上 下
61 / 120
ライゼン通りの錬金術師さん4 ~光と闇の王国~

四章 ヴィロックの滝

しおりを挟む
 セツナからアイアンゴーレムの話を聞いたソフィアは、ミラの水を大量生産するためヴィロックの滝で必要な素材を採取しに来ていた。

「はい、お姉さん。朝雫の葉集めたよ」

「私も籠一杯になりましたよ」

ポルトが駆けてくると籠の中を見せる。そこにハンスもやってきて報告してきた。

「二人とも有り難う。私もヴィロック滝の水を一杯集めたわ。これだけあれば十分に足りるはずよ」

「でもさ、ローリエが一緒で助かったね」

にこりと笑い言ったソフィアへとポルトがローリエを見やり話す。

「えぇ。朝雫の葉が群生しているところを見つけてもらえて助かりました」

「そんな。私は朝雫の葉の木が沢山あるところを偶々見つけただけで……」

ハンスも助かったといいたげに話すと二人の言葉に彼女が照れた顔で答える。

「でも、あれが朝雫の木だなんて見たって分からないよ」

「えぇ。どの木も同じようにしか見えませんでしたからね。ここはやはり植物に詳しいローリエのおかげですよ」

「ふふ。照れちゃいますね」

二人が有難がる様子にローリエはついに照れた顔を赤くしてはにかむ。

「さ、野営の準備をして夕飯の支度をしましょう」

ソフィアの言葉に三人は頷くと野営の準備に取り掛かる。

「魔物出ませんよね?」

「この辺りには危険な魔物の目撃情報はないから大丈夫だと思うけど」

焚き火を囲い夕食を食べながらローリエが呟いた言葉にソフィアは答える。

「そうですよ。前にソフィーと二人で来た時も特に危険はありませんでしたので心配はいらないと思いますよ」

「ハンスが苦い思い出を作った時の話だね」

「妖精さんは余計なことは言わなくていいのです。と、言うよりもどうして知ってるのですか?」

「う~ん。妖精の勘ってやつ?」

ハンスの言葉に答えた彼は首をかしげる。

「妖精の勘で勝手に憶測を立てないでください」

「でもさその後でしょ。怪しげな商人からあの悪魔のペンダントを買ったのは」

「ぬっ……もう忘れて下さい」

「ふふっ。あらごめんなさい。つい可笑しくって……なんだかミラの水を生み出すために必死になっていた頃が懐かしいわね」

「ソフィーさんの思いはきっと世界中を救いますよ。そしてこの国も」

二人の会話を聞いて可笑しくなって笑ってしまったソフィアへとローリエがマグカップへと視線を落としながら呟く。

「そうなる事を願っているわ。もう、誰の血も流させやしないわ。そして誰の命も奪わせはしない」

「アイアンゴーレム……奴は一体何者なのでしょうか? どうしてあんな事をしたのでしょうか」

「そんなのおいら達には分かんないけどさ。でも、なんか隊長は隠してそうなんだよね。真実ってやつをさ」

彼女の願いを聞きながらハンスが呟くとポルトも話す。

「聞いたところで無駄よ。前に聞いたけれど国家秘密だって言われて教えてもらえなかったもの」

「だけどさ、なんで今頃……ずっとどこか遠くの地で眠ってればいいのに」

ソフィアは小さく溜息を吐きながら話すとポルトが頬を膨らませて言う。

「本当ですよね。そうしてもらえていたなら良かったのに」

「偶然なのか必然なのかは分かりませんがこうして奴がこの国に現れた以上私達は過去への決着をつけなくてはならないのです」

ローリエも同感だと言った感じで頷くとハンスが真剣な顔で語った。

「決着をつけたらミラ、喜んでくれるのかな?」

「如何かしらね。逆に悲しむかもしれない」

きっと喜んでくれるに違いないと三人が思っている時にソフィアだけが違うかもしれないと話皆驚いて彼女の顔を見詰める。

「悲しむってどうしてそう思ったの?」

「何となくそんな気がしただけ。前にミラさんの夢を見たのよ。その時ミラさんは何か伝えたそうな顔をしていた。だけど声が聞き取れなくてね。ただその夢がずっと気になっていてそれでアイアンゴーレムとの決着を望んでいないんじゃないかって思ってしまったの」

ポルトの問いかけにソフィアは以前見た夢を思い出しながら語る。

(あの時ミラさんは確かに彼を許してあげてと言っていた。もしかしてその彼っていうのは――)

「血で血を洗う争いになんってなって欲しくないと、ミラさんは夢に現れたのかもしれませんね」

「そうかもしれません。いえ、ミラさんはとても優しい方ですから多くの人の血が流れる事を望んでいないのでしょう。だから悲しむとそう思ったのですね」

考え込んでいるとローリエが微笑み語る。ハンスもミラならそうするだろうと言った。

「そうね、ミラさんは望んでいないのかもしれない。アイアンゴーレムとの戦いを」

「ミラらしいね。おいらも前にミラの夢を見た時誰かを許してほしいって言っていた。それってもしかしてアイアンゴーレムの事だったりして」

ソフィアの話にポルトが仮説を唱える。

「だとしたらアイアンゴーレムは話の分かるやつなのでしょう。あの時の様子から見るとそのようには見えませんでしたがね」

「そうね。何だかロボットみたいだったもの」

ハンスがいささか疑問に思いながら言うと彼女も同意して頷く。

「傀儡って奴?」

「傀儡なんて難しい言葉よく知っていましたね」

ポルトが言った言葉にローリエが驚く。

「おいらだって人間界にもう何十年もいるんだからね。お勉強だってしてきたんだ。偉い?」

「はい。偉いです」

偉いと褒めて頭を撫でてもらう姿に自然と皆の顔が笑顔になった。

「何が起こるか分からないけれど前に進むしかないわ。その為に私達はミラさんの死を無駄にしない為に研究を重ねてミラの水を生み出したのだから」

「そうだよ、アイアンゴーレムが来たとしても今度は大丈夫だよ。お姉さんとおいらで作ったこの万能薬があるからさ」

きっと大丈夫だと言い合うことで不安な心をごまかし合う。そうして四人は同じ意識を持ち頷く。

「私は逃げも隠れも致しません。商人の力を見せてやりますよ」

「私も薬草や薬になりそうな植物の素材の提供を約束いたします」

「二人とも有り難う」

ハンスが言うとローリエも力強い口調で言う。そんな二人へとソフィアは微笑みお礼を述べた。

その後は皆寝る支度をして体を横にする。

「……私は無力だ。でも必ず愛した人のいる国を守るためにできうる限りの準備は致しますよ。戦闘は隊長達に任せることになったとしても心を支えてあげる事は私にしかできないはずですから。ソフィーを今度は支えて見せます」

一人火の番をしながらハンスは星空へと向けて誓いを立てた。その力強い決意を知る者は誰もいない。だが今の彼は嘗ての彼とは全くの別人のように大きく成長していたのであった。

翌日、目を覚ましたソフィア達は街へと向けて帰る。

「あ、そう言えばハンスさん例の件はどうなりましたか?」

「竜にまつわる何かについてですね。確かに竜にまつわるものはありました。ですが、探していた物ではありませんでした」

「そう……」

帰りの道中話しながら歩いているとソフィアはふと思い出したと言った感じで尋ねた。それに彼が答えると彼女は吐息を吐き出す。

「ですがザールブルグ王室より錬金術について詳しい人物がいるから竜にまつわる何かがある場所について聞いてもらえることになりましたよ」

「それってもしかしてオルドーラ王国にいるアカデミーの校長先生のことかもしれないわね」

「校長先生がどうして竜にまつわる何かについて詳しく知っているの?」

ハンスの言葉に思い当たる人物がいるようでソフィアは話す。それにポルトが首を傾げた。

「校長先生の先祖はね、アカデミーを創立した王国魔法研究所の所長だった人の血をひいているから。だから色々な事に精通しているって噂なの」

「へぇ。それがもし本当なら竜にまつわる何かすぐに見つかるかもしれないね」

「えぇ。私達が欲しい素材がどこにあるのか分かるかもしれないわ」

少しだけリリアの壊れたペンダントを作り直す為の素材調達の道が開けた気がして皆喜ぶ。

「コーディル王国に帰ったらさっそくレオ様に話を聞いてきましょう」

「ハンスさんお願いします」

ハンスの言葉にソフィアはお願いするとこの後は雑談をしながら帰路についた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

【完結】異世界で急に前世の記憶が蘇った私、生贄みたいに嫁がされたんだけど!?

長船凪
ファンタジー
サーシャは意地悪な義理の姉に足をかけられて、ある日階段から転落した。 その衝撃で前世を思い出す。 社畜で過労死した日本人女性だった。 果穂は伯爵令嬢サーシャとして異世界転生していたが、こちらでもろくでもない人生だった。 父親と母親は家同士が決めた政略結婚で愛が無かった。 正妻の母が亡くなった途端に継母と義理の姉を家に招いた父親。 家族の虐待を受ける日々に嫌気がさして、サーシャは一度は修道院に逃げ出すも、見つかり、呪われた辺境伯の元に、生け贄のように嫁ぐはめになった。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

無双将軍の参謀をやりながら異世界ローマも作ってます

うみ
ファンタジー
異世界に転移したただのサラリーマンだった俺を、参謀の親友と勘違したローマ帝国最強の英雄――ベリサリウスに仕事を無茶振りされるが、生き残るために親友のフリを続けていきさえすればいいと思っていた…… ところが英雄の怪物退治に付き合ってると、俺まで村民から尊敬の眼差しで見られることに! そんなわけで今更後には引けなくなってしまう俺。 その後人間によって村が燃やされ、ベリサリウスは異世界にローマを作ることを提案する。 それはいいんだが、俺はいつの間にか新しい街ローマの建築責任者にまでなっていた。 ローマの街を完成させるため、アスファルトやセメントの研究をしてもらったり、農作物の育成をしたりと大忙しの日々だったが、人間達や怪物との戦いにベリサリウスが俺を連れ出すのだ。 頼むからほっておいてくれ! 俺を街つくりに専念させてくれ!

ブランリーゼへようこそ

みるくてぃー
恋愛
今王都で人気のファッションブランド『ブランリーゼ』 その全てのデザインを手がけるのが伯爵令嬢であるこの私、リーゼ・ブラン。 一年程前、婚約者でもあった王子に婚約破棄を言い渡され、長年通い続けた学園を去る事になったのだけれど、その際前世の記憶を取り戻し一人商売を始める事を決意する。 試行錯誤の末、最初に手掛けたドレスが想像以上に評価をもらい、次第に人気を広めていくことになるが、その時国を揺るがす大事件が起きてしまう。 やがて国は変換の時を迎える事になるが、突然目の前に現れる元婚約者。一度は自分をフッた相手をリーゼはどうするのか。 そして謎の青年との出会いで一度は捨て去った恋心が再び蘇る。 【注意】恋愛要素が出てくるのは中盤辺りからになると思います。最初から恋愛を読みたい方にはそぐわないかもしれません。 お仕事シリーズの第二弾「ブランリーゼへようこそ」

夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します

もぐすけ
ファンタジー
 私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。  子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。  私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。  

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...