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ライゼン通りのパン屋さん ~看板娘とお客さん~

九章 グラウィス再び来店

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 冬が近づくライゼン通り。今日もパン屋さんは朝から大賑わいだ。

「いらっしゃいませ」

「ミラさん、こんにちは。今日は久しぶりに屋敷から出られたのでパンを買いに来たよ」

お客が来店してきた様子に笑顔で声をかけるが、そこに立っているグラウィスの姿に一気に緊張して蒼い顔になる。

「グ、グラウィスさん。この前は私がぶつかっておきながら謝らせたり、失礼な態度を取ったりしてしまい申し訳ございませんでした」

「ミラさん? どうして――」

頭を深々と下げて謝るミラの様子に以前との態度の違いに戸惑いどうしてか聞こうと思ったが、奥にいるマックスとミランダの怖い顔を見て納得して頷く。

「なるほど、ご両親に言われて謝る事になったんだな」

「え?」

グラウィスの言葉に彼女は目を丸めて驚く。

「ミラさん、貴女が謝る必要はない。私が悪いと思い謝りに来た。それでいいではないか。あの件はもう気にしなくていい」

「で、でも。私も今ではぶつかってしまったことを悪いと思っているのよ。だから」

彼の言葉にミラは躊躇いながら答えるが言葉が続かなくて黙り込む。

「ははっ。素直な娘さんだな。大丈夫。そんなに怯えなくても、私はミラさんに危害を加えるようなことは絶対にしないよ」

「本当に? あの時は凄く怒っていたのに?」

怯える彼女の様子に可笑しそうに笑うと安心させるように柔らかく微笑み話す。

その言葉にミラは不安そうに尋ねた。

「あぁ。今は怒っていないよ。それより、貴女にそんなに怯えられては私が困る。ミラさんは普通にしていてもらいたい」

「それって、出会った時みたいに普通に接して良いって事かしら」

グラウィスの話に彼女は不思議そうに首を傾げる。

「あぁ。私がそうしてもらいたいんだ。駄目かね?」

「いいえ。むしろよかったわ。私敬うとか敬語を使うとか苦手なのよね。あ~よかった。グラウィスさんがそう言ってくれて。これで普通に話せるわ」

彼の言葉に首を横に振るとにこりと笑いミラは言った。

「ははっ。それでこそ私が気に入ったミラさんだ。これからもそれで頼むよ」

「えぇ」

盛大に笑うグラウィスに彼女は笑顔で答える。

「そう言えばグラウィスさん。随分とご無沙汰だったけれど、お屋敷から出られなかったの?」

「あぁ。時期侯爵としての勉強に追われていてね。自由に街に繰り出す時間の余裕もないのだよ」

ミラの言葉に彼が頷くとそう話す。

「ふ~ん。でも今日は街にいるじゃない」

「何時も勉強を頑張っているからご褒美に休暇を貰えたのだよ。だからこうしてパンを買いに来られたんだ」

不思議そうな彼女へとグラウィスがそう答える。

「それじゃあこの前出会った時は如何して?」

「あの日は私の誕生日でね。父に誕生日だから特別に街に遊びにいけれるように頼んだのだよ」

さらに質問するミラへと彼が直ぐに返答した。

「ふ~ん。それにしても中々街に遊びにも来られないなんて、侯爵候補って大変なのね」

「まぁ、時期侯爵として期待されているからな。私としては息抜きに街に遊びに行きたいものなのだが、両親や周りの期待もあるからそれに応えなくてはならないのだよ」

彼女の言葉にグラウィスが苦笑しながら話す。

「お貴族様って大変ね」

「ははっ。そうかもしれないな」

ミラは思ったことを口に出すとそれに彼が小さく笑う。

「それじゃあ、今日は久々の休暇なんだから家なんかにいる場合じゃないわよ。もっと街の中を見て楽しまないと」

「そうだな……ミラさんが案内してくれるなら考えてもいいが」

笑顔で話す彼女へとグラウィスが考え深げな顔でそう提案する。

「え? 如何して私が?」

「そ、それは……実はあんまり街に遊びに来られないから、どこに行けば楽しめるのかがわからなくてな。だからミラさんが案内してくれたらきっと楽しめると思うんだ」

驚くミラへと彼が慌てて絞り出した答えを伝えた。

「なんだ、そうだったの。仕方ないわね。それじゃあ案内してあげる。といっても庶民とお貴族様じゃ遊ぶって感覚も違うかもしれないけれど」

「ミラさんが好きな場所や食べ物なんかを教えて貰いたいんだ。庶民視点の方があんがい貴族なんかより楽しい遊びを知っているものだからな」

納得した彼女だが小さく笑ってそう話す。それにグラウィスが構わないといいたげに伝えた。

「分かったわ。それじゃあさっそく行きましょうか」

「あぁ、よろしく頼む」

こうしてひょんなことからミラは彼と一緒に街に遊びに行くこととなった。
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