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第九章 腕輪を受け継ぎし者と集いし兄弟達

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 記憶喪失の男性龍鬼と会った日からさらに月日は流れ神子達は今邪神が封印されている迷いの森へと向けて北の地を目指して旅を続けていた。

「村を出てから大分歩いたよな。まだ次の町までは遠いのか?」

「この地図によればこの近くに小さな集落があるみたいですが、何処にも見当たりませんね」

しばらく歩いていると伸介がそう声をかける。それに地図を確認しながら文彦が答えた。

「方角を間違えたとかじゃないよな? 何だかさっきから同じ棚田ばかり見てる気がするんだが……」

「棚田なんて色んな所にあるでしょ。似たような感じだから同じに見えるだけじゃないの」

喜一が不安そうな声をあげると弥三郎がそんなはずはないだろうと言う。

「でも私もあのお地蔵様をさっきも見たような気がして……」

「お地蔵様ならここに来る途中幾つもみましたので、この辺りでは当たり前のように祀られているのではないでしょうか」

「そうですよね。似たようなのを見てるから不安になるのかも」

神子の言葉に亜人がそう尋ねるように話す。彼女もそうかもしれないと思い頷いた。

「だけどさ、このまま次の目的地に辿り着けなかったらこの辺りで野宿することになりそうだけど、本当にこのまま進んでて大丈夫なの」

「す、すみません。神子様……私……もう歩けないです」

レインが大丈夫なのかと尋ねた時、顔色の悪かった信乃がとうとう動けなくなってしまったようで声をあげる。

「神子さんも信乃も疲れてるみたいだし、ちょっとこの辺りで休憩しながら方角を確認してみたらどうだ」

「それもそうだな。ではあの葦原の辺りで休憩しよう」

その様子に紅葉が提案すると隼人も同意して葦原の近くに移動して休憩することとなる。

「弥三郎様、神子様。どうぞお座りください。お茶の用意もできております」

「有難う御座います。亜人さん」

いつものように敷物を敷いて神子達へと給仕する亜人。それにすっかり慣れてしまった神子は笑顔で礼を言うとそこに座り彼が注いでくれたお茶を飲む。

「ほら、信乃これを食べろ。元気が出るぞ」

「うん。紅葉有難う」

紅葉が言うとお饅頭を手渡してくる。それを受け取った信乃はお礼を言って頬張る。

「信乃、喉が渇いてるだろう。これを飲め」

「蒼君も有難う。すごく冷たいお水だね。こんなの何処にあったの?」

「いつも持ち歩いている水筒の水に神術を使って元気が回復するように気を込めておいたんだ」

すると今度は蒼がそう言って水筒にいれていたお水を竹のカップに注ぎ手渡す。それを受け取り一口飲むと生ぬるい水ではなくまるで汲みたての冷たいお水の様に澄んでいておいしかったため驚いて尋ねた。彼がそれにふわりと笑い術を使ったと答える。

「う~ん。やっぱり方角を間違えているわけではなさそうですね。でも、だとしたらどうして集落に辿り着けないのでしょう」

「その地図が古すぎるんじゃないのか? 集落はもう存在してないとかってなったら最悪だな」

地図と道とを交互に見ていた文彦が困った顔で言うと伸介がそう話して頭をかく。

「棚田があるんだからこの辺りに人が住んではいると思うんだけどな……」

「ここに来る途中に分かれ道があったじゃない。森の方に続いてる道がさ。もしかしてそっちに行けば集落があるのかもしれないわよ」

喜一が呟いた言葉にレインが仮説を唱える。

「お前達こんなところで何をしている?」

『!?』

突如人に声をかけられ驚いて葦原の広がる背後へと振り返る。するとそこには怪訝そうな顔で立っている金髪の少年がいてその背後には顔のよく似た茶髪の男性がいた。

「栄人、いきなり声をかけたから皆さんビックリされているようだよ」

「おっと、それは失礼した。……何やら困っているようだったからな、つい声をかけてしまったんだ。それで、お前達こんなところに座り込んで何をしているんだ」

男性の言葉に少年が子供とは思えない口調でそう言って尋ねる。

「えっと、この近くの集落を探して歩き通していたのですが、疲れてしまってここで少し休憩していたんです」

「集落……ふふ、なるほど。あ、いえ。笑ってしまってすみません。ですがその集落はそう簡単には辿り着けませんよ。なぜならそこに行くには結界を解かねばならないので」

「結界?」

神子の言葉に男性がおかしそうに笑ったので皆して彼の顔を見詰める。それに気づいた男性が微笑み答えた。その言葉に信乃が不思議そうに首をかしげる。

「はい。もしよろしければその集落までご案内します」

「それはありがたい。頼めるか」

男性の言葉に隼人が頼むと彼はにこりと微笑む。

「分かりました。ぼくは真人。こちらはぼくの弟の栄人です」

「よろしく。それで、ずっと気になっていたんだが、もしや貴女が今世間を騒がせている神子様ではございませんか」

真人と名乗った男性の言葉に従い軽く会釈すると栄人がそう言って神子をまじまじと見つめた。

「は、はい。そうです。私が神子です」

「やはりそうか。……貴女にお会いできる日をずっと夢に見ておりました。真人、ようやく俺の夢がかなったぞ」

「栄人は昔から神子様の旅に同行することを夢見てたからね。ようやく願いが叶ってよかったね」

彼女はまじまじと見られて恥ずかしがりながら返事をするとそれを聞いて嬉しそうに栄人が笑う。

真人が良かったねと言って微笑むと皆不思議そうに兄弟を見やった。

「神子の旅に同行することが夢って、なんでまたそんな夢を?」

「俺のご先祖様が瑠璃王国の姫さんと共に旅をして世界を救ったように、俺もまた神子様を助け世界を救いたいと思ったからだ」

弥三郎の問いかけに彼が誇らしげな顔で答える。

「先祖って……まさかあんた達の先祖って」

「真人~遅い~」

「栄人~遅い~」

レインが何かに気付いて口を開いた時少年と少女の声が聞こえてきて二人の人影が真人と栄人に突っ込んでくる。

「あいかわらず……いきなり突っ込んでくる癖は治らないみたいだね」

「だって、だって、真人の事大好きなんだも~ん」

抱きつかれた反動でよろけながらも突っ込んできた少年をしっかりと受け止めた真人は優しい口調でそう話す。それに少年が頬擦りしながら嬉しそうに答えた。

「その程度受け止められないとでも思ったか? 武士である俺をなめてもらっては困る」

「ぐぬぬ……今日は上手く行くと思ったのに」

一方栄人へと向かって突っ込んでいった少女の右手首をしっかりと掴み攻撃を防いだ彼がにやりと笑い言うと彼女は不貞腐れた顔で愚痴る。

穏やかな光景と火花を散らし合うという対極の様子に神子達は如何したものかと戸惑う。

「それよりお客様だよ。二人ともちゃんと挨拶して」

「うん、ボクはケイト。神子様達に会える日を首をなが~くして待ってたんだ」

「ワタシはケイコ。神子様達に会える日が来るのを何百年もの間待ち続けてたんだからね」

真人の言葉に双子の様にそっくりな少年と少女がにこりと笑い自己紹介する。

「えっと、どういう意味ですか?」

「話は部屋の中で、お茶でも飲みながらゆっくりしよう」

疑問符を浮かべる神子へと真人がそう提案して近くの建物の中へと入っていった。

「まずはこの集落についてだけど、この集落は邪神に見つからないように結界がはってあるんだ」

「邪神に……」

部屋の中へと入りお茶を飲み一服つくと真剣な顔になった真人がそう口を開き語りだす。その言葉に伸介が邪神が絡んでいることに目を鋭くする。

「そう。この集落にはかつて瑠璃王国に仕えていた人が身を隠しているんだ。だから邪神に見つからないように結界がはってあり、結界の中へ入る為にはある手順を踏まねば入れないようになってるんだ」

「手順とは?」

「ここに来る途中にお地蔵様が点々と並んであっただろう。その地蔵の中心つまり葦原の中に入り右足で地面を三回叩く。それをしなければ結界の中にはいれず、ずっと同じ場所を彷徨い続けることになるんだ」

彼の言葉に亜人が怪訝に思い尋ねた。それに栄人が答えると皆ずっと同じ場所をぐるぐるしていたように感じたのは間違いではなかったのだと納得して頷く。

「それでさっきあんた達の先祖がどうのって言ってたけど、まさかあんた達の先祖も聖女伝説の幕開けを作った瑠璃王国の人達の末裔の誰かなのか?」

「ぼく達の先祖はかつて瑠璃王国の姫様と共にこの世界を救った神々や精霊に愛されし聖女。麗奈様です」

伸介の問いかけに真人が答えると皆驚いて目を見開く。

「それじゃあ貴方達が腕輪を持ちし者の末裔ってこと」

「ああ、そうだ。だが残念ながら俺も真人も腕輪を継承できなかった」

「そうして腕輪を継承できなかったぼくは人形使いとなり、栄人はこの集落を守る武士としてここで働いているんだ」

喜一の言葉に栄人がそうだと頷くも残念そうな顔をして答える。真人も続けて説明した。

「このケイトとケイコはからくり人形で、先祖代々受け継がれてきた。そう麗奈様が生きていた時代からずっとね」

「だから貴方達にあった時に何千年もの間会える日を待ち続けていたって言ったのよ」

「神子様達を見てすぐにピンと来たよ。ああ、この人達がボク達が長い年月待ち続けていた本当の意味での聖女伝説を終結させる英雄達なんだって」

彼が横に座るケイトとケイコへと視線を向けて説明すると二人がにこりと笑い話す。

「ちょっと待って。あんたたち二人が腕輪を継承できなかったなら一体誰が今腕輪を持っているの。まさか誰も継承できなかったなんて言わないわよね」

「アレクみたいに頭が切れるんだね。流石はアレクの血をひいてるだけはある。大丈夫だよ。安心してちゃんと腕輪は継承されたから」

レインが話を聞いて不安に思いそう尋ねるとケイトがにこりと笑い説明する。

「はい。その通りです。光の女神さんご心配には及びませんよ。僕がちゃんとこうして先祖代々受け継がれてきた腕輪を継承いたしましたので」

『!?』

その時扉が開かれそこから現れた新たな人物が穏やかな口調でそう話した。いきなり人が現れた事に神子達は驚きそちらを凝視する。

「優人、久しぶりだね」

「お前が来ることは分かっていた。待っていたぞ。俺より大きくなるとは……兄としてはちょっと複雑な心境だな」

真人が柔らかく微笑み言うと栄人が複雑そうな顔をして毒づく。

「お兄さん? ごめんなさい私てっきり栄人さんの方が弟さんかと」

「誰がちび助だって? 俺はこう見えてももう19歳だ」

神子が驚きつい口に出して言うとそれに彼が怒って眉を跳ね上げた。

「まあまあ、栄人お兄様落ち着いてください。血族の中の誰か一人は体が小さいまま大きくなれない人がいるって聞かされていたでしょう。イヨ様もそうだったって聞いてます。だから栄人お兄様も体が大きくなれないかもしれないってお母様たちに言われていたじゃないですか」

「その通りだが、弟より年下にみられて腹を立てない兄はいまい」

その様子をなだめるように少年が言うと栄人が腕組みしてぶっきらぼうに呟く。

「栄人お兄様は相変わらず血の気が多いお方ですね。神子様だって悪気があっていったわけではないのですから、どうかお怒りを鎮めて下さい」

「……まあいい。こうして俺達兄弟が三人そろうのも久しぶりだな」

「そうだね。大人になってからは皆それぞれ散り散りになっていたから」

くすりと笑い少年が言うと腕を組んだままの状態で彼が笑顔になり話すと真人も同意して答える。

「ですが、信託の神子様が現れた事によりまたこうして集結できました。そしてその時こそ僕達が神子様方のために力になる時であり、僕達兄弟の絆で困難に立ち向かう時でもあります」

「優人は昔からどこか遠くを見ていたと思っていたが、なるほど。この時が来ることもそして自分が何をなさねばならないのかも全てわかっていたというわけか」

「それでぼく達をここに呼び出したってわけだね」

少年の言葉に兄達が納得して頷き合う。

「はいそうです。お兄様達に神子様達と出会わせるためここに来るようにお願いしたんです」

「あのさ、さっきからお前ら兄弟だけで話し進めて納得するなよな。少なくとも神子さん達は理解できていないみたいだからさ」

微笑み大きく頷いた少年へと置いてけぼりになっている神子達の様子を見て紅葉が声をかけた。

「ごめん紅葉私もよく分かってないの……」

「私もこればっかりはさっぱりだね」

そこに紅葉へと信乃が申し訳なさそうに声をあげる。レインも難しい顔をして答えた。

「信乃とレイもわかってなかったみたいだぞ」

「ま、そういうわけだからちゃんとわかるように説明してやってくれないか」

蒼の言葉に紅葉が言うと説明してくれと頼む。

「これは失礼いたしました。はじめまして皆さま。僕は優人。……今でこそ伝説の聖女として英雄伝に歌われる異世界からの救世主と言われる麗奈様。僕達兄弟はその麗奈様の血をひく末裔の者。そして僕こそ腕輪を継承せし者。これが伝説に出てくる神々や精霊が宿る腕輪です」

「それが伝説の腕輪……」

「実在していたのか……てっきりただの伝説かと思ってたぜ」

優人が微笑むとそう言って語り左手首を上げると金色に輝く腕輪を見せる。その様子に神子が興奮した様子で観察すると伸介もまさか伝説が本当だったとはといった感じで呟く。

「腕輪を継承した日より僕の運命は決められておりました。それは悪しき存在……そう邪神を打倒すために神子様方に力を貸す事。そして今度こそこの因縁深い相手をこの世から消し去る事。その使命を課せられております。ですから本日より僕達兄弟は神子様達の力になるべくあなた方の旅に同行したいと思います」

「これで役者はそろったってわけだ。後は伝説の賢者が現れれば怖いものなしって事だな」

彼の話を聞いて喜一がにやりと笑うとそう言った。

「ぼく達兄弟が力を合わせれば神子様達のお役に立てることでしょう。よろしくお願い致します」

「神子様のお身は必ずや護ると約束しよう。俺に全て任せてくれ」

「はい。真人さん、栄人さん、優人さん。これからよろしくお願い致します」

真人が微笑み言うと栄人が力強い口調で宣言する。それに神子も心強いといった感じで微笑んだ。

「ボク達の力を邪神に見せつけてやろう」

「ワタシ達にどーんと任せてね」

「ケイトさんとケイコさんもよろしくお願いします」

ケイトが言うとケイコも笑顔で胸を叩く。その様子に彼女は勿論だって感じで頷き答える。

こうして腕輪を継承せし少年……優人とその兄である真人と栄人が仲間となり、またからくり人形のケイトとケイコも加わって、こうして集い合った者達でいよいよ邪神のいる迷いの森へと向けての旅が本格的に始まるのであった。
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