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第3章

3-60振替休日の過ごし方 ☆

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 一晩明け、振替休日を迎えていた。

 冴羅さんはうまくいっただろうな。
 幸恵さんのことは心配だ。
 とはいえ何もできないし勉強するか……。
 お母さんは仕事で出かけていない家で、一人仰向けに寝ながらそんなことを考えていた時だった。
 電話の着信音が鳴った。発信者が油井と確認して取った。

「はい。君島」

「油井だ。今いいかな」

「うん。幸恵さんのことはどうにもならないな~とか考えていたところだよ」
 僕は起き上がりながら答える。

「丁度その彼女のことでね。明日天文台に連れていこうと思う」

 ……。

「急」

「今でなければならなくてね」

「何か助けになれそうってこと?」

「どうだろうな。気晴らしにすらならないこともありうる」

「悪化はさせないでね。そうだ、幸恵さんの自己催眠の解き方は覚えてる?」

「何が正しくて何が間違っているか根気よくちゃんと伝える、だったな。それが?」

「僕は今が自己催眠みたいなものなんじゃないかって思ってる。周りから人がいなくなるっていう催眠に」

「なるほど。参考にさせてもらおう」

「明日は油井に託すよ。もし少しも改善しなかったら、二度と・・・、託さないからさ」

「ああ、任せておきなさい。私に、しか・・、できないことがあるだろうからな」

 通話が終わった後、改めて思えた。
 幸恵さんのことを任せても大丈夫と。

 それからその日の内に明日行くことになったと油井から連絡があった。



 よく晴れた日の昼過ぎ、幸恵さんの母が運転する車の後部座席に幸恵さんと私とで乗っていた。最初はタクシーで行こうと考えていたのだが、「お金がかかるから」と連れていってもらえることになった。

 移動中は幸恵さんの母に今回天文台を選んだ理由を話した。私が以前から天文学に興味があったこと、しかし考古学と迷っていたこと、幸恵さんに相談したことで両方目指すようになったこと、夏休みの間は手伝ってもらっていたこと、そのお礼も兼ねていること。
 十分ほどで話し終え隣に目を向けると、幸恵さんは眠っていた。

「珍しい。いつも夜しか寝ないのに」

「そうでしたか」

 私は自分の上着を彼女の膝の上に置いた。
 不意に機械音が聞こえた。

「……ワイパーが動いているようですが?」

「あっ、な、なんか触れちゃってた」
 ワイパーを止めてから、何かを思い出したような声を出した。
「そうだ。似たようなことが一回だけあったんだ」

「と言いますと?」

「幸恵が高校に入ってすぐぐらいの頃だったかな。私たちの仕事が遅かったから幸恵に天音のお迎えと夕飯の支度をお願いしていて。いつもなら私が帰った時も起きているのに、その日だけは支度の後すぐ寝たらしいんだよね」
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