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第3章
3-39多忙な二人 ☆
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時間にして十分ほど。僕は新城の前に立って、ちょうど品が切れて焼き上がりを待つことなった。草壁は少し前に購入を終えている。
「……ごめん」
焼ける音がやけに大きく聞こえた。
「なんで結局お前なんだよ……」
肩を落とす新城。何も言わず作業を続ける木庭。
「詳しくは聞いてないけど、多分二人が譲り合ったからでは」
「それを言うなよ~」
僕はまだ焼き上がらないことを確かめて口を開いた。
「……それなら、草壁と一緒に回りなよ。正直時間はあるんじゃないの? 僕はそうしてほしいし、草壁もそれを望んでいると思う」
「……さっき、様子を訊いたが」
遂に木庭が声を出してくれた。
「楽しいと言いつつ、煮え切らない顔をしていた」
「うん」
「君島に任せておけないな」
「うん。そうなんだ。頼むよ」
木庭は口の端を僅かに上げ、小さく頷いた。
「劇の演者は忙しくはあるけど? まあ全く時間が無いわけじゃないしな」
新城は木庭に向かって言った。
「思った通りだ」
木庭に言い返された新城からたこ焼きを受け取った。
「ありがとう」
「こちらこそ」
◇
僕と草壁は二年一組で購入品を食べた。
こんなふうに屋台で買ってくると想定して、持ち込みだけでなく注文するかどうかも自由にしている。
それは外の状況がここの状況に直結するということであり、昼前にもかかわらず想定より混んでいた。
「よし! 君島、先に入るね! ここまでありがと!」
「え?」
まだ担当が変わる時間までいくらかあるけど、草壁は仕事しに向かうようだった。確かにここには長居できないし、僕としてはもう充分見て回ったからこのままだと草壁をただ退屈させるだだろうし、僕が今入っても仕方ないと思った。
「ああ、うん。また後で」
草壁は手を振って席を離れた。
僕も席を立った。次は……後輩の教室でも行こうかな。
そう思いながら歩いていると、後ろから駆け寄る音がした。
「君島!」
「草壁?」
「ごめん! 今の無神経だったよね!?」
「気にしてないよ?」
「でも休んでていいのかなとか思ったでしょ?」
「それは……うん」
「じゃあ!……いやでも自由時間だし一人で行きたいところもあっただろうし……」
「いやいや! 僕は充分楽しんだよ。でも僕がいても足手まといでしょ」
「そんなことない! 君島は頑張ってるから助かってるよ! あの服似合ってないけど」
「……ありがとう。なら、今人手が必要か訊ける? 多い方が良いって言うなら僕も入るから」
「うん!」
僕は早歩きで去る草壁を見送った。
なんだか穏やかな気分だ。
本当に変わったな、草壁。
草壁は自分が素直でいることに馴れただろうか。いつか向き合わなければならないことに向き合えそうになったのだろうか。
「君島~! 多い方が良いって!」
「分かった。すぐ行く」
「……ごめん」
焼ける音がやけに大きく聞こえた。
「なんで結局お前なんだよ……」
肩を落とす新城。何も言わず作業を続ける木庭。
「詳しくは聞いてないけど、多分二人が譲り合ったからでは」
「それを言うなよ~」
僕はまだ焼き上がらないことを確かめて口を開いた。
「……それなら、草壁と一緒に回りなよ。正直時間はあるんじゃないの? 僕はそうしてほしいし、草壁もそれを望んでいると思う」
「……さっき、様子を訊いたが」
遂に木庭が声を出してくれた。
「楽しいと言いつつ、煮え切らない顔をしていた」
「うん」
「君島に任せておけないな」
「うん。そうなんだ。頼むよ」
木庭は口の端を僅かに上げ、小さく頷いた。
「劇の演者は忙しくはあるけど? まあ全く時間が無いわけじゃないしな」
新城は木庭に向かって言った。
「思った通りだ」
木庭に言い返された新城からたこ焼きを受け取った。
「ありがとう」
「こちらこそ」
◇
僕と草壁は二年一組で購入品を食べた。
こんなふうに屋台で買ってくると想定して、持ち込みだけでなく注文するかどうかも自由にしている。
それは外の状況がここの状況に直結するということであり、昼前にもかかわらず想定より混んでいた。
「よし! 君島、先に入るね! ここまでありがと!」
「え?」
まだ担当が変わる時間までいくらかあるけど、草壁は仕事しに向かうようだった。確かにここには長居できないし、僕としてはもう充分見て回ったからこのままだと草壁をただ退屈させるだだろうし、僕が今入っても仕方ないと思った。
「ああ、うん。また後で」
草壁は手を振って席を離れた。
僕も席を立った。次は……後輩の教室でも行こうかな。
そう思いながら歩いていると、後ろから駆け寄る音がした。
「君島!」
「草壁?」
「ごめん! 今の無神経だったよね!?」
「気にしてないよ?」
「でも休んでていいのかなとか思ったでしょ?」
「それは……うん」
「じゃあ!……いやでも自由時間だし一人で行きたいところもあっただろうし……」
「いやいや! 僕は充分楽しんだよ。でも僕がいても足手まといでしょ」
「そんなことない! 君島は頑張ってるから助かってるよ! あの服似合ってないけど」
「……ありがとう。なら、今人手が必要か訊ける? 多い方が良いって言うなら僕も入るから」
「うん!」
僕は早歩きで去る草壁を見送った。
なんだか穏やかな気分だ。
本当に変わったな、草壁。
草壁は自分が素直でいることに馴れただろうか。いつか向き合わなければならないことに向き合えそうになったのだろうか。
「君島~! 多い方が良いって!」
「分かった。すぐ行く」
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