トーマが言うと先導して先に森の中へと入っていく。皆はその後に付いて行った。

暫くうっそうと生い茂る森の奥へと進んでいくと小さな祠が現れる。

『我が愛しき君……待っていたぞ』

「え?」

急に空から轟いた男性の声に千代が驚く。

『やれ、お前はまだ引きずっているのか……もう記憶も遠のくほどの昔の話であろう』

もう一人の男性の声に皆は姿を探す。すると金と銀の柱が昇り祠の上に二対の竜神が現れる。

「お久しぶりです」

守護する者ガーディアンか、久しいな』

『まだ、守護する者ガーディアンを続けていたのか』

トーマの言葉に金色の竜と銀色の竜がそれぞれ話す。

「えぇ。千代様達を導くために、守護する者ガーディアンを辞めるわけには参りませんので」

『ふむ。賢者様の姿がないが如何した?』

「雪奈さんとは今別行動中でして、すぐに戻ると思いますよ」

『では、それまでにこの者達に説明をしろというのだな』

金竜の言葉に彼が答えると銀竜が面倒だといった感じに溜息を吐き出した。

「あらかたの事は説明しましたが、皆様はまだ半信半疑でしてね」

「私達が輪廻転生した瑠璃王国の関係者だって聞いたけれど、それは本当の事なのですか?」

トーマが言うと千代が一歩踏み出し尋ねる。

『あぁ、本当だ。貴女は紛れもなく瑠璃王国の姫アオイ様の魂を継承している。そしてそちらにいる者達もまた……』

『あまり思い出したくない記憶だがな……』

『銀竜はそうでしょうねぇ』

『笑うな!』

二匹の竜だけで話をされても千代達には何のことだか分からず疑問符を浮かべた。

『さて、魂の覚醒はしているようですが、まだその使い方が解っていらっしゃらないようですね』

『なれば、ここで力の使い方を説明してやろう』

竜神達が言うとそれぞれ一人ずつ呼ばれ力の解放を試みる。

そうして何となく使えるようになったころに森の中に足音が響いた。

「……ちゃんと力の使い方を教わったみたいだね」

『雪奈か……』

雪奈の姿に金竜は頭を下げ、銀竜は顰め面をする。

「これからの旅はより過酷となると思う。皆は暫くここで力を付けた方がいい」

「まさか、こんな森の中でずっと野宿しろとか言うんじゃないだろうな?」

彼女の言葉に冗談じゃないと言いたげに柳が尋ねた。

「ずっと野宿が良いならそれでもかまわないけど……この近くに神殿があるから、そこで寝泊まりすればいい」

「神殿?」

雪奈の言葉に麗が首をかしげる。

「時の神殿ていってね、昔僕がよく使っていた場所だよ」

「昔使っていたって……やっぱり雪奈さんはこの世界の人なのですか?」

彼女の言葉に布津彦がさらに疑問を抱き問いかけた。

「……君達と同じで、僕も昔瑠璃王国に関係していたんだよ」

「それじゃあ、雪奈も生まれ変わり?」

「さてね。そろそろ行くよ。神殿まで少し歩くからさ」

雪奈の話を聞いて千代が問いかけるがそれにはごまかすようにはぐらかし先を促す。

そうして彼女について歩く事数時間後にうっそうとした森の奥に神殿が姿を現す。

「ここが時の神殿だよ。部屋は自由に使っていいよ」

彼女の言葉に神殿を見上げていた皆は中へと入る。

「あら、これは何かしら?」

「中に何か……っ!? 人だ」

胡蝶の言葉にそちらに近づいて装置の中を覗き込んだサザが叫ぶ。

「麗、ちょっとそっちに近づいてみなよ」

「え?」

何が面白いのかにやにや笑いながら言われた雪奈の言葉に不思議に思いながらも装置の側へと近寄ってみる。

『!?』

すると途端に麗の腕にはめられていた腕輪から光が放たれ一同驚く。

「「う……うぅ~ん」」

装置の扉が開かれると中で眠っていた双子のように顔がそっくりな女の子と男の子が大きく伸びをする。

「やぁ、よく寝た」

「ふぁぁ~。ようやく起こしてくれたのね」

男の子が言うと女の子もにこりと笑い麗の顔を見やった。

「君が起こしに来てくれる日をずぅ~っと待っていたよ」

「貴女が麗奈の末裔ね。ふふ。麗奈によく似ているわ」

男の子がにこりと笑い言うと女の子も微笑み語る。

「あ、あの……貴方達は?」

「ぼくはケイト」

「わたしはケイコ」

「「よろしくね!」」

呆気に取られていた千代だったが何とかそう声をあげると、二人がにこりと笑い答えた。

「それで、君の名前は?」

「そーそう。わたしたちの新しい主の名前を聞かないとね」

「え、私? 私は麗……です」

ケイトの言葉に続けてケイコも尋ねる。それに戸惑いながら麗が答えた。

「麗か……うん、いい名前だね」

「麗、説明するからちゃんと聞いてね」

「は、はい」

装置の中で眠っていたケイトとケイコ。一体この二人は何者なのか、これから何が語られようとしているのか千代達は戸惑いながら彼等を見詰めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...