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ライゼン通りの錬金術師さん5 ~黒の集団の襲来~

八章 黒の集団との遭遇

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 夏になり毎日暑い日が続くある日の事。ソフィアはこの日採取から帰ってきたところであった。

「これだけあれば暫くの間は採取に行かなくても大丈夫そうね」

籠の中一杯の素材を見て微笑むと早く工房に帰ろうと足を進めた。

「あら、あれはアル。久々に会うし話して帰ろうかな。アル!」

噴水広場の人混みの中でも見間違う事のない同僚の姿を見つけて声をかけたがアルフォンスは気付いていないのか足を止める事無く歩いて行ってしまう。

「アルってば!」

大きな声をあげて後を追いかけていくといつの間にか人通りの少ない裏路地へと入り込んでいた。

「確かこっちに来たと思ったんだけど……」

アルフォンスの姿を探し更に奥へと進むと話し声が聞こえてきて足を止める。

「アル?」

そっと顔を覗かせて見た先には黒いローブを身に纏った複数の人が何やら話をしていた。

「……ウィッチ調べた事を伝えろ」

「夏祭りの日は王宮の一部が貴族や商人達にも開放されるそうよ。多くの人で賑わうはず」

「よし、なら夏祭りの日に決行する」

ひそひそと内緒話をする声にソフィアは驚きすぐに顔を引っ込め息を殺す。

(もしかし、レイヴィンさんが言っていた黒の集団? 夏祭りの日に一体何をしようとしているの)

もっと話をよく聞こうと思ったがこれ以上この場に留まり見つかってしまっては捕まってしまうかもしれないそう思いそっとその場を離れようとした。

「っぅ!」

「誰だ!?」

その時溢れんばかりに籠に入っていた素材の一つが転がってしまう。音に気付いた相手がこちらにかけてくる足音にソフィアは急いでその場から離れた。

「……ネズミがいたようだな」

「私が追いかける。クラウンは念のためすぐにこの場を離れた方がいいわ」

「そうしよう」

リーダーだと思われる男性の言葉にウィッチと呼ばれていた少女が名乗り出る。

それにクラウンと呼ばれた男が頷き答えた。

「はぁ、はぁ。はぁ」

「あ、お姉さんお帰り~。そんなに慌ててどうしたの?」

ソフィアは工房までの道のりを一生懸命走り家に帰りつくと扉を勢いよく閉じる。その様子にポルトが不思議そうに尋ねた。

「し~っ。ポルト。窓から外を見て誰か黒いローブを着た人が追いかけてきていない?」

「ん~? 目に見える範囲にはいないよ。それよりもこんなに暑くて汗が出る日に黒いローブの人なんているの」

扉に張り付き取っ手を押さえている様子の彼女へと彼が窓から外を見詰めながら不思議そうに聞いてくる。

「私、遭遇してしまったかもしれないの」

「誰と?」

冷汗を流し震えている様子のソフィアへとポルトが疑問符を浮かべながら問う。

「黒の集団よ」

「!?」

彼女の口から飛び出した言葉に彼も目を見開き凍り付く。

「え、ソフィー。本当に黒の集団に遭遇したの?」

「間違いないわ。怪しかったし。何か企んでいる様子だったし」

詰め寄り尋ねるポルトへと体を抱きしめ震えながら答えた。

「それならすぐに隊長とかマルセンとかに話しに行かないと」

「待って! 今出たら追いかけて来た黒の集団と鉢合わせしちゃうかもしれない」

今すぐにでも話に行くべきだと語る彼へとソフィアは恐怖に歪んだ顔で首を振る。

「それならおいらが行ってくる。お姉さんはここで待ってて」

ポルトが言うと裏口から出て行った。

それから数時間後ポルトがレイヴィン達を連れて戻ってくる。

「ソフィー。黒の集団に遭遇したって本当なのか?」

「俺達が来たからもう大丈夫だ」

マルセンとレイヴィンの言葉でようやく安心できたのかソフィアの震えが止まった。

「それで、何を見たんですか?」

「黒いローブ姿の複数の人達が何か話している様子を見かけたんです」

ディッドの問いかけに彼女はすぐに答える。

「何処で?」

「噴水広場から少し歩いた西側の住宅密集地で。裏路地で話をしていたんです」

今度はマルセンが聞くと彼女は思い出しながら伝えた。

「何を話していたのか分かるか?」

「はっきりとは聞き取れなかったけれど、夏祭りの日に何かを決行するというのだけは聞き取れたわ」

レイヴィンの質問にソフィアは聞いた内容を話した。

「夏祭りか」

「一体何を企んでいるんでしょうね」

「兎に角夏祭りの日に何か起こるって事だな。確か今年は王宮の一部が貴族や商人達に開放されると聞いているが、もしかしてそれと何か関係が?」

唸る隊長へとディッドも険しい表情で呟く。そこにマルセンが可能性のある事を口に出す。

「ソフィー黒の集団に顔は見られたのか?」

「すぐに逃げたから顔は見られてはいないと思うけれど……」

レイヴィンの言葉に彼女は不安そうに答える。

「兎に角暫くの間どこで黒の集団に襲われるか分からない。しばらくの間外に出かける際はポルトと一緒に行動する事。俺達も気にかけておくけれど仕事があるからな。誰か信頼できる男の人に護衛になってもらうといい」

「それならイクト君とかハンスさんとかかしら」

「あの二人なら信頼できるね」

隊長の話にソフィアはすぐに思い浮かんだ二人の名前を伝えるとポルトが真っ先に口を開いて頷く。

「俺達が護衛するから今から二人に話しに行ってくると良い」

「えぇ。そうさせてもらうわ」

レイヴィンの言葉に彼女は頷くと早速二人に話をしに行くことになった。

「成る程、黒の集団の噂は聞いていたが、それにソフィアが遭遇してしまったとは」

「イクト君どこでその噂を聞いたの?」

まず仕立て屋にいるイクトに話をしに行くと彼が深刻な顔をして顎に手を当て考える。その言葉にソフィアは驚き尋ねた。

「仕事をしていると色んな情報を聞くことがあるんだよ。特にマルセンや隊長辺りから最近ピリピリした空気を感じていたからね。これは何かあると思っていたんだ」

「ははっ。仕事していると妙に感が良くなるって言うあれか」

彼の言葉にレイヴィンがおかしそうに笑う。

「話が分かるなら早い。イクト、ソフィーの護衛をお願いできないかな」

「仕事の合間でいいなら引き受けるよ」

「えぇ、お願いするわ」

隊長の言葉にイクトが了承するとソフィアも安堵して微笑む。

「次はハンスに話をしに行かないとね」

ポルトの言葉に皆頷くと噴水広場へと向かう。

「俺達がいるから大丈夫だ」

「え、えぇ」

噴水広場に近づくにつれて足が重くなってくるソフィアの様子にマルセンが安心させるように囁く。彼女は無理矢理足を動かし何とかハンスのお店まで辿り着いた。

「つまり、ソフィーの護衛をすれば宜しいのですね」

「そう言う事だ。俺達も毎日ソフィーについて歩くことはできないからな」

話を聞いたハンスが言うとそれにレイヴィンが頷く。

「分かりました。私がソフィーの身の安全を保障いたします。仕事の合間に様子を見に伺いますので安心して工房での生活を続けて下さいね」

「有難う御座います」

彼が了承してくれたことで不安が少しだけ拭い着れたような気がしながらソフィアは笑顔でお礼を言った。

「それじゃあ工房まで送るよ」

「はい」

レイヴィンの言葉に彼女は頷くと四人はライゼン通りまで戻っていく。

「……」

そんなソフィア達の姿を物陰から見詰める黒いローブ姿の人物。ウィッチと呼ばれていた少女である。

「……面倒なことになりそうね」

そう独り言を呟いた言葉は喧騒の中へと掻き消えて行った。
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