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第3章
3-23悩みと望み ☆
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「そうだったんだ……。それで今は、また同じことになるんじゃないかって悩んでいるかもしれない、と」
「そうだとしても、幸恵は自分から降りないでしょうね。もはや降りられないと言ってもいいわ」
冴羅さんが少し視線を外して続ける。
「“自分”という感覚が、彼女には希薄だから。何より他人のためなることを望んでいるから」
体育祭の時のこと。
油井の夢を聴いた時のこと。
そこから僕が推測していたのは、もし自分を活かせるなら、省みることなく活かそうという幸恵さんの思考だった。
考えすぎじゃなかったってことか。
「僕も、思い当たる節があるよ」
「……そう。簡単には変わらないものよね。私も夏休みの終わりごろに会ったあの時、嬉しいと言われたわ。おそらく、頼られたことにね」
冴羅さんは痛め付けられるような顔を見せた。
「……幸恵さんに参加を辞退してもらいませんか? もし僕たちが話せば――」
「幸恵は……」
目を伏せ、呟く。
「その方が幸せなのかしら」
僕は自分の拍動が強くなるのを感じた。
「それとも、悩んでいたとしても幸せなら参加することが望ましいのかしら」
いつか幸恵さんが自分で言っていたこと。
――本人と話すしかないんじゃないかな。その上で悪い結果に繋がるって思えたら、その行動を取らない方が良いと思うな――
最近の幸恵さんは楽しんでいる。今までに無いくらいに。本当はそう見えるように装っているだけかもしれなくても、僕は表情からも会話からもそう感じていた。
それが悪い結果に繋がるなんて思いたくなかった。そんな結果にしたら駄目なんだ。
「ありがとう」
冴羅さんは顔を上げた。
「ごめん、惑わすようなことを言って。でもおかげで気付けたよ。文化祭をみんなで無事に楽しんで、終わった後でも幸恵さんの側にいる。たったそれだけのことだよね」
「……ええ、そうね。その通りね」
冴羅さんは微笑んだ。
僕はそれに安心した。微笑んだこと自体というより、その行動も表情も僕の知っている冴羅さんのものだったことに。
「私も、君島にこのことを話せて良かった。文化祭の上でさらに劇なんていうあまりに非日常な点が不安要素だけれど、あの時より理解してくれそうな人が多いのは救いね。今の話を伝えようと思うけれど、油井くんや卯月さん、あと誰がいいかしら」
「同じ組の新城と木庭にもお願いしていいかな? 二人も幸恵さんのことを見ていてくれているから」
「ええ、分かったわ。それから美頼にも」
「うん。必要なら手伝うよ?」
「ありがとう。でも大丈夫。私から話させてほしいの」
気付けば、蓋をするような雲の隙間から月明かりが覗くのが見えた。
◇
冴羅さんが案じていた、幸恵さんの幸せ。
それは僕が幸恵さんに油井を近付けた理由だった。
近付いた今、僕としてはその油井といることで感じてほしいと思っているものだ。当の本人は気付いているのかいないのか分からないけど。
――でももし幸恵さんに油井を近付けず、僕が支えられていれば、今この時何の憂いもなく享受できていた。
そんな可能性を考えずにはいられないものだった。
「そうだとしても、幸恵は自分から降りないでしょうね。もはや降りられないと言ってもいいわ」
冴羅さんが少し視線を外して続ける。
「“自分”という感覚が、彼女には希薄だから。何より他人のためなることを望んでいるから」
体育祭の時のこと。
油井の夢を聴いた時のこと。
そこから僕が推測していたのは、もし自分を活かせるなら、省みることなく活かそうという幸恵さんの思考だった。
考えすぎじゃなかったってことか。
「僕も、思い当たる節があるよ」
「……そう。簡単には変わらないものよね。私も夏休みの終わりごろに会ったあの時、嬉しいと言われたわ。おそらく、頼られたことにね」
冴羅さんは痛め付けられるような顔を見せた。
「……幸恵さんに参加を辞退してもらいませんか? もし僕たちが話せば――」
「幸恵は……」
目を伏せ、呟く。
「その方が幸せなのかしら」
僕は自分の拍動が強くなるのを感じた。
「それとも、悩んでいたとしても幸せなら参加することが望ましいのかしら」
いつか幸恵さんが自分で言っていたこと。
――本人と話すしかないんじゃないかな。その上で悪い結果に繋がるって思えたら、その行動を取らない方が良いと思うな――
最近の幸恵さんは楽しんでいる。今までに無いくらいに。本当はそう見えるように装っているだけかもしれなくても、僕は表情からも会話からもそう感じていた。
それが悪い結果に繋がるなんて思いたくなかった。そんな結果にしたら駄目なんだ。
「ありがとう」
冴羅さんは顔を上げた。
「ごめん、惑わすようなことを言って。でもおかげで気付けたよ。文化祭をみんなで無事に楽しんで、終わった後でも幸恵さんの側にいる。たったそれだけのことだよね」
「……ええ、そうね。その通りね」
冴羅さんは微笑んだ。
僕はそれに安心した。微笑んだこと自体というより、その行動も表情も僕の知っている冴羅さんのものだったことに。
「私も、君島にこのことを話せて良かった。文化祭の上でさらに劇なんていうあまりに非日常な点が不安要素だけれど、あの時より理解してくれそうな人が多いのは救いね。今の話を伝えようと思うけれど、油井くんや卯月さん、あと誰がいいかしら」
「同じ組の新城と木庭にもお願いしていいかな? 二人も幸恵さんのことを見ていてくれているから」
「ええ、分かったわ。それから美頼にも」
「うん。必要なら手伝うよ?」
「ありがとう。でも大丈夫。私から話させてほしいの」
気付けば、蓋をするような雲の隙間から月明かりが覗くのが見えた。
◇
冴羅さんが案じていた、幸恵さんの幸せ。
それは僕が幸恵さんに油井を近付けた理由だった。
近付いた今、僕としてはその油井といることで感じてほしいと思っているものだ。当の本人は気付いているのかいないのか分からないけど。
――でももし幸恵さんに油井を近付けず、僕が支えられていれば、今この時何の憂いもなく享受できていた。
そんな可能性を考えずにはいられないものだった。
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