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第3章
3-34「渋山祭 コンセプトムービー」 ☆
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次の日、コンセプトムービーの続きの配信のため校舎の外で準備を行なっていた。
冴羅さんが挙げた案の構成段階で、実際の文化祭の様子も映すことが必要になり、そこから録画・編集した映像の後に中継の映像を繋げるということになった。
これまで前夜祭自体の配信はしていたけど、今回はただ設置して撮影するだけでは済まないし、そもそも上手く映像を切り替えなければならない。
映像部にも緊張が走っているのだから、文化祭実行委員会の面々はなおさらだった。今週はずっとこの撮影の練習をしていたけど、それでも落ち着かない様子だ。
ただ一人を除いて。
「へぇ。業務用ってこんな感じか。これ俺でも買えるの?」
別府がほっつき歩いていた。曰く「緊張すると逆効果だからな」とのことなので勝手にしてください。
「もう文化祭が始まるんだね」
後ろに来ていた幸恵さんが言った。
「そう……なんだけど、なんか終わりみたいな言い方だね」
「映像部はこれで終わりだから」
「いや――」
幸恵さんはまだ劇に出なくちゃでしょ、とか言うつもりで振り返った。
言えなかった。
これまでに無くもの悲しそうなその表情を見せられては。
僕が言おうとしていたものもいずれ終わる。
楽しみにしていた日。嬉しかった時。それが終わる度に悲しかったんだ。中学校卒業の時はただの感傷じゃなかったことにも納得した。
僕は思わず目を背けた。
その先には玄関があった。今は案内などが取り付けられていて文化祭仕様だ。でも僕はそこで幸恵さんと話したことを思い出す。
――大きい目標とかがある人とか、前向きな人――
それは、そんな人ならずっと側にいられるから?
――何事も丁度良くないと、何かを壊しちゃう――
自分の過去を受けてそう言っていたの?
――でも、その丁度いいところが高いところにあってほしいって思っちゃう――
それでも本当は自分の全てを受け止めてほしいって思っているんだよね?
また僕は黙って固まっていたから、幸恵さんにあの時みたいに顔を近付けられていた。
「大丈夫?」
それは僕から訊くべきだろうに。
「幸恵さん。これどうすれば良いですか?」
「あ、それは~」
幸恵さんが呼び掛けた人の下へ駆け寄り、僕は自然と大きく息を吐き出していた。
遠くから見れば、言動に抜けているところはあるけど、芯が強くて頼りになって長女として家族を想う、非の打ち所が無い女性だ。
寂しがり屋だなんて、誰も思わない。
でも、もし僕の憶測が合っているのなら。
油井と過ごした夏休みは幸恵さんにとってどれだけ救いになったのだろう。
冴羅さんが挙げた案の構成段階で、実際の文化祭の様子も映すことが必要になり、そこから録画・編集した映像の後に中継の映像を繋げるということになった。
これまで前夜祭自体の配信はしていたけど、今回はただ設置して撮影するだけでは済まないし、そもそも上手く映像を切り替えなければならない。
映像部にも緊張が走っているのだから、文化祭実行委員会の面々はなおさらだった。今週はずっとこの撮影の練習をしていたけど、それでも落ち着かない様子だ。
ただ一人を除いて。
「へぇ。業務用ってこんな感じか。これ俺でも買えるの?」
別府がほっつき歩いていた。曰く「緊張すると逆効果だからな」とのことなので勝手にしてください。
「もう文化祭が始まるんだね」
後ろに来ていた幸恵さんが言った。
「そう……なんだけど、なんか終わりみたいな言い方だね」
「映像部はこれで終わりだから」
「いや――」
幸恵さんはまだ劇に出なくちゃでしょ、とか言うつもりで振り返った。
言えなかった。
これまでに無くもの悲しそうなその表情を見せられては。
僕が言おうとしていたものもいずれ終わる。
楽しみにしていた日。嬉しかった時。それが終わる度に悲しかったんだ。中学校卒業の時はただの感傷じゃなかったことにも納得した。
僕は思わず目を背けた。
その先には玄関があった。今は案内などが取り付けられていて文化祭仕様だ。でも僕はそこで幸恵さんと話したことを思い出す。
――大きい目標とかがある人とか、前向きな人――
それは、そんな人ならずっと側にいられるから?
――何事も丁度良くないと、何かを壊しちゃう――
自分の過去を受けてそう言っていたの?
――でも、その丁度いいところが高いところにあってほしいって思っちゃう――
それでも本当は自分の全てを受け止めてほしいって思っているんだよね?
また僕は黙って固まっていたから、幸恵さんにあの時みたいに顔を近付けられていた。
「大丈夫?」
それは僕から訊くべきだろうに。
「幸恵さん。これどうすれば良いですか?」
「あ、それは~」
幸恵さんが呼び掛けた人の下へ駆け寄り、僕は自然と大きく息を吐き出していた。
遠くから見れば、言動に抜けているところはあるけど、芯が強くて頼りになって長女として家族を想う、非の打ち所が無い女性だ。
寂しがり屋だなんて、誰も思わない。
でも、もし僕の憶測が合っているのなら。
油井と過ごした夏休みは幸恵さんにとってどれだけ救いになったのだろう。
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