僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

文字の大きさ
上 下
172 / 281
第3章

3-48開演 ☆

しおりを挟む
「いらっしゃい。幸恵さん。と、ごきょうだいの皆さん」

 私がお客対応しているところに来たのは西沖家五きょうだい全員。

「お久し」「んにち」「し振り~!」「こんにちは」

 全く揃っていない挨拶を一遍にする。みんなは相変わらずのようだ。

「ごめんね。大勢で押し掛けて」

「構わない。こちらこそ狭くて申し訳ない」

「すご。ほんとにおっきいじゃん」「ここまでとは驚きました」「良いよ。木製」

 それぞれに反応を見せてくれた。だが、天音ちゃんは盤を見詰めるだけで特に何も言わなかった。今一つだったか、それとも見ることに集中しているのか……。

「天音」
 すると幸恵さんが天音ちゃんの両脇に手を通した。
「よいしょっ」
 そして上へと持ち上げた。そうか、天音ちゃんの身長では全貌が見えていなかったのか。

「見える?」

「うん。ひろい!」

 初めて聴く感想だった。

「おっ……と」
 よろめく幸恵さん。

 その肩を支えた。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

「大きくなったね、天音」
 下ろしながら、幸恵さんは褒めるように言った。

 善き姉だ。
 もし求められていることを察して唱えていようと、関係無い。

「さて、どなたから?」
 私は空いている台を示して訊いた。

「あ~……。こういうのはまず長女からお手本を見せてよ」

「えっ? いいの?」

 頷く四人。目を輝かせながら幸恵さんが振り返った後で、和寿くんは安堵し、晴果ちゃんは愛でるように笑うのだった。

 善ききょうだいだ。
 こうしてお互いに喜べれば、それだけで充分だ。

「油井さん」
 晴果ちゃんに神妙な面持ちで声をかけられた。

「最近、家でぼーっとしていることが多くて。私たちだけじゃどうにもならなさそうです」
 和朗くんも同じ顔をしていた。

「油井さん、力を貸してください」
 二人は頭を下げた。

「もちろん。最初からそのつもりだよ」



 二年二組の教室には舞台が設置されていた。
 その舞台に向かって左から油井、僕、草壁、冴羅さん、凛紗さんの順で座っていた。みんなが、この幸恵さんの出る最終公演を観ることを譲らなかったことでこうして集まることとなった。

「………………」

 この教室に入って以降、周りが騒がしくても僕たちは誰も言葉を交わしていなかった。

「……うちら、緊張しすぎじゃない?」

「そうですよね。演じる方まで緊張させてしまいますよね」

「それはそうなのだけれど……。こんなのどうしても緊張してしまうわよ」

「そうか、みんな緊張していたのか。私はもう言葉も無いのであとはただ待つのみというところだった」

「油井くんはさすが肝が座ってるね……」

 笑う草壁と深町姉妹。僕も安堵して息をついた。
「まずは楽しんで観なきゃね。幸恵さん上手なんて表現じゃ足りないぐらいだから」

「はい」「そうね」「確かに」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

幼馴染が昼食の誘いを断るので俺も一緒に登校するのを断ろうと思います

陸沢宝史
恋愛
高校生の風登は幼馴染の友之との登校を断り一人で歩きだしてしまう。友之はそれを必死に追いかけるのだが。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...