154 / 216
第3章
3-30「二年二組『姫君の一生』 裏方から一部演目まで公開!」2
しおりを挟む
木庭を含めて裏方の撮影は無事終わった。
「あ、みんな。ようこそ~」
幸恵さんから和やかに出迎えられた。
机や椅子が端に寄せられた教室では今も演技の打ち合わせをしているようで、幸恵さんや新城が台本を片手にしていた。
「映像部も来たんで始めようか」
新城の声で準備が始まった。発案者且つ準主役だけあってすっかり周りを引っ張る立場だ。
新城と幸恵さんは共演しない別の班に分けられていた。まずは新城たちの班の練習を撮影する。
◇
「ありがとう」
包帯を巻かれた新城が主役の姫君に声をかけた。
「また……向かいますよね」
「……ああ」
物語はここ渋山市を中心に、この県全体を舞台にした姫君の伝説を元にしている。
母との死別を契機に当時の慣習から迎え入れた継母迎え入れたものの、彼女の嫉みにより姉たちや父との別れという目に遭う姫。
その後匿い育てた大夫(たいふ)一家や優しい夫、その夫との間に産まれた娘に恵まれる。しかし、その姫君の美しさに心奪われた男によって、またも兄弟も同然の大夫の息子たち、そして夫が失なわれてしまう。今演じているのはこの夫が最期の戦(いくさ)に挑む前の場面だ。
大夫の働きによって姫は国司となって政(まつりごと)を取り仕切り、人々に慕われる存在になる。
時が経ち、大夫夫妻が亡くなる。夢枕に立った大夫夫妻と夫の話を聴き、その姫は湖に身を投げ、大明神として顕れる。そして今現在も多くの人たちに親しまれている。
……この話、幸恵さんにとてつもない影響与えて当然じゃないですか……。他人に多くを奪われても尚、他人のために生きる。見た目にも周りにも恵まれるところは端から見れば幸せな、ともすれば妬ましいことだけど、もしかするとこの姫自身は幸恵さんと同じように、それよりも他人の幸せこそが自分の幸せだったのかもしれない。
撮影は続く。その夫がなだめるように妻に話していた。
「気恥ずかしくて伝えていなかったんだがな。これは私がしたくてしていることだ。お前に私の側からいなくなられる方が堪らないからこうするんだ」
優しく、ゆったりと、僅かに不器用さも垣間見えるような話し方だった。
新城良い演技するな……。いつもの馬鹿やっているところを知っていても格好良いって思えたよ。そうだこの人格好良い人だったね。
「あ、みんな。ようこそ~」
幸恵さんから和やかに出迎えられた。
机や椅子が端に寄せられた教室では今も演技の打ち合わせをしているようで、幸恵さんや新城が台本を片手にしていた。
「映像部も来たんで始めようか」
新城の声で準備が始まった。発案者且つ準主役だけあってすっかり周りを引っ張る立場だ。
新城と幸恵さんは共演しない別の班に分けられていた。まずは新城たちの班の練習を撮影する。
◇
「ありがとう」
包帯を巻かれた新城が主役の姫君に声をかけた。
「また……向かいますよね」
「……ああ」
物語はここ渋山市を中心に、この県全体を舞台にした姫君の伝説を元にしている。
母との死別を契機に当時の慣習から迎え入れた継母迎え入れたものの、彼女の嫉みにより姉たちや父との別れという目に遭う姫。
その後匿い育てた大夫(たいふ)一家や優しい夫、その夫との間に産まれた娘に恵まれる。しかし、その姫君の美しさに心奪われた男によって、またも兄弟も同然の大夫の息子たち、そして夫が失なわれてしまう。今演じているのはこの夫が最期の戦(いくさ)に挑む前の場面だ。
大夫の働きによって姫は国司となって政(まつりごと)を取り仕切り、人々に慕われる存在になる。
時が経ち、大夫夫妻が亡くなる。夢枕に立った大夫夫妻と夫の話を聴き、その姫は湖に身を投げ、大明神として顕れる。そして今現在も多くの人たちに親しまれている。
……この話、幸恵さんにとてつもない影響与えて当然じゃないですか……。他人に多くを奪われても尚、他人のために生きる。見た目にも周りにも恵まれるところは端から見れば幸せな、ともすれば妬ましいことだけど、もしかするとこの姫自身は幸恵さんと同じように、それよりも他人の幸せこそが自分の幸せだったのかもしれない。
撮影は続く。その夫がなだめるように妻に話していた。
「気恥ずかしくて伝えていなかったんだがな。これは私がしたくてしていることだ。お前に私の側からいなくなられる方が堪らないからこうするんだ」
優しく、ゆったりと、僅かに不器用さも垣間見えるような話し方だった。
新城良い演技するな……。いつもの馬鹿やっているところを知っていても格好良いって思えたよ。そうだこの人格好良い人だったね。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる