上 下
44 / 120
ライゼン通りの錬金術師さん3 ~限界への挑戦~

三章 日常

しおりを挟む
 長年研究を続け追い求めていた万能薬が完成した翌日。工房の扉が開かれお客がやって来る。

「こんにちは。ソフィーいるかしら?」

「あら、リーナさん。いらっしゃい」

「リーナ今日は如何したの?」

中年になっても美しく時の数だけ歳を重ねたリーナが入って来ると二人はそちらへと近寄った。

「聞いたわよ。ついに完成したんですってね。ずっと頑張っていたものね、おめでとう」

「有難う御座います」

笑顔で言われた言葉の意味に気付いたソフィアは嬉しそうに微笑む。

「もうリーナの耳にも入ったの?」

「えぇ。街中で噂になっているのよ。出所はハンスとレオ様かしら」

「ハンスさんと国王様が……そう」

ポルトの問いかけに彼女が答えるとソフィアは苦笑する。

「ハンスったら貴女の作った万能薬を世界に広めるんだって、商人の伝手を使って頑張ってるみたい」

「ハンスさんが」

「ハンスってばソフィーの事となると何でもやるよね。でも良かったね。商人の伝手だろ。そうなれば世界中にお姉さんの作ったミラの水が早く広まると思うよ」

リーナの言葉に彼女は目を丸くした。するとポルトがにこりと笑い話す。

「それでね、今日は貴女に依頼を頼みたくて。最近私も年をとったからかそこらじゅうが痛くてね。それで肩こりや腰痛に効く薬をお願いしに来たのよ」

「肩こりや腰痛に効く薬ね。分かったわ。今は在庫が切れているから明日取りにきてくれるかしら」

「えぇ。お願いね」

やり取りを終えるとお客がお店を出ていく。ソフィアは素材のチェックに入った。

「やっぱり今あるだけでは足りないみたいね」

「ローリエとユリアのお店にいくらなおいらがおつかいに行くよ」

素材のチェックを終えると呟く。その言葉にポルトが声をかけて来た。

「他にも買いたい物があるから私が行くわ。ポルトはお留守番お願いね」

「分かった。それじゃあソフィーが帰って来るまでに錬金術の準備をして待ってるよ」

ソフィアの言葉に彼が頷く。こうしてお店をポルトに任せて彼女は買い物へと出かけた。

「こんにちは」

「あっ、ソフィーさんいらっしゃいませ。本日は如何されましたか?」

ローリエのお店へとやって来るとソフィアに気付いた彼女が笑顔で出迎える。

「錬金術に使う素材の在庫が無くなってね。買いに来たのよ」

「そうですか。それでは用意いたしますので何が必要なのか教えてください」

「えぇ。薬草を十束とククルの花を五本。それからこれとこれとこれも」

彼女の言葉にローリエが尋ねるとメニュー表を見ながらソフィアが頼む。

「畏まりました。お包み致しますのでお待ちください」

全ての注文を聞き終えた彼女が商品を包む。

「お待たせいたしました。それよりソフィーさん聞きましたよ。例の万能薬ついに完成したんですよね。凄いです」

「有難う。ローリエのお店にもいろいろとお世話になったわね」

品物を差し出しながらローリエが言うと彼女は笑顔で頷く。

「いいえ、お手伝いが出来て嬉しいんです。それから、また街の外に行く時には私も連れて行って下さいね」

「えぇ、勿論よ。今度お願いするわね」

にこりと笑い彼女が言うとソフィアも分かっているといいたげに答えた。

「約束ですよ。それでは、またのご贔屓お待ちいたしております」

こうしてお店を後にした彼女は続けて教会へと向かう。

「こんにちは」

「ようこそいらっしゃいました。あら、ソフィーさん。本日はどのような御用でしょうか」

教会の奥にあるお店へと向かうとソフィアに気付いたユリアが微笑む。

「また錬金術に使う素材を買いに来たの」

「ふふ。何時も何時もお仕事お疲れ様です。それで、本日は何をお求めですか?」

「女神の像を十体とお守りのペンダント三個、それから聖水を五瓶。あとこれとこれとこれも」

「畏まりました。お包み致しますので少々お待ちください」

またまたメニュー表を見ながらソフィアが注文すると彼女が頷き品物を包む。

「ソフィーさんお話をお聞きしましたよ。ついに万能薬が完成したとか。おめでとうございます」

