35 / 61
ライゼン通りのパン屋さん ~看板娘店長就任!?~
三章 雨の日の女の子とチョココロネ
しおりを挟む 夏に近づき長雨が続くある日の事、扉が開かれる音を聞いたミラはそちらへと顔を向けた。
「いらっしゃいませ満腹パン店へようこそ……ってあら?」
確かにお客が入ってきたと思ったのだがそこには誰もいない。
「可笑しいわね」
「あ、あのぅ……」
不思議に思っていると下から声が聞こえ視線を降ろす。するとそこにはびしょ濡れになった女の子が立っていた。
「あら、貴女びしょ濡れじゃないの。ちょっと待ってて」
慌てて奥へと駆け込み体を拭くための布を掴むと持っていく。
「どうして、こんな雨の日に傘もささずにいたのよ」
「ぅ……大丈夫ですよ。それよりここ食べ物売ってる?」
頭から体まで一生懸命に拭いてあげながらミラは言う。それに女の子が小さな声で返事をした。というより何だが元気がない様子。
「えぇ。パン屋ですからね。食べ物は沢山あるわよ」
『ぐぅぅ~』
彼女の話を聞いて女の子のお腹が返事をする。
「はうぅ……」
「もしかして貴女お腹が空いているの?」
お腹を押さえて恥ずかしがる女の子へとミラは尋ねた。
「う、うん。お金持っていなくて……でも、お腹はすいちゃって」
「ちょっと待ってて」
もじもじしながら話す女の子の言葉を聞くや否やミラはお店の中を見渡す。
(お子様でも美味しく食べられて、尚且つお腹が満たされる甘いものがあれば……そうだわ。チョココロネよ)
思い至ったらすぐにチョココロネの山から二つ取り出し女の子へと差し出す。
「へっ?」
「このチョココロネを食べて」
「で、でも。お金、持っていないんだよぅ……」
柔らかく微笑み屈みこみ視線を合わせながら話すミラへと女の子が戸惑いながら答える。
「お金は良いわ。このチョココロネはあげる。だからこれを食べて、ね」
「ぅ、うん。有り難う!」
彼女の言葉に女の子は安心したのか笑顔を浮かべてお礼を述べた。
「それじゃあ、この傘もあげるから気を付けて帰るのよ」
「あ。有り難う。でも大丈夫だよ」
ミラは入口に掛けておいた自分の傘を差しだす。女の子はちょっと困った顔で笑いながら答える。
「何言ってるの。チョココロネが濡れちゃったら食べられなくなるわよ」
「あ、そうか。分かった。お姉ちゃん有り難う」
チョココロネが濡れてしまうと言うことに気付いた女の子が傘を受け取るとお店を出て行った。
「なんだか、ちょっと不思議な女の子だったわね」
女の子が出て行った扉を見詰めミラは小さく独り言を零す。
それから翌日の事であった。
「いらっしゃいませ、ってあら。貴女は昨日の」
「チョココロネと傘有り難う。これお返しに来ました。それからお金も持ってきたの」
お店に入ってきたのは昨日の女の子でミラは優しく微笑むと、少女がそう言って傘とお金を差し出す。
「わざわざ返しに来てくれて有り難う。それと、お金はいらないわよ。あれは私があげたものだからね」
「それじゃあ、このお金で、あのチョココロネをください。甘くておいしくて気に入ったから」
傘を受け取りながら答える彼女へと女の子がそう言って笑った。
「分かったわ。今持ってくるからちょっと待っててね」
「うん」
ミラは言うとチョココロネの山から一つ取り出しバスケットへと入れる。
「はい、落とさないように気を付けてね」
「有り難う。あとね、あのね。そのぅ……わたしウィルフィール・ラウラっていうの」
バスケットを渡してあげると女の子がもじもじしながら自己紹介してくれる。
「それじゃあウィルちゃんね。私はミラよ」
「うん。またチョココロネ買いに来るね」
「えぇ。またのご来店お待ちいたしております」
ミラも名乗るとウィルフィールがにこりと笑い話す。それに答えると女の子は嬉しそうにはにかみお店を出て行った。
「あ、濡れちゃうわよ。って、あら?」
慌てて傘を持って外へと出たがそこにウィルフィールの姿はなく首をかしげる。
「さっきお店を出たと思ったんだけれど。あの子ものすごく足が早いのかしら?」
疑問符を浮かべながら目を丸めて独り言を零す。
「まぁ、いいか」
女の子がいないなら意味がないと考え店の中へと戻っていった。
「いらっしゃいませ満腹パン店へようこそ……ってあら?」
確かにお客が入ってきたと思ったのだがそこには誰もいない。
「可笑しいわね」
「あ、あのぅ……」
不思議に思っていると下から声が聞こえ視線を降ろす。するとそこにはびしょ濡れになった女の子が立っていた。
「あら、貴女びしょ濡れじゃないの。ちょっと待ってて」
慌てて奥へと駆け込み体を拭くための布を掴むと持っていく。
「どうして、こんな雨の日に傘もささずにいたのよ」
