22 / 40
番外編 本編後 始まりを告げる時
しおりを挟む
およそ100年前に栄えた瑠璃王国の王族の血を引いた男性と貴族の娘の間に一人の女の子が生まれた。しかしその赤子の髪の色も肌の色も両親とは似ても似つかない雪の様な真っ白だった。
父親はそれでも我が子だからと大事に育てようとしたが、母親は産後のストレスもあったのか「おぞましい妖」だと叫び血の繋がった娘を殺してしまえと喚く。
困り果てた父親は信仰しているお山の天狗に相談しに行き、天狗は「時が来るまで何処か別の次元で安全に育て上げればよい。嘗てお前の先祖である瑠璃王国の姫がそうして育ったように」と助言し、父親から赤子を預かると天狗は時空のひずみを生みだす榊の森の中から別の次元軸へと飛んでいった。
それから時は経ち赤子が6歳になった時天狗は彼女に陰陽の術を教え始める。
「どうして紅葉は私に陰陽道を教えるの? 私は普通に暮らしていたいのに」
「それがお前の身を守ることになるから教えるんだ。それにその術式が使える様になれば怖いものを払うこともできる」
陰陽についての基礎知識を叩きこまれながら少女……信乃が尋ねた。それにオレンジの髪のチャラい男、紅葉が答える。
「……この目に映るのはやっぱりよくないモノなんだね。どうしてこんなものが見えるの? クラスの子達は皆私の事を嫌うのもきっとこんな力があるからだよ」
「そんなにつらいか……なら時が来るまではその目を閉ざそう。しかし、いつかお前が嫌うその目がお前を守ってくれる日が来る。だからな信乃。お前がどんな姿をしていようとどんな能力を持っていようと、どんな未来を迎えると分かっていようと、お前が俺の大切な家族であり、そしてかけがえのない娘であることには変わりない。俺だけはお前の味方だよ。学校で何を言われようと気にするな。お前のその髪も瞳もとても綺麗な色だと俺は思う。だから、もうそんな顔するな」
悲しくて泣き出しそうな顔で俯く彼女に彼がそう言って微笑む。
「紅葉……私学校なんか行きたくないよ。ずっと紅葉と一緒にこのお山にいる」
「だめだ。俺は仕事があるからこの山の寺にいるが、お前はもっとたくさんのことを学ばなきゃいけない。だから今は学校で勉強を頑張るんだ」
信乃がわがままだって分かっていながらもそう泣きじゃくり頼むも、紅葉はあっさり首を振って答える。
「それなら陰陽の術を教えてもらう間はここにいさせて。だからそれをちゃんと覚えたら学校にも行くから。だからお願い」
「それは学校が終わってからでも十分にできることだ。だけど学校で習えることはうちではならえない。いいか、信乃にはまだ分からないかもしれないが、知識を得ることは後々お前を助ける知恵になるんだ。だからどんなに嫌だろうとも学校だけはちゃんと行け。その代わりちゃんと行けたらご褒美にあそこに連れていってやる」
必死に祈願してくる彼女へと彼が申し訳なさそうな顔で首を横に振り否定すると諭すように話した。
「ほんと! 本当にあそこに行けるの?」
「ああ。だから学校に行って勉強だけは頑張れよ。そうしたらお前が大好きな山林寺につれていってやる」
瞳を輝かせ確認するように尋ねる信乃へと紅葉が笑顔で力強く頷き肯定する。
山林寺とは紅葉が働いている寺の名前で、その中の仏の間というところに沢山の仏様が祀られていて、その中央に信乃が好きな仏がつかったと呼ばれる法具の数珠があるのだ。普段は一般人の立ち入りは禁止の場所だが、その寺で働いている紅葉の関係者という事で特別に観覧させてもらっていたのだが、幼い信乃にはそれがまだ分かっておらず、それを見るのが大好きで彼に頼んではよく寺へと遊びに連れていってもらっていた。
学校で勉強を頑張ればご褒美にそこに連れていってくれる。それならば学校に行くのが足がすくんでしまうほどいやだろうが、それが毎日見れるなら行ってもいいかもと彼女は思った。
「約束だよ」
「ああ。約束は破らない。だから信乃も約束を破るなよ」
「うん」
瞳を輝かせて指切りしてくる信乃へと紅葉も微笑み頷く。そしてお互い指切りを交わすと約束は成立した。
(信乃。お前の未来がどんなに大変な道のりになろうとも、俺が……俺達が必ずお前を守ってやるからな)
再び陰陽道についての基礎知識の本を読み始めた彼女を見詰めながら彼は内心で言うと、そっと祈るように天井へと目を向ける。
信乃が大きくなったら避けられない運命の歯車が回りだすという事を知っていたからこそ、始まりを告げる時が来るその日まではただ何も知らずに幸せに暮らしてほしいと願うのであった。