「有難う。ユリアのお店にも何度も助けられたわ」

商品を渡しながらユリアが言う。その言葉に彼女は有り難いといいたげに頭を下げた。

「いいえ、わたしは神の御心のままにお手伝いしただけにすぎません。本当に凄いのは遣り遂げたソフィーさんですよ」

「ふふ。ユリアらしいわね」

微笑み語る彼女へとソフィアはおかしそうに笑う。

「そうだ、最近体がなまってきているんです。また街の外に行くときはお誘いくださいね」

「えぇ。まさかユリアがこんなに強くなるとは思ってもみなかったわ。ゴースト系の魔物を払っちゃうんですもの。またそういう場所に行く時にはお願いするわね」

「えぇ、楽しみにお待ちいたしておりますよ」

ユリアの話を聞いて彼女は小さく頷き了承する。彼女は楽しみだと言わんばかりに微笑んだ。

「それではまたのご利用お待ちいたしております」

ユリアに見送られながら工房へと戻る。

「ただいま」

「お帰り。それで欲しい物は買えたの?」

玄関の扉を開けてソフィアが入って来るとポルトが駆け寄って出迎えた。

「バッチリよ。さぁ、早速作りましょう」

「うん」

彼女の言葉に彼が頷くと錬金術をするために準備に入る。

「薬草から緑の薬を作るね。準備できてるよ」

「お願いね。それじゃあ私は聖水から綺麗な水を作るわ」

二人は話し合うとフラスコへと向かう。黄金色の輝きが溢れるとあっという間にアイテムが出来上がった。

「出来たよ、はい。お姉さん」

「有難う。それじゃあ緑の薬と綺麗な水それからククルの花を混ぜて……癒しの力を最大限に引き出して根本的な所から治せる薬が出来ますように」

ポルトから薬を受け取ったソフィアはフラスコへと素材を投入する。瞳を閉ざし念を込めると黄金色の煌きが部屋の中を包んだ。

「出来たわ」

「これで納品分の薬は完成だね。だけどお姉さん他にも買ってきた素材があるよね?」

ほうっと息を吐き出すと出来たばかりの薬の入った小瓶を見詰める。そこにポルトが声をかけて来た。

「えぇ、依頼の品は作ったけれどお店に並べる在庫の品を増やしておこうと思ってね。色々と買ってきたのよ。最近は冒険者や騎士団から依頼が多く入ってくるから」

「それで女神の像やお守りのペンダントとか身代わりのコインとかがあるんだね」

「これで作るのは勿論」

「分かってるって。身を護るアイテムだろう。赤の薬はおいらに任せて」

二人はにこりと笑い合うと再びフラスコへと意識を向ける。

こうして錬金術でアイテムを作りまくって部屋には黄金色の光がひっきりなしに溢れた。

「傷薬に解毒剤。解熱剤に麻痺回復の薬……はぁ~一杯作ったぁ」

「身代わりのペンダントに守護の像、守りの指輪……これだけあれば大丈夫かしら」

フラスコと睨めっこしていたポルトが机に突っ伏すと盛大に溜息を吐き出す。

ソフィアも大量のアイテムを作り出して額には汗が滲むなか満足そうに微笑む。

「もう作りたくない」

「これだけあれば暫くの間は大丈夫よ」

作り続けて疲れてしまったのか彼がぼやく言葉に彼女は小さく笑い話す。

こうして出来上がった商品をお店の棚へと並べた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫
ファンタジー
 この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。 その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。  そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

世界で俺だけがダンジョンを攻略できるだと?! ピコハン頑張る!

昆布海胆
ファンタジー
村の不作で口減らしにダンジョンに捨てられたピコハンは世界でただ一人、魔物を倒すとその存在力を吸収して強くなれる存在であった。 これは世界に存在するダンジョンを唯一攻略できるピコハンがダンジョンを攻略していく物語。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

処理中です...