僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第3章

3-50終わって、これから

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 僕たちはまた言葉を交わさずにいた。
 横に目をやると、草壁は涙ぐんでいて、冴羅さんは力の抜けた表情で俯き、凛紗さんは椅子に深く腰掛け少し疲れたような顔になっていた。まあそうだよね、三人は特に自分のこともあって刺さるよね。
 反対側を見れば、油井はいつも通りの穏やかな様子だった。

「……良かった」

 劇の物語もさることながら、幸恵さんの演技が。それからこうして集まって見られたことも。何より、無事に終われたことが。

「……はい」「ええ。そうね」「う゛ん゛」
 各々の返事をする三人。

 そして油井は僕たちの方を向いた。
「うん。思っていた以上だったよ」
 文言こそいつも通りだった。けどその表情が、口調が、いつもとどこか違った。
 まるで、悟ったかのようだった。

「お客さん。そろそろよろしいですか?」
 後方からの声。振り返ると新城、少し離れた所には木庭がいた。

「ああ……ごめん」
 急いで立ち上がる草壁に僕たちも続いた。

「幸恵さんはどう?」

 僕が訊くと、新城は苦々しく顔をしかめた。
「……放心状態って感じかな」
「反応が明らかに鈍い」

「そう……。昨日今日は少し気になる程度だったのだけれど」

「え? そうなんだ。全然分かんなかった」

 草壁……。

「まあ、こういう人もいるし。気長に様子を見るしかないかな」

「確かに! 事情を知らなければ鈍いだけで気にならないかもしれないですね!」

「凛紗。それだけで済まないことはあなたもよく知っているでしょう?」

「あっ、そ、そうですね!」

 諌めようとしているのは分かるけど声低くて怖いよ。
 あれ……。
 冴羅さんが怖い?

「つまりこういう人は美頼以外にそうそういないということか」

「いやっ! 心配していないわけじゃないからね!」

「え~……。とりあえず、みんなの協力が不可欠です」
 取り敢えず僕はそう言うしかなかった。

「とにかく俺たちはいつも通りでいろってことか」

「何も考えていないみたいだが、それしかないな」

「あっ! もう戻らないと!」 
「凛紗。最後まで楽しんでね」
「はい! 冴羅ちゃんも生徒会の仕事頑張ってください!」
 三人が教室から出ていく。

 僕も同じく出ていこうとした。

「……いつも通り、か」
 そんな声が後ろから聞こえた。

「君島!」
「はいリーダー!」
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