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第3章

3-48開演 ☆

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「いらっしゃい。幸恵さん。と、ごきょうだいの皆さん」

 私がお客対応しているところに来たのは西沖家五きょうだい全員。

「お久し」「んにち」「し振り~!」「こんにちは」

 全く揃っていない挨拶を一遍にする。みんなは相変わらずのようだ。

「ごめんね。大勢で押し掛けて」

「構わない。こちらこそ狭くて申し訳ない」

「すご。ほんとにおっきいじゃん」「ここまでとは驚きました」「良いよ。木製」

 それぞれに反応を見せてくれた。だが、天音ちゃんは盤を見詰めるだけで特に何も言わなかった。今一つだったか、それとも見ることに集中しているのか……。

「天音」
 すると幸恵さんが天音ちゃんの両脇に手を通した。
「よいしょっ」
 そして上へと持ち上げた。そうか、天音ちゃんの身長では全貌が見えていなかったのか。

「見える?」

「うん。ひろい!」

 初めて聴く感想だった。

「おっ……と」
 よろめく幸恵さん。

 その肩を支えた。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

「大きくなったね、天音」
 下ろしながら、幸恵さんは褒めるように言った。

 善き姉だ。
 もし求められていることを察して唱えていようと、関係無い。

「さて、どなたから?」
 私は空いている台を示して訊いた。

「あ~……。こういうのはまず長女からお手本を見せてよ」

「えっ? いいの?」

 頷く四人。目を輝かせながら幸恵さんが振り返った後で、和寿くんは安堵し、晴果ちゃんは愛でるように笑うのだった。

 善ききょうだいだ。
 こうしてお互いに喜べれば、それだけで充分だ。

「油井さん」
 晴果ちゃんに神妙な面持ちで声をかけられた。

「最近、家でぼーっとしていることが多くて。私たちだけじゃどうにもならなさそうです」
 和朗くんも同じ顔をしていた。

「油井さん、力を貸してください」
 二人は頭を下げた。

「もちろん。最初からそのつもりだよ」



 二年二組の教室には舞台が設置されていた。
 その舞台に向かって左から油井、僕、草壁、冴羅さん、凛紗さんの順で座っていた。みんなが、この幸恵さんの出る最終公演を観ることを譲らなかったことでこうして集まることとなった。

「………………」

 この教室に入って以降、周りが騒がしくても僕たちは誰も言葉を交わしていなかった。

「……うちら、緊張しすぎじゃない?」

「そうですよね。演じる方まで緊張させてしまいますよね」

「それはそうなのだけれど……。こんなのどうしても緊張してしまうわよ」

「そうか、みんな緊張していたのか。私はもう言葉も無いのであとはただ待つのみというところだった」

「油井くんはさすが肝が座ってるね……」

 笑う草壁と深町姉妹。僕も安堵して息をついた。
「まずは楽しんで観なきゃね。幸恵さん上手なんて表現じゃ足りないぐらいだから」

「はい」「そうね」「確かに」
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