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第三章
10. セバスの門
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「今度ばかりは……逃げ切れそうにねえなあ……」
珍しくシェンガが弱音を吐いた。
だが、ハル・レガの口元にはまだ不適な笑みが浮かんでいる。
「そうとも言えんさ」
宇宙海賊は操船台の下をのぞき込むと、目当てのものを見つけて引っ張り出した。銃……のように見えるが、銃口には大きなフックが刺さっている。
「ケーブルランチャーか……そんなものじゃ、戦えないだろ」
シェンガの横槍に構わず、ハルは船首に向かうとそこに取り付けられたウインチからワイヤーを引っ張り出した。
「みんな前の方へ集まってくれ。もうすぐこのボートは上に向かって九十度ひっくり返る」
「何をする気だよ」
「あれさ」
ハルは頭上を指差した。
ボートはいつの間にかサロウ城市の最上部に近づいていた。空里たちのまわりには、もう建造物がほとんどない。屋上にサロウ城の本館をいただくメインキャピタルタワーがそびえ立っているだけだ。
しかし、真上には何かがあった。
建造物ではない。かと言って、乗り物にも見えない。緑色に光り輝く、パイプが複雑に組み合わさったような構造物が浮かんでいる。
「何かしら?」
空里が言った。
「〈セバスの門〉だ。重力ゲートジェネレーターともいう。この空間の重力バランスを作ってる、重力導士たちの仕掛けさ」
「あれを、どうしようっていうんだ?」
「あれ自体に用はない。あれにフックをかけてウインチで一気にボートを引き上げるから、サロウ城が近づいたらそっちへダイブするんだ」
「ちょっと! 大変!」
ティプトリーが悲鳴を挙げた。
見ると、バイクやボートで近づいて来た武装集団が今にも空里たちのボートに取りつこうとしているところだった。
「やるぞ!」
レガはランチャーのフックとウインチから引っ張り出したワイヤーを繋ぎ、頭上の〈セバスの門〉を狙ってフックを発射した。
ワイヤー先端のフックが光るパイプに触れたように見えた時、ボートに乗り込んできた武装集団の一人が空里にパルスライフルの銃口を向けた。
今度は空里が悲鳴を挙げた。
「みんな、俺につかまれ!」
三人が言われるままハル・レガにしがみついた次の瞬間、ウインチのスイッチレバーが蹴り倒され、大型ボートはガクンと船首を跳ね上げて上に向かって疾走し始めた。
船上の武装集団は全員が外へ投げ出され、再び追跡が始まった。
空里たちのボートは勢いよく〈セバスの門〉に向かって飛んでいたが、追手の乗り物の方がまだ早かった。
獲物を取り囲んだ武装集団が、まずはボートを止めるために攻撃を開始した。空里たちの上といわず、下といわずあらゆる方向からエネルギー弾が飛び交い、ボート自体を破壊し始める。
もうダメだ……
空里が諦めかけたその時、武装集団の乗り物が次々に爆発し始めた。頭上から、何かの攻撃を受けているのだ。
何か……いや誰かがパルスライフルを撃ちまくりながら真上から飛んで来る。獲物に襲いかかる猛禽のように、その影は空里たちの半壊したボートをかすめて落下していった。
「ネープだわ!」
空里の声と同時に、ボートがガクンと揺れた。
ネープはボートのそばを通った時、ワイヤー付きのフックをその船体に引っ掛けていた。ワイヤーはいっぱいに伸び切り、少年の身体が大きく弧を描きなが上昇を開始する。
空中を舞いながら、ネープはボートを取り囲む敵に向かって射撃と投擲を同時におこなっていた。しかもランチャーを使わず、素手で熱核弾をピッチングしているのだ。それでも狙いあやまたず、武装集団の乗り物は一つ、また一つと潰されていった。
