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ライゼン通りの錬金術師さん2 ~人情物語~

六章 不思議なお客の来店

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 季節は移り変わり夏本番の蒸し暑い日々が続くある日の事。工房の扉が開かれ誰かが入って来る。

「いらっしゃいませ……イクト君?」

「……」

お客が来たと思い奥から出てきたソフィアは驚いてそこに立つ人物を見詰めた。

「ど、如何したの?」

「如何したって……あんたが言ったんだろう。今日は在庫の山を整理するから手伝ってくれってさ」

たじろぎながら問いかけるとイクトがぶっきらぼうな態度で話す。

「あ、そ、そう言えば。頼んでたわね。でも、本当にお手伝いに来てくれるとは思ってなくてびっくりしちゃった」

「仕立て屋の手伝いするぐらいならここで在庫の山を整理していたほうのがマシだからな」

彼女は前に頼んだことを思い出しながら話すと、彼がそう言い捨てて部屋の中へと入って来る。

「で、在庫の山は何処にあるんだ」

「店の奥に倉庫として使っている部屋があるの。そこに置いてあるわ」

イクトの言葉に説明しながら店の奥へと指を指し示す。

「ねぇ、君が錬金術師のソフィアで間違いない?」

「「!?」」

そこに第三者の声が聞こえてきて二人して驚いて扉の方を見やった。

「は、はい。私がソフィアです」

「回復薬が切れちゃってね。君なら作れるんでしょ。頼んでいい」

驚いたもののお客の姿にすぐに対応に動くと、少年とも少女とも見て取れる人物が注文する。

「回復薬ですね。畏まりました」

「ちゃんと頼んだからね。明日の朝取りに来るから、それまでに作っておいてよ」

ソフィアが了承したことを確認するとそれだけ告げて店を出ていく。

「え、あの―― ……いっちゃった」

「何だ。あいつ。まるであんたを試すみたいな感じだったな」

慌てて呼び止めようとするも扉は閉まりお客は帰ってしまった。がくりと肩を落としていると一連の言動を見ていたイクトが呟く。

「兎に角。今すぐに回復薬を作らないと」

「俺は奥の部屋で在庫の山を整理してきてやるから、あんたはせいぜい失敗しないように回復薬を作るんだな」

彼女の呟きを聞きながら彼がそう言って奥の部屋へと向かう。

「さて、と。看板をクローズにして……緑の薬に薬草。それから綺麗な水っと」

「ただいま! ソフィーに頼まれていたお使いちゃんとできたよ。褒めて~」

ソフィアが錬金術をするために準備をしていると工房の扉が勢いよく開かれポルトが入って来る。

「お帰りなさい。有り難う」

「ん? 錬金術をするの? それならおいらもお手伝いするよ」

買い物かごを貰いながらお礼を述べると、彼が机に置かれた素材を見て話す。

「有り難う。それじゃあポルトは緑の薬と綺麗な水を混ぜるのをお願い」

「はーい」

ポルトにお手伝いを頼むとソフィアは薬草をフラスコへと投入する。

「はい。ソフィーできたよ」

「有り難う。それじゃあこれをフラスコに投入して……」

部屋の中は黄金色の煌きに包まれ、そうして浮かび上がった回復薬をボトルに詰め込む。

「出来たわ」

「さっすがお姉さん。いつも通りの安定した調合だね」

ボトルに詰められた回復薬を見詰めながら微笑む彼女に彼が声をかける。

「ポルトも大分調合が落ち着いてきたわね。もう私が教える事がないくらい上達が早いわよ」

「えへへっ。そ、そうかな~。おいら成長してるかなぁ~」

ソフィアの言葉に照れ隠ししながら笑うポルトの様子を優しい瞳で見つめる。

「卒業試験でも考えておこうかしら」

「そ、卒業試験~!? 試験なんて嫌だよ」

彼女は笑いながら話すと、それに彼が盛大に驚き悲しげな顔で抗議した。

「あら、お勉強は好きなのに試験は嫌いなの?」

「だって、卒業試験なんだろう。そうなったらおいら一人前ってことだろう。そうしたらもうお姉さんと一緒に暮らせなくなっちゃう」

「ポルト……」

不思議そうに尋ねるとポルトが涙目になり見詰めながら答える。その言葉にソフィアも彼の顔をじっと眺めて考え込むように黙った。

「ここでの生活とっても楽しいんだ。だからまだお姉さんとお別れしたくなんかないよぅ」

「卒業試験っていっても錬金術師として資格を取れるかどうかの練習みたいなものだから。ほら、私が持っているライセンス。あれがないと錬金術師としてお仕事とかできないの。だからポルトはまだライセンスの取得が済んでいないから、まだまだここで一緒に生活できるのよ」

涙声で語るポルトへと彼女は優しく言い聞かせるかのように話す。

「本当? おいらまだここにいていいの?」

「えぇ。勿論よ。ポルトが手伝ってくれないと私も困っちゃうから」

「良かった。おいら、ソフィーとまだまだ一緒にいられるんだね」

上目遣いで確認してくる彼へとソフィアは頷き答える。その言葉に安心した様子で笑顔になったポルトが嬉しそうに話す。

いつかお別れしないといけない日が来るのかもしれない。その時が来るまでは二人での生活を大切にしたいと思うソフィアであった。
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