157 / 281
第3章
3-33思わぬ三人の似たところ
しおりを挟む
僕の言葉に対して、なぜか卯月さんは含み笑いを見せた。
「な、なんですか」
「いや~映像部の真面目な取り組み方もそうだけどソナくんらしいな~って。これがまたお母さんにもそっくりだし」
「そう……ですか?」
「そうだよ~。他人のためになることを目立たないように行動するところ。ソナくんは小さい時から私が何か落としそうになった時、黙って位置を戻していたりしてたもん」
「――『シロはそそっかしいからいっつもなんか落としたり無くしたり壊したりして気が気じゃないよ』……なんて」
卯月さんは目を丸くして固まった。
「すご……今本当に“ノゾ”に言われているような気になっちゃった」
卯月茉“白”だから“シロ”、お母さんの名前は“望”だから“ノゾ”だそう。お母さんからは恥ずかしがりながらも大切な呼び方と聞かされていた。
卯月さんが機嫌良さそうに仕事に戻っていくのを見送ってから、僕は改めて考える。いきなりお母さんの真似事をしたのは思い出したのもあるけど、卯月さんに言われたことに内心驚いていたから。
それは本当に、僕が今していることそのものだったから。
そしてそれは、幸恵さんに重なるところがあるような気がしたから。
我ながら幸恵さんに負けないぐらいの無茶をしていると思う。でもそれは草壁と幸恵さんに幸せになってほしいからだ。僕のことは忘れて笑顔で前に進んでほしい。
他人にできる限りのことを尽くす幸恵さんは遠く及ばない存在のように思っていたけど、どうやらそんなこともないように思えた。目的や手段や程度が違うだけなんだ。
この先、僕の末路も過去の幸恵さんと似るのだろうか。僕は二人が幸せになったら何を感じるのだろう。安心なのか、それとも一種の喪失感なのか。
お母さんは僕が一人でこの店に来るようになってから、何度か卯月さんのことを訊かれた。自分で行けばいいのにと思いつつ話すと、お母さんは懐かしむように笑っていた。
会計の際、僕は卯月さんに訊いた。
「卯月さんが結婚した時、お母さんはなんて言っていましたか?」
「『あ~良かった。これでやっと離れられる』って言ってた。望らしいよね」
卯月さんは懐かしむように笑った。
「な、なんですか」
「いや~映像部の真面目な取り組み方もそうだけどソナくんらしいな~って。これがまたお母さんにもそっくりだし」
「そう……ですか?」
「そうだよ~。他人のためになることを目立たないように行動するところ。ソナくんは小さい時から私が何か落としそうになった時、黙って位置を戻していたりしてたもん」
「――『シロはそそっかしいからいっつもなんか落としたり無くしたり壊したりして気が気じゃないよ』……なんて」
卯月さんは目を丸くして固まった。
「すご……今本当に“ノゾ”に言われているような気になっちゃった」
卯月茉“白”だから“シロ”、お母さんの名前は“望”だから“ノゾ”だそう。お母さんからは恥ずかしがりながらも大切な呼び方と聞かされていた。
卯月さんが機嫌良さそうに仕事に戻っていくのを見送ってから、僕は改めて考える。いきなりお母さんの真似事をしたのは思い出したのもあるけど、卯月さんに言われたことに内心驚いていたから。
それは本当に、僕が今していることそのものだったから。
そしてそれは、幸恵さんに重なるところがあるような気がしたから。
我ながら幸恵さんに負けないぐらいの無茶をしていると思う。でもそれは草壁と幸恵さんに幸せになってほしいからだ。僕のことは忘れて笑顔で前に進んでほしい。
他人にできる限りのことを尽くす幸恵さんは遠く及ばない存在のように思っていたけど、どうやらそんなこともないように思えた。目的や手段や程度が違うだけなんだ。
この先、僕の末路も過去の幸恵さんと似るのだろうか。僕は二人が幸せになったら何を感じるのだろう。安心なのか、それとも一種の喪失感なのか。
お母さんは僕が一人でこの店に来るようになってから、何度か卯月さんのことを訊かれた。自分で行けばいいのにと思いつつ話すと、お母さんは懐かしむように笑っていた。
会計の際、僕は卯月さんに訊いた。
「卯月さんが結婚した時、お母さんはなんて言っていましたか?」
「『あ~良かった。これでやっと離れられる』って言ってた。望らしいよね」
卯月さんは懐かしむように笑った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


乗り換え ~結婚したい明子の打算~
G3M
恋愛
吉田明子は職場の後輩の四谷正敏に自分のアパートへの荷物運びを頼む。アパートの部屋で二人は肉体関係を持つ。その後、残業のたびに明子は正敏を情事に誘うようになる。ある日、明子は正敏に結婚してほしいと頼みむのだが断られてしまう。それから明子がとった解決策 は……。
<登場人物>
四谷正敏・・・・主人公、工場勤務の会社員
吉田明子・・・・正敏の職場の先輩
山本達也・・・・明子の同期
松本・・・・・・正敏と明子の上司、課長
山川・・・・・・正敏と明子の上司

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる