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セカンドストーリー

八章 リリアーナ親衛隊!?

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 秋も深まってきたある日。いつものように皆とお弁当を食べようと思い待ち合わせ場所へと向かっていたリリアーナの前に女生徒が立ちふさがる。

「あ、あの。リリアーナ様!」

「貴女はエミリーじゃありませんの。私に何か御用でも?」

頬を赤く染めて呼び止める彼女は、以前リリアーナが攫われてしまった現場を目撃し皆に知らせた少女……エミリーであった。

「そ、その。その……あの、ですね。つまり~」

「落ち着きなさいな。一体どうしたというの」

頬を赤らめ挙動不審でいる様子の彼女にリリアーナは苦笑しながら伝える。

「わたくしこの間リリアーナ様が攫われていく姿を見ていることしかできなくて……とても胸を痛めましたの。それで、このままではいけないと思い、リリアーナ様を守る親衛隊を作りました」

「し、親衛隊!?」

「これからは常にわたくし達親衛隊がこっそりとお見守りいたしますわ」

ようやく落ち着いたエミリーが宣言するかのように告げた言葉に彼女は驚いて仰け反った。

余りの事に固まってしまったリリアーナを他所に彼女はさらに言葉を続ける。

「ち、ちょっと待ってくださいな。気持ちは嬉しいですけれども、親衛隊は流石にやりすぎなのでは?」

「いいえ。リリアーナ様をお守りするためには親衛隊は必要不可欠ですわ! 本日はそのご報告に参りました。これからは何かありましたらいつでもわたくし達親衛隊にお任せ下さいましね」

「は、はひぃ……」

慌てて親衛隊を解散して欲しいといいたげに頼もうと口を開いた彼女であったが、エミリーの圧力に押されてしまい小さく頷く。

「それと、こ……これからはわたくしもお食事をご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「勿論ですわ。皆で食べたほうのが楽しいですし、友達同士でご飯を食べた方がお弁当も美味しく感じますもの」

もじもじして照れ笑いしながら話す彼女へとリリアーナは何とかお嬢様口調を崩さないように気を付けながら承知した。

(……相変わらずお嬢様口調って慣れないわね。ぼろが出ないように気を付けないとまたリリアからの地獄の扱きが待っているわ)

小さく溜息を零す。前世ではなじみのない口調や立ち振る舞いになれるのには時間がかかりそうで、知らず知らずのうちにやらかしていたらしい失敗に心の中にいるもう一人の自分から扱かれたのはつい最近の出来事である。

「で、では、本日からご一緒させて頂きます。リリアーナ様と一緒にお食事が出来るだなてわたくし幸せ者ですわ」

「そんな、大げさな……」

喜びで小躍りしながら歩き出すエミリーへと聞こえない程度の声音で呟き溜息を零す。

こうしてエミリーと一緒に皆との待ち合わせ場所へと向かう。

「で、つまりはリリアの許可が下りたから私達と一緒にランチをとる事になりましたのね」

「そうですわ。リリアーナ様直々に許可を頂きましたの。ですから、わたくしが一緒に食事をとる事に特に問題はないはずですわ」

「……エル様とエミリーさん何だか怖いよ……」

目の前で火花を散らしながらも素敵な微笑みを浮かべる二人の様子にリリアーナは縮こまりながら弁当をつつく。

「お姉様、私が作った卵焼きです。良かったら召し上がってください」

「私の作ったたこさんウィンナーもどうぞ」

火花を散らす二人の事なんか気にしない様子でメラルーシィが卵焼きを差し出してくると、ルーティーもたこの形にカットしたウィンナーを一つホークにさして渡してきた。

「はい、僕の唐揚げ分けてあげる」

「確か甘い物好きだったよね。食後のデザートにカボチャのケーキ持ってきたんだ」

すかさず隣へとやってきたリックが唐揚げの入った弁当箱を目の前へと差し出すと、負けじとマノンがデザートの入ったバスケットから一つ取り出して、リリアーナの前に置いてあるお皿へと乗せる。

「リリア、このジュース美味しいのよ。飲んでみて」

「あ、ほら。リリア口の周りにソースがついてるぞ。まったく、相変わらずだな」

「じ、自分で拭けますわ」

フレアが小瓶に入っているジュースをカップに注ぐと、アルベルトがハンカチを手に彼女の顔へと手を伸ばす。リリアーナは慌てて自分で拭くと告げ紙ナップキンで口元を拭った。

「この紅茶は薫り高くまろやかな味わいで人気のブレンドなんだ。皆で飲もうと思い持ってきた」

「リリア、このミートボール貴女の為に作りましたの。良かったら食べて感想を聞かせてもらえないかしら」

「リリア。ほら、クッキー持ってきた。食後に一緒に食べよう」

ルシフェルが紅茶の入ったポットから紙コップへと注ぎ皆の前へと配る中、セレスがミートボールの入った小さなお皿を差し出す。その横でフレンが微笑みクッキーの入ったバスケットを彼女の目の前に置いた。

「リリア、その。この前教えてもらった通りにおにぎりというものを作ってみたのだが、形はこれであっていただろうか。それと、同じものはなかったからな。似たような具を探して入れてみた。食べて感想を聞かせてくれると助かる」

「リリアーナさん。ほら、ミートボールのソースが垂れていますよ。スカートについたりしたら落とすのが大変でしょう。これを敷いて下さい」

不格好なおにぎりの入ったお皿を差し出すエドワードの隣に座って食事をしていたキールが小さく笑い布ナップキンを差し出す。

「私もこの前皆が食べたいと言っていたお団子を作ってきました。良かったら召し上がってください」

⦅リリア (さん/様)の手作り!?⦆

リリアーナも貰ってばかりでは悪いと思い昨夜作ったお団子の入った弁当箱を差し出すと、なぜか皆が衝撃を受け固まってしまう。

(え、何? もしかして手作りのお団子を持ち込むの駄目だったとか? そ、そんなはずないよね。だってお弁当は手作りもOKって書いてあったはずだし……)

固まってしまった皆の様子に冷や汗を流し考えてみるも、お弁当なら手作りでも規則違反にはならないと書いてあったはずだと悩む。

「お姉様、私残さず綺麗に食べますね」

「いいえ、すぐに食べるだなんてもったいないですわ。これは記念に絵を描き記してから――」

「リリアの手作りのお団子を最初に頂けるのは勿論幼馴染であるこの私ですわよね」

急に両手を胸の前で組み頬を紅潮させメラルーシィが言うと、エミリーが捲し立てて話し出す。それを遮りエルシアが主張した。

「何言ってるんですか。皆で美味しくいただかないとリリアさんに失礼ですよ~」

「甘い物は得意じゃないけど、たまにはいいよね」

「俺も甘い物は好きじゃないが、これは特別だ」

ルーティーが笑っていない笑顔で言う横でマノンが答える。アルベルトも同意しながらリリアーナが作った物は特別だと話す。

「僕は何でもおいしく食べるよ。リリアが作ってくれたものなら例え真っ黒黒の炭の塊だったとしてもね」

「ちょっとリック。リリアがそんな黒焦げの失敗料理なんて作るはずないでしょ!」

「お前達少しは静かにしないか……だから取り合うな! ちゃんと順番に一人一個までだ」

リックがにこりと笑い言った言葉に訂正しろとフレアが怒る。急に騒ぎ出しお団子を取り合う皆の様子にルシフェルが怒鳴った。

「わたくしこんなに嬉しい日は御座いませんわ。リリアの手作りのお菓子が食べられるだなんて……嬉しすぎて天にも昇る気持ちですわ」

「セレス落ち着け……生まれて初めてだな。お前が作る手作りのお菓子を食べるのは」

感涙するセレスをなだめながらしみじみとした様子でフレンが呟く。前世でも彼女が作った物を食べた記憶がないため本当に嬉しそうに微笑んで団子を見詰めた。

「ふむ。お団子というのは丸い形をしていて一見硬そうに見えるが、触ると不思議な感触。……一体成分は何で出来ているのだ」

「これも異国のお菓子なんですか。リリアーナさんは私達の知らない異国の文化にお詳しいようですが、勤勉なのですね」

団子を掌へと乗せて分析を開始するエドワードの隣に座るキールが感心した様子でリリアーナを見やる。こうして賑やかなお昼は過ぎ去っていった。
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