ネープはさらに一周、ボートのまわりを飛び、反発スラスターを巧みに使って軌道を変えた。
完全人間の少年は計算通りのコースで、ほとんどスクラップと化したボートの船首部に向かって飛んで来ると、空里の目の前に着地した。
「ネープ!」
マントの合わせを割って手を伸ばした空里は、上半身裸の少年に抱きついた。何度も一緒に死線を越えてきたが、お互いの肌と肌を触れ合わせるのは初めてだった。
「アサト……」
またこの声で名前を呼んでもらえた……
空里はこの瞬間が夢でないように、また夢のように消えませんようにとネープを抱きしめる腕に力を込めた。
「アサト、放してください」
「ごめん……」
ネープの身体を放して、その美しい顔をあらためて見つめる。
空里は泣き笑いだったが、少年はいつもと同じ冷静そのものの表情だった。
完全人間て、どうして笑わないのかしら……
「なぜ、出て来たのです?」
そう尋ねるネープの目は、何か不思議なものを見るような、少年の目だった。
「なぜ、安全なところに隠れていなかったのですか?」
「なぜって……あなたを助けに来たのよ。あなたがいなければ、この星から出て行くことは出来ないから……」
ネープの表情はほとんど変わらなかったが、わずかに驚きが見えた……気がした。
「私は心配いりません。あなたがどこにいても、こちらから探しに行きます」
「そんなこと言っても、心配です! 普段ならなんでもネープの言う通りにするけど、あなたが撃たれた時に心配することくらい、させてください!」
やっぱり不思議そう……なんでそんな目で見るのかしら?
「護るべき皇帝に心配されちゃ、完全人間も面目が立たないってところだな」
シェンガの茶々を聞いたネープの目は、一度まばたきをするだけで元通りの色に戻っていた。
「怪我はありませんか?」
そう言って空里の身体をあらためるネープの目は、皇帝を守るメタトルーパーのそれだった。
「だいじょうぶよ……あなたこそそんな格好で……傷だらけじゃないの」
細身だが筋肉質で引き締まったネープの身体ににじむ血が痛々しい。空里は自分の衣装につばでもつけて、拭いてやりたい衝動に駆られた。
「君がアサトの完全人間か。見事な戦いぶりだったな」
ネープがハル・レガに疑わしそうな目を向けた。
「この人はハル・レガ。味方よ。私たちを助けてくれたの」
それを聞いたネープは一瞬ピクっと眉を上げたが、平静さを崩さずに言った。
「協力に感謝する……」
「なに、俺としてもアサトには銀河皇帝になってもらいたいのでね。君もいることだし、なんとか〈青砂〉への道はひらけて来そうだな」
「それで……これからどうするの? この子を助けるためにどこかへ忍び込む必要はもうなくなったわけよね」
ティプトリーの言葉に、ハルはあたりを見渡した。
「その通りだが……少し上まで来すぎたようだな。さてどうしたものか……」
五人を乗せたボートの残骸は、サロウ城市の最上部……〈セバスの門〉のかたわらに辿り着いていた。下からは見えていなかったが、〈門〉の中心は緑色のビームが形作る巨大なピラミッドだった。そのピラミッドを載せたフレームの一端に、ハルが放ったケーブルのフックが引っかかっている。フレームのそこかしこでは、何人かの人間が立ち働きながら、こちらを見つめていた。
空里は、緑色に光る半透明なピラミッドの中心部に、何か石のようなもの浮かんでいるのに気づいた。
「この石が……〈セバスの門〉?」
ネープが答えた。
「門の核になる星百合の種子です。ミン・ガンが持っているものと同じですが、これはかなり成長した状態です。重力導士はこれを中心に重力ゲートジェネレーターを作り、超空間から重力を導くのです」
「あんたらは誰だ? 何しに来た?」
