僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第3章

3-33思わぬ三人の似たところ

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 僕の言葉に対して、なぜか卯月さんは含み笑いを見せた。

「な、なんですか」

「いや~映像部の真面目な取り組み方もそうだけどソナくんらしいな~って。これがまたお母さんにもそっくりだし」

「そう……ですか?」

「そうだよ~。他人のためになることを目立たないように行動するところ。ソナくんは小さい時から私が何か落としそうになった時、黙って位置を戻していたりしてたもん」

「――『シロはそそっかしいからいっつもなんか落としたり無くしたり壊したりして気が気じゃないよ』……なんて」

 卯月さんは目を丸くして固まった。
「すご……今本当に“ノゾ”に言われているような気になっちゃった」

 卯月茉“しろ”だから“シロ”、お母さんの名前は“のぞみ”だから“ノゾ”だそう。お母さんからは恥ずかしがりながらも大切な呼び方と聞かされていた。

 卯月さんが機嫌良さそうに仕事に戻っていくのを見送ってから、僕は改めて考える。いきなりお母さんの真似事をしたのは思い出したのもあるけど、卯月さんに言われたことに内心驚いていたから。
 それは本当に、僕が今していることそのものだったから。
 そしてそれは、幸恵さんに重なるところがあるような気がしたから。
 我ながら幸恵さんに負けないぐらいの無茶をしていると思う。でもそれは草壁と幸恵さんに幸せになってほしいからだ。僕のことは忘れて笑顔で前に進んでほしい。
 他人にできる限りのことを尽くす幸恵さんは遠く及ばない存在のように思っていたけど、どうやらそんなこともないように思えた。目的や手段や程度が違うだけなんだ。

 この先、僕の末路も過去の幸恵さんと似るのだろうか。僕は二人が幸せになったら何を感じるのだろう。安心なのか、それとも一種の喪失感なのか。
 お母さんは僕が一人でこの店に来るようになってから、何度か卯月さんのことを訊かれた。自分で行けばいいのにと思いつつ話すと、お母さんは懐かしむように笑っていた。

 会計の際、僕は卯月さんに訊いた。
「卯月さんが結婚した時、お母さんはなんて言っていましたか?」

「『あ~良かった。これでやっと離れられる』って言ってた。望らしいよね」
 卯月さんは懐かしむように笑った。
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