父親はそれでも我が子だからと大事に育てようとしたが、母親は産後のストレスもあったのか「おぞましい妖」だと叫び血の繋がった娘を殺してしまえと喚く。
困り果てた父親は信仰しているお山の天狗に相談しに行き、天狗は「時が来るまで何処か別の次元で安全に育て上げればよい。嘗てお前の先祖である瑠璃王国の姫がそうして育ったように」と助言し、父親から赤子を預かると天狗は時空のひずみを生みだす榊の森の中から別の次元軸へと飛んでいった。
それから時は経ち赤子が6歳になった時天狗は彼女に陰陽の術を教え始める。
「どうして紅葉は私に陰陽道を教えるの? 私は普通に暮らしていたいのに」
「それがお前の身を守ることになるから教えるんだ。それにその術式が使える様になれば怖いものを払うこともできる」
陰陽についての基礎知識を叩きこまれながら少女……信乃が尋ねた。それにオレンジの髪のチャラい男、紅葉が答える。
「……この目に映るのはやっぱりよくないモノなんだね。どうしてこんなものが見えるの? クラスの子達は皆私の事を嫌うのもきっとこんな力があるからだよ」
「そんなにつらいか……なら時が来るまではその目を閉ざそう。しかし、いつかお前が嫌うその目がお前を守ってくれる日が来る。だからな信乃。お前がどんな姿をしていようとどんな能力を持っていようと、どんな未来を迎えると分かっていようと、お前が俺の大切な家族であり、そしてかけがえのない娘であることには変わりない。俺だけはお前の味方だよ。学校で何を言われようと気にするな。お前のその髪も瞳もとても綺麗な色だと俺は思う。だから、もうそんな顔するな」
悲しくて泣き出しそうな顔で俯く彼女に彼がそう言って微笑む。
「紅葉……私学校なんか行きたくないよ。ずっと紅葉と一緒にこのお山にいる」
「だめだ。俺は仕事があるからこの山の寺にいるが、お前はもっとたくさんのことを学ばなきゃいけない。だから今は学校で勉強を頑張るんだ」
信乃がわがままだって分かっていながらもそう泣きじゃくり頼むも、紅葉はあっさり首を振って答える。
「それなら陰陽の術を教えてもらう間はここにいさせて。だからそれをちゃんと覚えたら学校にも行くから。だからお願い」
「それは学校が終わってからでも十分にできることだ。だけど学校で習えることはうちではならえない。いいか、信乃にはまだ分からないかもしれないが、知識を得ることは後々お前を助ける知恵になるんだ。だからどんなに嫌だろうとも学校だけはちゃんと行け。その代わりちゃんと行けたらご褒美にあそこに連れていってやる」
必死に祈願してくる彼女へと彼が申し訳なさそうな顔で首を横に振り否定すると諭すように話した。
「ほんと! 本当にあそこに行けるの?」
「ああ。だから学校に行って勉強だけは頑張れよ。そうしたらお前が大好きな山林寺につれていってやる」
瞳を輝かせ確認するように尋ねる信乃へと紅葉が笑顔で力強く頷き肯定する。
山林寺とは紅葉が働いている寺の名前で、その中の仏の間というところに沢山の仏様が祀られていて、その中央に信乃が好きな仏がつかったと呼ばれる法具の数珠があるのだ。普段は一般人の立ち入りは禁止の場所だが、その寺で働いている紅葉の関係者という事で特別に観覧させてもらっていたのだが、幼い信乃にはそれがまだ分かっておらず、それを見るのが大好きで彼に頼んではよく寺へと遊びに連れていってもらっていた。
学校で勉強を頑張ればご褒美にそこに連れていってくれる。それならば学校に行くのが足がすくんでしまうほどいやだろうが、それが毎日見れるなら行ってもいいかもと彼女は思った。
「約束だよ」
「ああ。約束は破らない。だから信乃も約束を破るなよ」
「うん」
瞳を輝かせて指切りしてくる信乃へと紅葉も微笑み頷く。そしてお互い指切りを交わすと約束は成立した。
(信乃。お前の未来がどんなに大変な道のりになろうとも、俺が……俺達が必ずお前を守ってやるからな)
再び陰陽道についての基礎知識の本を読み始めた彼女を見詰めながら彼は内心で言うと、そっと祈るように天井へと目を向ける。
信乃が大きくなったら避けられない運命の歯車が回りだすという事を知っていたからこそ、始まりを告げる時が来るその日まではただ何も知らずに幸せに暮らしてほしいと願うのであった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
雨上がりに僕らは駆けていく Part1
平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」
そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる