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第十三章 龍鬼と白き竜

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 時の神殿でゆっくり休んだ神子達は刹那の案内で迷いの森へとやって来る。

「この先は僕の後にちゃんとついてくるんだよ」

「いよいよなんですね。……分かりました。刹那さん、お願いします」

彼女の言葉に神子は真剣な顔をして小さく頷く。それを見届けると刹那は森の中へと足を踏み入れていった。

「……ちょっと待った。邪神の下に近づいていってるって言うのに、こんなにも不気味なほどに静かで、荒魂達が出現しないなんて何かおかしくないかしら」

「ああ、それは俺も思っていた。奴の下に近づくにつれて接戦を余儀なくされると思っていたからな」

森の中へと入り少し進んだところでレインが声をあげる。それに伸介も同意して頷いた。

「信乃や紅葉や蒼の結界の力が働いているにしたってちょっと前までは敵と対峙しながら進んでいたよね」

「たしかにそうでしたね。だが時の神殿を出てからは全然遭遇していない」

弥三郎の言葉に亜人が答えると訝し気に呟く。

「ああ、それは俺達の力とは違う力が働いてるからじゃないかな」

「今朝起きた時から別のものの力を感じていた。その者の力が働いていることにより荒魂達を遠ざけているのかもしれない」

「別の人物っていったい誰が?」

紅葉と蒼の言葉に信乃が不思議そうに首をかしげて尋ねる。

「それは僕の力さ。僕は時の精霊だ。今は人間の姿になっているけど、この緑石に力を込める事で精霊の力を発揮することができるんだ。昨日の夜僕はこの北の地一帯に結界を張った。それによりレベルの低い敵は入ることができなくなったんだ」

「つまり賢者様のお力が働いているから、この辺り一帯にいた荒魂や悪鬼や魔物は、結界の外へと追いやられたという事ですね」

刹那がそれに説明するように話すと文彦が納得した顔をして言う。

「そういうこと」

「これならば敵と戦って疲れた状態で邪神と対峙する事にならなくて済みますね」

「賢者様は本当にレベルが違いすぎる。敵に回すと恐ろしい存在だな」

彼女が肯定すると優人が良かったですねといった感じに話す。賢者が敵でなくて本当に良かったといった顔で栄人が呟いた。

「さ、先に進むよ」

刹那の言葉により再び邪神の下へと向けて森の中を歩き始める。

暫く薄暗い森の中を歩いていくと少し開けた空間へとたどり着く。

「この先に邪神がいる」

「この先に……」

一旦足を止めると刹那がそう説明し森の奥へと視線を送った。その先へと目を向けた神子は呟き、いよいよかと覚悟を決める。

「この気は……邪悪な存在が近くにいる」

「神子様オレ達の後ろへお下がりください」

「そこにいるのは誰だ」

栄人が警戒した声をあげると亜人が動き神子の前へと立つ。伸介も木立の奥へと睨みをきかせた。

「神子様……」

「龍鬼さん? どうしてここにいるのですか」

木立の奥から現れた人物は龍鬼で、悲しそうな顔で声をかけてくる彼へと神子は驚き尋ねる。

「神子様、貴女は本当に邪神の下へと向かうおつもりですか」

「えっ」

「邪神は神子様のお命を狙っております。それが分かっていながらもあの者の下へと向かうおつもりなのですか」

悲しげな顔のまま龍鬼が尋ねた言葉の意味が解らず彼女は目を瞬く。彼が再度聞いてきた言葉に神子は如何したのだろうと思いながらその瞳を見詰めた。

「それが世界を救える道であり、私がなさねばならない事なのならば。邪神から逃げることは絶対にいたしません」

「……そうですか。神子様貴女をこれ以上先へと進ませるわけにはまいりません。どうしてもこの先へと行きたいというのならばおれは貴女を止めます」

「どうしてですか。龍鬼さんが、どうして……」

彼女の言葉に龍鬼が一旦目を閉ざすと覚悟を決めた瞳で刀を抜き放つ。その様子に神子はどうしてか分からず悲痛な声で尋ねた。

「神子様……おれは記憶を取り戻したのです。100年前邪神が封印される祠が震災により壊れたことによりあの者は目を覚ましました。瑠璃王国の姫と腕輪を持ちし者の力が込められた破魔矢の影響により彼の体から離れた邪神の半身。白き竜の姿をした悪鬼……それが俺の本当の正体なのです。おれの本当の名は白竜はくりゅう。邪悪なる力と心の半分。それがおれなのです」

「龍鬼さんが……そんな」

悲しげな眼差しのまま語られた言葉に神子は驚く。

「どうしてもあの者の下へと向かうというのならば、神子様のことをおれが止めるしかありません」

「龍鬼さん……」

悲しげな瞳で見やる彼女へと龍鬼が強い口調で言い切り刀を突き付けてくる。

「神子様お下がりください」

「相手は本気で君を止めるつもりだ。うかつに近づかない方がいい」

そんな彼女へと亜人が下がる様にいい刀を抜き放ち構える。神子の前へと駆け寄り栄人も言う。

「戦うしかない……それがどんなにつらい未来が待っていようともね」

「……」

刹那の言葉に悲しい気持ちのまま弓矢を構える。

本気で戦いたくない神子の気持ちとは裏腹に悲しい戦いは幕を開けた。龍鬼が刀を振りかぶり攻撃するたびに伸介達が応戦する。

「相手は邪神の半身だ。気を抜くなよ」

「だが形勢はこちらが有利だ。このままま一気に奴を倒すぞ」

伸介の言葉に隼人がそう答えて相手へと突っ込む。

「皆頑張れ~」

「ワタシ達も攻撃するよ~」

ケイトが応援すると皆の士気が高まる。続けてケイコが龍鬼へと向けて拳を突き付けポコポコと殴る。表現は可愛いがクリティカルが出るととても痛い攻撃である。

「お願いです。皆さんをお守りください」

かのえひのと

優人が腕輪に祈りを込めると見えない加護の力が仲間達を包み込む。そこにじゅじゅをとりだし神経を統一させていた信乃が唱えると、敵を阻むように光の壁と炎の渦が現れ視界を遮る。

「ほら、これでも食らいな。……ちっ。ちょうか」

喜一がサイコロを振って相手にぶつける。出た目が偶数か奇数かで相手への攻撃力が決まる。半が出れば大ダメージを与えられるため今回丁だったことに舌打ちした。

「大丈夫ですか。この薬を飲んでください」

「有難う。あの波動には気を付けて。あれに当てられるとしばらく動けなくなるから」

龍鬼の放った波動によりダウンしていた弥三郎へと文彦が薬を煎じて飲ませる。それにより身動きが取れるようになった彼が皆へと警戒するよう話した。

「はぁっ」

「ふん……あんまり効いてないみたいだな」

レインとアシュベルが息の合った攻撃を仕掛けるも相手にはあまり効果がない様子。

「そのようね。やっぱり邪神の半身てだけあって簡単には倒せない相手なのかも」

「物理攻撃はあまり効き目がないみたいだからな」

兄妹で話し合うとそれならばといった感じで切っ先を相手へと突きつけ精神を集中させる。

「唸れ雷鳴」

「轟け赤き雷」

「っ……」

レインとアシュベルが言うと切っ先から雷が龍鬼へと向けて放たれる。それを食らった相手が一瞬顔をゆがめた。

「やっぱりね」

「ああ。あいつは特殊能力の攻撃なら効くようだ」

にやりと笑う妹へと頷き答えると兄が皆へ向けて説明する。

「そういう事ならここは俺達の出番だな。ほらほら、こいつを食らいやがれ」

「切り裂け。風刃」

紅葉が任せろと言った感じで笑うと炎を相手へとぶつける。そこに蒼が放った風の刃が龍鬼の体を切り刻んだ。

「くっ……」

「神子今だよ。その弓矢で射貫くんだ。彼が「龍鬼」でいる間に。邪神が彼を飲み込む前にね」

「……は、はい」

体中を切り裂かれ膝をついてダウンする相手の様子に刹那がそう言う。それに返事をした神子は弓を引き絞り狙いを定める。

「……」

「……」

戦意喪失したかのようにその場から動かずじっと射貫かれるのを待つ龍鬼に弓を構えたまま戸惑い躊躇う神子。

「神子様早く奴を射貫かねば」

「何してんだよ。早くやれよ」

その様子に亜人と伸介がたまらず声をかける。

「……やっぱり、私にはできません。龍鬼さんを殺すなんて」

「君がやれないというのなら僕がやる」

弓矢を下ろしうなだれる彼女の様子に刹那がそう言うと短剣を片手に龍鬼へと向けて駆け込む。

「刹那さん、待って!」

「……」

刃を振りかぶる姿に神子がたまらず悲痛な声をあげた。

「……感謝します。賢者……様」

「君に安らかな死を……」

苦しそうに声を振り絞り倒れ込む龍鬼へと彼女はそっと優しく声をかける。

「刹那さんどうして。話し合えば、分かり合えたかもしれないのに。殺さなくても助けられたかもしれないのに……」

「彼は邪神の半身だ。いつ理性を失うか分からない。そうなれば彼は君を殺す。そうなる前に殺してあげる事の方のが彼のためなんだよ」

涙目で訴えてくる神子へと刹那が淡々とした口調で説明した。

「でも……」

「それに君はなにか勘違いしている。僕が殺したのは「白竜」としての彼であって「龍鬼」ではない」

それでもといいたげに食って掛かる神子へと彼女はまあ待てと言った感じに話す。

「え?」

「うっ……」

その言葉の意味が解らず目を瞬く彼女の耳に龍鬼のうめき声が聞こえてきた。

「龍鬼さん?」

「神子、様……?」

驚いて彼の姿を見詰める神子に自分がなぜ生きているのか不思議そうな顔で龍鬼も呟く。

「白き竜神よ。君の中にある邪神とのつながりを断ち切った。もう君は白竜ではない」

「賢者様……」

不思議そうな彼等へと刹那が説明するその言葉に彼が呟きを零した。

「白き竜よ。君を縛り付けていた楔はもうない。これからは君の望むままに自由に生きるといい」

「有難う御座います。……神子様。俺に名を与えてはくれませんか?」

相変わらずぶっきらぼうだが優しく諭すように話す彼女の言葉に、お礼を言うと神子へと真っすぐな瞳を向けて尋ねる。

「はい。では……「龍樹たつき」さんではどうでしょうか」

「畏まりました。主よ今この時より貴女のお身をお守りする竜神として貴女に仕えることを約束いたします」

こうして龍樹という名を与えられた白き竜は神子を加護し守る守護竜として彼女の側にいる事となったのだった。
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