「ぅ……大丈夫ですよ。それよりここ食べ物売ってる?」
頭から体まで一生懸命に拭いてあげながらミラは言う。それに女の子が小さな声で返事をした。というより何だが元気がない様子。
「えぇ。パン屋ですからね。食べ物は沢山あるわよ」
『ぐぅぅ~』
彼女の話を聞いて女の子のお腹が返事をする。
「はうぅ……」
「もしかして貴女お腹が空いているの?」
お腹を押さえて恥ずかしがる女の子へとミラは尋ねた。
「う、うん。お金持っていなくて……でも、お腹はすいちゃって」
「ちょっと待ってて」
もじもじしながら話す女の子の言葉を聞くや否やミラはお店の中を見渡す。
(お子様でも美味しく食べられて、尚且つお腹が満たされる甘いものがあれば……そうだわ。チョココロネよ)
思い至ったらすぐにチョココロネの山から二つ取り出し女の子へと差し出す。
「へっ?」
「このチョココロネを食べて」
「で、でも。お金、持っていないんだよぅ……」
柔らかく微笑み屈みこみ視線を合わせながら話すミラへと女の子が戸惑いながら答える。
「お金は良いわ。このチョココロネはあげる。だからこれを食べて、ね」
「ぅ、うん。有り難う!」
彼女の言葉に女の子は安心したのか笑顔を浮かべてお礼を述べた。
「それじゃあ、この傘もあげるから気を付けて帰るのよ」
「あ。有り難う。でも大丈夫だよ」
ミラは入口に掛けておいた自分の傘を差しだす。女の子はちょっと困った顔で笑いながら答える。
「何言ってるの。チョココロネが濡れちゃったら食べられなくなるわよ」
「あ、そうか。分かった。お姉ちゃん有り難う」
チョココロネが濡れてしまうと言うことに気付いた女の子が傘を受け取るとお店を出て行った。
「なんだか、ちょっと不思議な女の子だったわね」
女の子が出て行った扉を見詰めミラは小さく独り言を零す。
それから翌日の事であった。
「いらっしゃいませ、ってあら。貴女は昨日の」
「チョココロネと傘有り難う。これお返しに来ました。それからお金も持ってきたの」
お店に入ってきたのは昨日の女の子でミラは優しく微笑むと、少女がそう言って傘とお金を差し出す。
「わざわざ返しに来てくれて有り難う。それと、お金はいらないわよ。あれは私があげたものだからね」
「それじゃあ、このお金で、あのチョココロネをください。甘くておいしくて気に入ったから」
傘を受け取りながら答える彼女へと女の子がそう言って笑った。
「分かったわ。今持ってくるからちょっと待っててね」
「うん」
ミラは言うとチョココロネの山から一つ取り出しバスケットへと入れる。
「はい、落とさないように気を付けてね」
「有り難う。あとね、あのね。そのぅ……わたしウィルフィール・ラウラっていうの」
バスケットを渡してあげると女の子がもじもじしながら自己紹介してくれる。
「それじゃあウィルちゃんね。私はミラよ」
「うん。またチョココロネ買いに来るね」
「えぇ。またのご来店お待ちいたしております」
ミラも名乗るとウィルフィールがにこりと笑い話す。それに答えると女の子は嬉しそうにはにかみお店を出て行った。
「あ、濡れちゃうわよ。って、あら?」
慌てて傘を持って外へと出たがそこにウィルフィールの姿はなく首をかしげる。
「さっきお店を出たと思ったんだけれど。あの子ものすごく足が早いのかしら?」
疑問符を浮かべながら目を丸めて独り言を零す。
「まぁ、いいか」
女の子がいないなら意味がないと考え店の中へと戻っていった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
【完結】パンでパンでポン!!〜付喪神と作る美味しいパンたち〜
櫛田こころ
キャラ文芸
水乃町のパン屋『ルーブル』。
そこがあたし、水城桜乃(みずき さくの)のお家。
あたしの……大事な場所。
お父さんお母さんが、頑張ってパンを作って。たくさんのお客さん達に売っている場所。
あたしが七歳になって、お母さんが男の子を産んだの。大事な赤ちゃんだけど……お母さんがあたしに構ってくれないのが、だんだんと悲しくなって。
ある日、大っきなケンカをしちゃって。謝るのも嫌で……蔵に行ったら、出会ったの。
あたしが、保育園の時に遊んでいた……ままごとキッチン。
それが光って出会えたのが、『つくもがみ』の美濃さん。
関西弁って話し方をする女の人の見た目だけど、人間じゃないんだって。
あたしに……お父さん達ががんばって作っている『パン』がどれくらい大変なのかを……ままごとキッチンを使って教えてくれることになったの!!
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる