上 下
179 / 204
第3章

3-55遠回り ☆

しおりを挟む
「やはり覚えていないのか」

「何を?」

「いや、それもそうか。今のは中学の時、君が新たに生徒会に任命された際の君の言葉だ。すまない、気持ち悪いよな。それに今の話からするに、本当の目的は西沖の対抗することであって言葉は適当だったのだろうな」

 何か返してあげたかったけれど、何も思い付かなかった。

「だが、私は感銘を受けた。その後に生徒のことを考えるような話をしていたが、やはり本心は自分のために行動しようとしていると思った」

「……随分と勝手ね。昔の私も」

 私の意見に彼は首を横に振った。
「だが実際、自分勝手な面なんて一つも無かった。そこにまた驚かされた。そんな時だ。君に私が生徒会長に向いていると言われたのは。嬉しかった。そんな君と生徒会の活動をすれば変われるような気がしたんだ」


 私は何も言えなくなった。それは宮国が矢継ぎ早に話していたからではなかった。

「ああ……すまない。いよいよ本当に気持ち悪いな。ただ、西沖ではなく、君のおかげで少しだけかもしれないが、変われた人がいるということを知っていてくれ」

「そ、そう……あ、雨、小降りになってきたみたいね。呼び掛けてくるわ。ありがとう。とても参考になったわ」

「あ、ああ。それなら良かった……。私も呼び掛ける」

 宮国の言葉の途中で私は生徒会室を出た。
 生徒会室から死角になる壁に背中を預けた。

 顔熱い! 赤くなっていることに気付かれたかしら!?
 思い出した。確かにそう言った。本心だった。
 そうだ。あの時の私はできる限りを尽くそうとしていた。
 でもそれは利他心でも向上心でもなくて、ただの私欲からそうしていた。
 幸恵を越えられるかどうかより先にあった私欲。

 誰かに努力を見ていてほしいという私欲だ。

 幸恵に憧れたのも、人に囲まれた存在だったからだ。正直宮国のことも羨ましく思っていた。
 もし私に利他心や向上心があるように見えたのなら、それは幸恵を真似ていたからだ。それが無ければ見向きもされないし、あるからこそ人を惹き付けるのだと今では思う。
 けれど真似しようとし過ぎて、目的が完全に挿げ変わって、挙げ句周りを困らせるなんてね。

 もう心底恥ずかしい! 中学生の頃の方がまだましなことも、けれど公の場で言ってしまっていることも、結果よりにもよって宮国に本心を見抜かれていることも、いつの間にかそれを忘れていることも、その結果本末転倒になっていることも、勝手に幸恵に負けていることも、今思っていること思い出せたこと気付けたこと全部宮国のおかげということも!

 何より!

 宮国こそが私を見ていてくれたことに気付かなかったことが!

 私は深呼吸した。そして自分に出して言い聞かせた。
「いつまでもこうしていられないわね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...