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第4章
4-4進学先
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進路調査票。
卒業後、どこに進学または就職するかを書き込む三つの欄が設けられた用紙だ。この高校は進学校であるため、大学名が記入されることが多いだろう。
この僕も例に漏れず大学名を書くつもりだった。というか書いていた。
しかし――――。
冴羅はどうするんだろう……!
同じ大学に行きたいところだけど、強制までする気はないとか言う可能性もあるし……。
訊いて……良いものなの?
いや、訊かざるを得ないか。
そうだ。遅かれ早かれ訊くことになるなら早い方が考える時間も増やせる!
早速冴羅に生徒会室へ来てもらった。活動は基本放課後で、特に今は試験前の部活停止期間だから他に誰も来ない。
「冴羅、大学についてなんだが、君はどうするんだ?」
「宗壱、試験勉強は大丈夫なのかしら?」
鋭く睨まれながら返されたが……その緊迫感は徐に解けていった。
「なんてね。私も考えていたのだけれど。ありがとう、心配してくれて」
「いや、心配してあげたというより君のこと、見させてほしいんだ。君が喜ぶなら尚更。だから同じ大学に行けないかと思ってね」
「あ、ありがとう」
冴羅は照れくさそうに視線を反らした。
可愛い。僕の彼女です。思考力が激減します。
「けれどそれで宗壱が不利益を被るのは嫌よ。もし大学を合わせるようなことをしてもらったとしても、私からしてあげられることは多くないと思うから」
「そう言うと思ったよ。気に病むな。私が自己満足で冴羅と居たい思っているんだ。そもそも私が冴羅と目指す先が同じで合わせる必要がないかもしれないじゃないか」
「……同じ分野を目指して、その上で同じ大学を希望している可能性は低いのではないかしら? もし違うのに無理に変えてもらうとか、そういうのが嫌なの」
「そう言われると確かにそうだな……。なら、教えてもらえないか? どの大学のどの学部を希望しているか」
すると冴羅の首がぎこちなく右に回っていった。
「なぜ目を反らす……」
「え? いえ? なんというか」
ちらちらとこちらに目を向ける顔は強ばっていた。
「ま、まあ、いつかは分かることだ。今でなくとも良い」
冴羅の目が反らされたところで一度止まり、伏せられた。
「はぁ……。そうね、言うわ。さっき『私も考えていた』と言ったでしょう? それはもし離ればなれになったときことだったの。もちろん電話もかけるし会いにも行くわ。それができるだけで充分よね。なのに、どうしても見ていてほしいと思ってしまうの」
「見ていてもらえなくなるかもしれないこと自体が怖いし、それを避けたいと思うことが卑しいと?」
口を引き結んで頷く冴羅。
「私が目指す先を変えないまま、冴羅を見ている方法か。確かに私も冴羅と同じ大学に行くことしか考えていなかったな」
大学……オープンキャンパスで行っただけだ。その時聴いたのは、地域住民にも開かれているということ……。
「そうか、私がそちらに紛れるのならどうかな?」
冴羅がこちらに向いてくれた。突拍子もないとでも言いたそうに。
「大学は基本開放されているし、大学生なら違和感なく入り込めるだろう?」
「それはそうだけれど……。あなたにだけ負担がかかってしまうわ」
「なら冴羅も見に来れば負担は同じになるよな? そうだ、私のことも少しは見てもらわなければだったな。志望大学は教えるから」
冴羅は呆然とした後、大きくため息を吐いた。ただし先ほどと違い、その口角が上がっていた。
「負けたわ。結局私からも教えなければ不平等よね。放課後、宗壱の進路調査票を持ってまたここに来て。私のを見せてあげるから」
◇
放課後、約束通り進路調査票を見せあった。
「全く同じね……。こんなことあるのかというくらい。凛紗とも違ったのよ?」
「学部まで違わないなんて……。本当に今まで一度も見たことないはずなのに」
完全一致だった。
卒業後、どこに進学または就職するかを書き込む三つの欄が設けられた用紙だ。この高校は進学校であるため、大学名が記入されることが多いだろう。
この僕も例に漏れず大学名を書くつもりだった。というか書いていた。
しかし――――。
冴羅はどうするんだろう……!
同じ大学に行きたいところだけど、強制までする気はないとか言う可能性もあるし……。
訊いて……良いものなの?
いや、訊かざるを得ないか。
そうだ。遅かれ早かれ訊くことになるなら早い方が考える時間も増やせる!
早速冴羅に生徒会室へ来てもらった。活動は基本放課後で、特に今は試験前の部活停止期間だから他に誰も来ない。
「冴羅、大学についてなんだが、君はどうするんだ?」
「宗壱、試験勉強は大丈夫なのかしら?」
鋭く睨まれながら返されたが……その緊迫感は徐に解けていった。
「なんてね。私も考えていたのだけれど。ありがとう、心配してくれて」
「いや、心配してあげたというより君のこと、見させてほしいんだ。君が喜ぶなら尚更。だから同じ大学に行けないかと思ってね」
「あ、ありがとう」
冴羅は照れくさそうに視線を反らした。
可愛い。僕の彼女です。思考力が激減します。
「けれどそれで宗壱が不利益を被るのは嫌よ。もし大学を合わせるようなことをしてもらったとしても、私からしてあげられることは多くないと思うから」
「そう言うと思ったよ。気に病むな。私が自己満足で冴羅と居たい思っているんだ。そもそも私が冴羅と目指す先が同じで合わせる必要がないかもしれないじゃないか」
「……同じ分野を目指して、その上で同じ大学を希望している可能性は低いのではないかしら? もし違うのに無理に変えてもらうとか、そういうのが嫌なの」
「そう言われると確かにそうだな……。なら、教えてもらえないか? どの大学のどの学部を希望しているか」
すると冴羅の首がぎこちなく右に回っていった。
「なぜ目を反らす……」
「え? いえ? なんというか」
ちらちらとこちらに目を向ける顔は強ばっていた。
「ま、まあ、いつかは分かることだ。今でなくとも良い」
冴羅の目が反らされたところで一度止まり、伏せられた。
「はぁ……。そうね、言うわ。さっき『私も考えていた』と言ったでしょう? それはもし離ればなれになったときことだったの。もちろん電話もかけるし会いにも行くわ。それができるだけで充分よね。なのに、どうしても見ていてほしいと思ってしまうの」
「見ていてもらえなくなるかもしれないこと自体が怖いし、それを避けたいと思うことが卑しいと?」
口を引き結んで頷く冴羅。
「私が目指す先を変えないまま、冴羅を見ている方法か。確かに私も冴羅と同じ大学に行くことしか考えていなかったな」
大学……オープンキャンパスで行っただけだ。その時聴いたのは、地域住民にも開かれているということ……。
「そうか、私がそちらに紛れるのならどうかな?」
冴羅がこちらに向いてくれた。突拍子もないとでも言いたそうに。
「大学は基本開放されているし、大学生なら違和感なく入り込めるだろう?」
「それはそうだけれど……。あなたにだけ負担がかかってしまうわ」
「なら冴羅も見に来れば負担は同じになるよな? そうだ、私のことも少しは見てもらわなければだったな。志望大学は教えるから」
冴羅は呆然とした後、大きくため息を吐いた。ただし先ほどと違い、その口角が上がっていた。
「負けたわ。結局私からも教えなければ不平等よね。放課後、宗壱の進路調査票を持ってまたここに来て。私のを見せてあげるから」
◇
放課後、約束通り進路調査票を見せあった。
「全く同じね……。こんなことあるのかというくらい。凛紗とも違ったのよ?」
「学部まで違わないなんて……。本当に今まで一度も見たことないはずなのに」
完全一致だった。
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