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セカンドストーリー

十四章 ぎこちない関係

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 セレスに髪を梳いてもらい、フレンの悩みを解決した翌日。

リリアーナは校庭でうんうん唸っているエドワードと遭遇した。

「副会長……こんな所で何をしてるんだろう。なんだかとても悩んでいるみたいだけれど……」

「やはり、嫌しかし……」

随分と長いことその場を離れず悩んでいる様子に見ていられなくなったリリアーナは声をかけることを決める。

「あの、副会長。このようなところで如何されたのですか」

「っ!? あ、あぁ……リリアか。いや、何でもない。私的な悩みだからな。こればかりは他人を頼るわけにはいかない」

彼女の声に心底驚いた様子で振り返った彼が慌てて取り繕うように話す。

「私的な悩み? 誰にも頼れない悩みを抱えているってことですか」

「気にすることはない。それより、ちょうどいい。リリアに頼みたい事があったのだ」

驚いて尋ねるリリアーナへとエドワードが気にするなと言ってから話題を変える。

「頼みたい事?」

「その……この前食べたお団子という異国のお菓子の成分を教えてもらえないだろうか。どんなに書物で調べてもどこにも掲載されていなくてな」

(前の世界の料理だものね。この世界に存在するはずないから載っているはずない……あれ、あんまり向こうの世界の料理を作るのは良くない事だったりしない?)

彼の言葉に彼女はしまったといった感じで悩む。

「いや、無理ならばいいんだ。そんなに悩まないでくれ」

「え? いいえ、違いますわ。その、異国のお菓子ですのでこの国にある似たような材料で作りましたが、元々の素材が違うのでどうしたら良いのかと考えておりましたの」

悩む様子に慌ててエドワードが言うと、リリアーナは勘違いさせてしまったと気付き答える。

「そうなのか。元々の材料とは違う物でもあのお団子というお菓子が作れるのか……ますます気になるな」

「えぇっと。私の記憶にある事で宜しければお話しできますが、それで伝わるかどうか……」

「かまわない。聞かせてくれないか」

彼に頼まれたため彼女は自分の前の世界で見た料理漫画の知識を伝えた。エドワードはその話を真面目に聞いてくれる。

「ふむ。材料さえわかれば何とか自分でも作れそうだな。リリア、有り難う」

「いいえ。でも、どうしてそんなに異国のお菓子が気になるんですか」

語り終えたリリアーナに感謝を述べる彼に疑問に思っていたことを問いかけた。

「そ、それは……」

「?」

途端に頬を赤らめ目線を彷徨わせる様子に首をかしげる。

「あまりにも俺は知らないことが多すぎる。だから、少しずついろいろな事を知っていきたいと思ったんだ」

「あぁ、そう言う事ですか。本当に副会長って勉強熱心なのですね」

伝える言葉を考え出し話した言葉にリリアーナは納得して微笑む。

(……リリアの事を知りたい。もっと、近づきたい。そんな不埒な動機だとはとても口が裂けても言えないな)

そんな彼女を見詰めてエドワードが内心で呟くと気付かれない程度に息を吐き出す。

「時間を取らせてしまいすまなかったな。また、団子が出来たら試食してもらってもいいか」

「えぇ。勿論ですわ」

彼の言葉に答えるとエドワードが立ち去っていった。リリアーナも教室へと戻る。

それからすぐの事。廊下を歩いていると前方からキールがやってきてにこりと黒い笑顔を向けてきた。

「か、会長。奇遇ですね」

「やぁ。どうしてそんなふうに身構えるのかな? 僕は別にリリアーナさんに何かした覚えはないのだけれど」

つい冷汗を流し身構えてしまう彼女に彼がにこやかな笑顔で尋ねる。

「さ、さぁ。どうしてでしょうね……」

(その黒い微笑が怖いんですってば!)

口で答えながら内心で本音をぼやく。

「まぁ、いいや。それより少し場所を変えてお話しませんか」

「話っていったい何を?」

キールの言葉に一体どこに連れて行かれてしまうのかと考える。

「そう警戒しないで、ちょっと大事なお話があるんだよ」

「わ、分かりました」

右手首を掴まれ強制的に連れて行かれながらリリアーナは溜息交じりに返事をした。

「それで、お話とはいったい?」

「……君はもう少し警戒した方が良い」

「へ?」

いったいお話って何だろうと思い尋ねると怖い顔をしてキールが告げる。

その意味が分からず呆けてしまう彼女に彼が何を思ったか急に動き、リリアーナの身体を壁に追い詰め手を首に伸ばしてきた。

「っ!? か、会長?」

「……はぁ。だから警戒心を持った方が良いって話。今回は僕だったから良かったけれど、これがこの前のような連中だったら今頃君は無事ではいられなかっただろうね」

いったい何が起こったのだろうと驚く彼女に首元まで伸ばした手を下ろし盛大に溜息を吐き話し出す。

(この前のってあの人攫いの事よね……)

「本当に君は抜けてるね。リリアーナさんを攫えと依頼した奴がこの学園の中の誰かかもしれないだろう。いくら親しくしている人だったとしても君を騙して油断させている可能性もある。僕達が側にいる時は守ってあげられるけれど、誰もいない時にこうやって連れて行かれたら何をされるか分からない。もう少し警戒して過ごすべきだ」

「つまり、会長は私が警戒心が無いから狙われやすいと言いたいのですか」

キールの言葉にリリアーナは冷や汗を流しながら尋ねるように言う。

「もし僕が君を攫って欲しいと頼んだ依頼人だったらどうするつもりだったの? そう言う事だよ。しばらくの間は君に近づく人全員を疑ってかかるべきだ」

「で、でも皆私の友達ですわ。友人を疑うだなんて……」

彼の言葉に友人を疑いたくないと答えると盛大に溜息を吐かれた。

「……ロト。あいつには気を付けてね。何を企んでいるか分からない、不気味な奴だから」

「会長?」

それだけ告げるとキールは立ち去る。残されたリリアーナは暫く呆然とその場に佇んでいた。
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