ピラミッドを支えるフレームの上から、頭の禿げ上がった初老の男が声をかけてきた。僧侶か司祭のような白い長衣に身を包み、背丈に倍する長い杖状の機械を持っている。
ハル・レガが言った。
「重力導士だ」
その姿を見たネープは、ぱっとフレームに飛び移り、意外なほど丁重な物腰で男に話しかけた。
「あなたは……ミ=クニ・クアンタ卿ではありませんか?」
「いかにも、その通りだ。君は……完全人間だな? なぜこんなところに……待てよ、するとまさか……」
ミ=クニ・クアンタは首をめぐらし、空里の顔を見つけると大きく目をむいた。
「あんたか! 辺境宙域から迷い込んで来たという皇位継承者!」
空里がどう返事したものか考えあぐねていると、ネープがかわって答えた。
「そうです。これから〈青砂〉で即位の準備を整え、彼女の星へ帰ります。出来れば、閣下にもご同道いただきたい」
クアンタはますます大きく目をむいた。
「そりゃできんよ。まだここで仕事も残っとるし……」
「どういうことなの? その人に何の用が?」
空里の問いにネープは振り向いた。
「この方は、最上席重力導士でかつ、帝国の元老でいらっしゃるのです。あなたの即位の儀には元老院議員の出席が必要なのです。来ていただければ……」
クアンタはかぶりを振ってネープの言葉をさえぎった。
「わしは百合紀元節が終わるまで、ここを動けんて。それより、あんたたちはこんなところでグズグズしとると、えらいことになるんじゃないか?」
クアンタが杖で示した先には、壮麗な庭園の上にそびえるサロウ城があった。ティプトリーが息を呑む。
「すごいお城……」
「おい、ありゃあ俺たちが乗って来たスター・コルベットじゃねえか?」
シェンガが指差した庭園の中央には、確かに空里たちを乗せて来た宇宙船が着陸していた。
ネープは眉根を寄せてその船を凝視した。
おかしい……プラットホームにあるはずの船が、なぜあんなところに……まるで、奪ってみせろと挑発しているようではないか。
庭園は〈セバスの門〉と同じ高さにあり、そのフレームから簡単に渡れそうだ。
「もし、城の姫様にあんたたちが見つかったら……いや……もう遅いか……見つかったようだ」
スター・コルベットのかたわらに、黒い影が現れていた。
丈の長い黒衣に身を包んだ長身の女性が、こちらに向かって歩いて来る。その顔の上半分は、異形の仮面に隠されていた。
「……誰なの」
「レディ・ユリイラ=リイ・ラ……」 空里に告げるネープの声は落ち着いているが、いい知れぬ緊張に満ちていた。
「……前皇帝ゼン=ゼン・ラ二百四世の姉です」
珍しくシェンガが弱音を吐いた。
だが、ハル・レガの口元にはまだ不適な笑みが浮かんでいる。
「そうとも言えんさ」
宇宙海賊は操船台の下をのぞき込むと、目当てのものを見つけて引っ張り出した。銃……のように見えるが、銃口には大きなフックが刺さっている。
「ケーブルランチャーか……そんなものじゃ、戦えないだろ」
シェンガの横槍に構わず、ハルは船首に向かうとそこに取り付けられたウインチからワイヤーを引っ張り出した。
「みんな前の方へ集まってくれ。もうすぐこのボートは上に向かって九十度ひっくり返る」
「何をする気だよ」
「あれさ」
ハルは頭上を指差した。
ボートはいつの間にかサロウ城市の最上部に近づいていた。空里たちのまわりには、もう建造物がほとんどない。屋上にサロウ城の本館をいただくメインキャピタルタワーがそびえ立っているだけだ。
しかし、真上には何かがあった。
建造物ではない。かと言って、乗り物にも見えない。緑色に光り輝く、パイプが複雑に組み合わさったような構造物が浮かんでいる。
「何かしら?」
空里が言った。
「〈セバスの門〉だ。重力ゲートジェネレーターともいう。この空間の重力バランスを作ってる、重力導士たちの仕掛けさ」
「あれを、どうしようっていうんだ?」
「あれ自体に用はない。あれにフックをかけてウインチで一気にボートを引き上げるから、サロウ城が近づいたらそっちへダイブするんだ」
「ちょっと! 大変!」
ティプトリーが悲鳴を挙げた。
見ると、バイクやボートで近づいて来た武装集団が今にも空里たちのボートに取りつこうとしているところだった。
「やるぞ!」
レガはランチャーのフックとウインチから引っ張り出したワイヤーを繋ぎ、頭上の〈セバスの門〉を狙ってフックを発射した。
ワイヤー先端のフックが光るパイプに触れたように見えた時、ボートに乗り込んできた武装集団の一人が空里にパルスライフルの銃口を向けた。
今度は空里が悲鳴を挙げた。
「みんな、俺につかまれ!」
三人が言われるままハル・レガにしがみついた次の瞬間、ウインチのスイッチレバーが蹴り倒され、大型ボートはガクンと船首を跳ね上げて上に向かって疾走し始めた。
船上の武装集団は全員が外へ投げ出され、再び追跡が始まった。
空里たちのボートは勢いよく〈セバスの門〉に向かって飛んでいたが、追手の乗り物の方がまだ早かった。
獲物を取り囲んだ武装集団が、まずはボートを止めるために攻撃を開始した。空里たちの上といわず、下といわずあらゆる方向からエネルギー弾が飛び交い、ボート自体を破壊し始める。
もうダメだ……
空里が諦めかけたその時、武装集団の乗り物が次々に爆発し始めた。頭上から、何かの攻撃を受けているのだ。
何か……いや誰かがパルスライフルを撃ちまくりながら真上から飛んで来る。獲物に襲いかかる猛禽のように、その影は空里たちの半壊したボートをかすめて落下していった。
「ネープだわ!」
空里の声と同時に、ボートがガクンと揺れた。
ネープはボートのそばを通った時、ワイヤー付きのフックをその船体に引っ掛けていた。ワイヤーはいっぱいに伸び切り、少年の身体が大きく弧を描きなが上昇を開始する。
空中を舞いながら、ネープはボートを取り囲む敵に向かって射撃と投擲を同時におこなっていた。しかもランチャーを使わず、素手で熱核弾をピッチングしているのだ。それでも狙いあやまたず、武装集団の乗り物は一つ、また一つと潰されていった。
ネープはさらに一周、ボートのまわりを飛び、反発スラスターを巧みに使って軌道を変えた。
完全人間の少年は計算通りのコースで、ほとんどスクラップと化したボートの船首部に向かって飛んで来ると、空里の目の前に着地した。
「ネープ!」
マントの合わせを割って手を伸ばした空里は、上半身裸の少年に抱きついた。何度も一緒に死線を越えてきたが、お互いの肌と肌を触れ合わせるのは初めてだった。
「アサト……」
またこの声で名前を呼んでもらえた……
空里はこの瞬間が夢でないように、また夢のように消えませんようにとネープを抱きしめる腕に力を込めた。
「アサト、放してください」
「ごめん……」
ネープの身体を放して、その美しい顔をあらためて見つめる。
空里は泣き笑いだったが、少年はいつもと同じ冷静そのものの表情だった。
完全人間て、どうして笑わないのかしら……
「なぜ、出て来たのです?」
そう尋ねるネープの目は、何か不思議なものを見るような、少年の目だった。
「なぜ、安全なところに隠れていなかったのですか?」
「なぜって……あなたを助けに来たのよ。あなたがいなければ、この星から出て行くことは出来ないから……」
ネープの表情はほとんど変わらなかったが、わずかに驚きが見えた……気がした。
「私は心配いりません。あなたがどこにいても、こちらから探しに行きます」
「そんなこと言っても、心配です! 普段ならなんでもネープの言う通りにするけど、あなたが撃たれた時に心配することくらい、させてください!」
やっぱり不思議そう……なんでそんな目で見るのかしら?
「護るべき皇帝に心配されちゃ、完全人間も面目が立たないってところだな」
シェンガの茶々を聞いたネープの目は、一度まばたきをするだけで元通りの色に戻っていた。
「怪我はありませんか?」
そう言って空里の身体をあらためるネープの目は、皇帝を守るメタトルーパーのそれだった。
「だいじょうぶよ……あなたこそそんな格好で……傷だらけじゃないの」
細身だが筋肉質で引き締まったネープの身体ににじむ血が痛々しい。空里は自分の衣装につばでもつけて、拭いてやりたい衝動に駆られた。
「君がアサトの完全人間か。見事な戦いぶりだったな」
ネープがハル・レガに疑わしそうな目を向けた。
「この人はハル・レガ。味方よ。私たちを助けてくれたの」
それを聞いたネープは一瞬ピクっと眉を上げたが、平静さを崩さずに言った。
「協力に感謝する……」
「なに、俺としてもアサトには銀河皇帝になってもらいたいのでね。君もいることだし、なんとか〈青砂〉への道はひらけて来そうだな」
「それで……これからどうするの? この子を助けるためにどこかへ忍び込む必要はもうなくなったわけよね」
ティプトリーの言葉に、ハルはあたりを見渡した。
「その通りだが……少し上まで来すぎたようだな。さてどうしたものか……」
五人を乗せたボートの残骸は、サロウ城市の最上部……〈セバスの門〉のかたわらに辿り着いていた。下からは見えていなかったが、〈門〉の中心は緑色のビームが形作る巨大なピラミッドだった。そのピラミッドを載せたフレームの一端に、ハルが放ったケーブルのフックが引っかかっている。フレームのそこかしこでは、何人かの人間が立ち働きながら、こちらを見つめていた。
空里は、緑色に光る半透明なピラミッドの中心部に、何か石のようなもの浮かんでいるのに気づいた。
「この石が……〈セバスの門〉?」
ネープが答えた。
「門の核になる星百合の種子です。ミン・ガンが持っているものと同じですが、これはかなり成長した状態です。重力導士はこれを中心に重力ゲートジェネレーターを作り、超空間から重力を導くのです」
「あんたらは誰だ? 何しに来た?」
ピラミッドを支えるフレームの上から、頭の禿げ上がった初老の男が声をかけてきた。僧侶か司祭のような白い長衣に身を包み、背丈に倍する長い杖状の機械を持っている。
ハル・レガが言った。
「重力導士だ」
その姿を見たネープは、ぱっとフレームに飛び移り、意外なほど丁重な物腰で男に話しかけた。
「あなたは……ミ=クニ・クアンタ卿ではありませんか?」
「いかにも、その通りだ。君は……完全人間だな? なぜこんなところに……待てよ、するとまさか……」
ミ=クニ・クアンタは首をめぐらし、空里の顔を見つけると大きく目をむいた。
「あんたか! 辺境宙域から迷い込んで来たという皇位継承者!」
空里がどう返事したものか考えあぐねていると、ネープがかわって答えた。
「そうです。これから〈青砂〉で即位の準備を整え、彼女の星へ帰ります。出来れば、閣下にもご同道いただきたい」
クアンタはますます大きく目をむいた。
「そりゃできんよ。まだここで仕事も残っとるし……」
「どういうことなの? その人に何の用が?」
空里の問いにネープは振り向いた。
「この方は、最上席重力導士でかつ、帝国の元老でいらっしゃるのです。あなたの即位の儀には元老院議員の出席が必要なのです。来ていただければ……」
クアンタはかぶりを振ってネープの言葉をさえぎった。
「わしは百合紀元節が終わるまで、ここを動けんて。それより、あんたたちはこんなところでグズグズしとると、えらいことになるんじゃないか?」
クアンタが杖で示した先には、壮麗な庭園の上にそびえるサロウ城があった。ティプトリーが息を呑む。
「すごいお城……」
「おい、ありゃあ俺たちが乗って来たスター・コルベットじゃねえか?」
シェンガが指差した庭園の中央には、確かに空里たちを乗せて来た宇宙船が着陸していた。
ネープは眉根を寄せてその船を凝視した。
おかしい……プラットホームにあるはずの船が、なぜあんなところに……まるで、奪ってみせろと挑発しているようではないか。
庭園は〈セバスの門〉と同じ高さにあり、そのフレームから簡単に渡れそうだ。
「もし、城の姫様にあんたたちが見つかったら……いや……もう遅いか……見つかったようだ」
スター・コルベットのかたわらに、黒い影が現れていた。
丈の長い黒衣に身を包んだ長身の女性が、こちらに向かって歩いて来る。その顔の上半分は、異形の仮面に隠されていた。
「……誰なの」
「レディ・ユリイラ=リイ・ラ……」 空里に告げるネープの声は落ち着いているが、いい知れぬ緊張に満ちていた。
「……前皇帝ゼン=ゼン・ラ二百四世の姉です」
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