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第3章
3-49怪演 ☆
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話している間に教室は満員になっていた。最後だからなのか、噂が広まったからなのか。
いずれにしても、幸恵さんは大勢のために演技をする。
上演が開始された。
物語は幸恵さんが演じる姫が七歳の時から。無理がある身長を影で表現するとは。
声は幸恵さんのものだけど、天音ちゃんや晴果ちゃんを参考にしつつ別の要素も入っている感じもあった。練習風景の撮影の時も思ったけど、その人が誰かと訊かれればその姫だと言う外ない。
そしてついに、姉の内の一人が奉られた神社を参拝するという場面。神輿に乗った幸恵さんが登場した。
おお……。
思わず息を飲んだ。僕だけでなく、その場にいた多くの人が。
何より和装がよく似合う。元からの柔和な顔立ちと長い黒髪と合わさってもう姫としか見えない。
そんな姫が物憂げさと嬉しさを持ち併せた表情で出てきて、夫に
「行こうか」
と声をかけられると、
「ありがとうございます。皆さんもご無理はなさらないでくださいね」
と神輿を担ぐ人たちまで気遣うわけだ。
この姫を見た男が執心し自分のものにしようとするけどその気持ちも分かる。いややっぱり分からない。何かもう神秘的で触れがたさすらあって……。
自身を巡る戦、夫や周囲の人たちとの死別。激動の運命に遭うとき、姫君は静かに悲しむ。
だけど、出来る限りを尽くすために進み、国司となる。たとえ自らが原因で不幸がもたらされ、この先また同じようなことが起こる可能性があるとしても。
台詞が撮影の時の「子犬が生まれた」から「水切りの新記録が出た」というさらにどうでもいいものに変わっていた。アドリブなのかな?
そして場面は、育ての親たる大夫夫妻と、戦により姿が見えなくなった夫が夢枕に立った後へ移る。
「沼に身を投げ、夫の所に行こうと思います」
「姫。ご一緒します」
「また多くの皆さんをお守りしましょう」
大夫の娘二人が後に続いた。
「そうですね。以前、私は民に深く関わりたいと話しましたね。それは、今思えば家族のような関係になりたかったからかもしれません。何度も家族と別れましたが、その数だけ家族に救われました。同じように皆さんと、辛さを分かち合い、幸せを分け合えるようになりたかったのかもしれません」
笑顔を見せた姫は振り返る。
白い幕が下り、三人の影が下へ向かう。
一瞬の水音。
それから白い幕に県内各地の神社が写し出され、これまでの登場人物が奉られていることが解説された。
白い幕が上がり、出演者が挨拶とともに頭を下げ、無事公演終了となった。
最後に顔を上げた幸恵さんは、遠くを見ているようだった。
いずれにしても、幸恵さんは大勢のために演技をする。
上演が開始された。
物語は幸恵さんが演じる姫が七歳の時から。無理がある身長を影で表現するとは。
声は幸恵さんのものだけど、天音ちゃんや晴果ちゃんを参考にしつつ別の要素も入っている感じもあった。練習風景の撮影の時も思ったけど、その人が誰かと訊かれればその姫だと言う外ない。
そしてついに、姉の内の一人が奉られた神社を参拝するという場面。神輿に乗った幸恵さんが登場した。
おお……。
思わず息を飲んだ。僕だけでなく、その場にいた多くの人が。
何より和装がよく似合う。元からの柔和な顔立ちと長い黒髪と合わさってもう姫としか見えない。
そんな姫が物憂げさと嬉しさを持ち併せた表情で出てきて、夫に
「行こうか」
と声をかけられると、
「ありがとうございます。皆さんもご無理はなさらないでくださいね」
と神輿を担ぐ人たちまで気遣うわけだ。
この姫を見た男が執心し自分のものにしようとするけどその気持ちも分かる。いややっぱり分からない。何かもう神秘的で触れがたさすらあって……。
自身を巡る戦、夫や周囲の人たちとの死別。激動の運命に遭うとき、姫君は静かに悲しむ。
だけど、出来る限りを尽くすために進み、国司となる。たとえ自らが原因で不幸がもたらされ、この先また同じようなことが起こる可能性があるとしても。
台詞が撮影の時の「子犬が生まれた」から「水切りの新記録が出た」というさらにどうでもいいものに変わっていた。アドリブなのかな?
そして場面は、育ての親たる大夫夫妻と、戦により姿が見えなくなった夫が夢枕に立った後へ移る。
「沼に身を投げ、夫の所に行こうと思います」
「姫。ご一緒します」
「また多くの皆さんをお守りしましょう」
大夫の娘二人が後に続いた。
「そうですね。以前、私は民に深く関わりたいと話しましたね。それは、今思えば家族のような関係になりたかったからかもしれません。何度も家族と別れましたが、その数だけ家族に救われました。同じように皆さんと、辛さを分かち合い、幸せを分け合えるようになりたかったのかもしれません」
笑顔を見せた姫は振り返る。
白い幕が下り、三人の影が下へ向かう。
一瞬の水音。
それから白い幕に県内各地の神社が写し出され、これまでの登場人物が奉られていることが解説された。
白い幕が上がり、出演者が挨拶とともに頭を下げ、無事公演終了となった。
最後に顔を上げた幸恵さんは、遠くを見ているようだった。
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