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ライゼン通りの錬金術師さん5 ~黒の集団の襲来~

十三章 何か起こりそうな予感

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 薄暗い森の中を走り抜ける男。ソフィア達の下から逃げて行ったクラウンである。

「はぁ……はぁ。……はぁ、はぁ。このままでは終わらないぞ。とりあえずほとぼりが冷めるまではどこか別の国に潜伏して――」

「おや、どちらに行かれるおつもりで?」

男が呟いた時誰かの声が聞こえて来た。

「き、貴様は……何故ここに?」

立ち止まったクラウンの目の前には黒いローブ姿の男の姿があり彼が驚く。

「ウィッチから報告は聞いております。今回の失態をどう償うおつもりで?」

「俺のせいではない。全ては邪魔が入ったせいだ」

男の言葉にクラウンが答える。

「まさか。自分の失態を他人のせいにして逃げるおつもりで? まぁ、それはいいでしょう」

不敵に笑いそれは問題ないという男が再び口を開く。

「問題は別にあります。実は貴方が組織の掟に違反する事をしていると聞いてウィッチに見張らせていたのです。あの装置は代えがきかない物なんです。それをどこの誰に売るおつもりで?」

「た、頼む。一度だけ見逃してくれ!」

男の言葉に彼が手を合わせ拝むように頼む。

「組織の掟を破ったのです。見逃すことはできません」

「っ!」

厳しい口調で言われクラウンは息を呑む。

「さようなら。クラウン」

男がそう言うと瓶に入った液体を投げつける。すると転移陣が発動し彼の姿はその場からこつ然と消え失せた。

「……よりにもよって、計画を実行する前に騎士団や冒険者に目をつけられるとは。さて、作戦を変えなければなりませんね」

一人きりになった空間で男が言うと歩き去る。

そんな事が起っていたなんて知らないソフィア達は森から戻って来たレイヴィン達から話を聞いていた。

「と、言う訳で。どこに逃げたのか見つける事は出来なかった」

「主謀者が行方不明なので今後も捜索は続けることになっています」

隊長の言葉に続けてディッドも説明する。

「俺達冒険者も協力することになっている。しばらくの間は逃亡したクラウンとかいう奴を探すからまたソフィーには捜査に必要なアイテムを作ってもらうことになるかもしれない」

「分かったわ。必要なアイテムがあったら作るわ」

マルセンの言葉に彼女は頷き答えた。

「今日はいろいろとあって疲れているだろうから俺達はこれで帰る。ソフィーゆっくり休むんだぞ」

「えぇ」

レイヴィンの言葉に頷く様子を見届けると三人は帰って行った。

「今日は大変な一日だったね。お姉さん疲れているだろうから美味しいご飯を作るね」

「有難う」

ポルトが言うとそれにお礼を述べ料理が出来るまでの間椅子に座って待つ。

「出来たよ。さ、沢山食べて元気出して」

「それでは、頂きます。うん。美味しい」

彼が言うと机に並べられた料理をソフィアは食べ始めた。

「でもお姉さんが嗅ぎまわっている事どうやってクラウンとかいう奴は気付いたんだろう」

「それは分からないわ。でもあの時の視線……もしかしたらレオ様達と一緒にいたところを見られていたのかもしれないわね」

ポルトの質問に彼女も答えられないけれどといいたげに話す。

「そっか、ディッドは隊服を着ているからすぐに騎士団だって分かるもんね」

「その後だわ。頭を殴られる痛みを感じて気が遠くなったのは」

「おいらが馬車から避けている間にそんなことが……ごめんね。側にいられなくて」

「いいのよ。私もまさか襲われるなんて思っていなかったし」

二人はご飯を食べながら話会う。

「さ、この話はここまでにしてもう忘れましょう」

「そうだね。隊長達に任せていれば大丈夫だと思うし」

ソフィアの言葉に彼が頷くと食事を終えて寝る支度をしてこの日は床に就いた。

「ちょっと、イクト君に会いに行ってくるわ」

「イクトの様子を見に行くの?」

翌朝彼女の言った言葉にポルトが不思議がる。

「違うわ。今までいろいろと心配をかけてしまったからもう大丈夫だって伝えに行くの」

「そっか、そうだね。もう安心できることイクトにも伝えないといけないもんね。いってらっしゃい」

ソフィアの返事を聞いて納得した彼が見送る。

そうして工房を出て仕立て屋へとやって来るといつもと違ってお店から活気が感じられなかった。

「お邪魔するわよ」

「……ソフィーかいらっしゃい」

不思議に思いながらも店内へと入るといつもお客でにぎわっているのに閑散とした空間にイクトがぼんやりと佇んでいた。

「如何したの? なんだか元気がないみたいだけれど」

「俺の話は後でいいよ。それよりも今日は如何したんだ」

ソフィアの言葉に彼があいまいに笑い促す。

「もう護衛をして貰わなくても大丈夫になったの。昨日いろいろとあってね。黒の集団の主謀者を追い詰めたんだけど逃げられてしまったの。レイヴィンさん達が探してくれているからいずれ捕まるだろうけれど。だからもう大丈夫って事を伝えに」

「そうか。ソフィーも色々と大変な目に合っていたんだね。ごめん。何もしてあげられなくて」

彼女の話を聞いてイクトが申し訳なさそうに謝る。

「いいのよ。お店が忙しいだろうから。それよりも、どこか具合が悪いの? さっきから上の空のようだけれど」

「……実は、これが原因なんだ」

「手紙?」

白状するように取り出した手紙を見てソフィアは不思議がる。

「まぁ、読んでみてくれ」

「……」

そう言われて差し出された手紙を受け取り中を見る。

「……成る程ね。それでイクト君の様子がおかしかったのね」

「いやぁ、また君に迷惑をかけてしまったね。すまない」

納得した彼女の言葉にイクトが申し訳なさそうに話す。

「迷惑だなんて思っていないわ。それよりも私はアイリスちゃんの事も心配だけれど貴方の事も心配よ。二人してぼんやりされては困るわ。少なくとも貴方はアイリスちゃんの前ではしっかりしてもらわないとね」

「ははっ。まったく返す言葉もないよ。ソフィーが来てくれて良かった。一人だと色々と考えこんでしまいそうだったから」

ソフィアの言葉に彼が空笑いして答える。

「ソフィーにお願いがあるんだ。アイリスの様子を見てきてくれないかな」

「私はアイリスちゃんに道筋を教えられるような大そうな人間じゃないわ。でも悩んでいる女の子の話を聞いてあげる事ならできるわよ」

イクトのお願いに彼女はそう言いながらも了承した。

「ここからは女の子通しのお話だから貴方は終わるまで上がってこないでよ」

「お店があるからな。二階には上がらないよ」

小さく笑い言った言葉に彼が分っているといいたげに答える。

そうしてソフィアは二階へと上がっていった。
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