僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第3章

3-18何気なく

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 数学の授業前、いつもの僕ら五人が早めに集まった。

「あれ、どうした? みんな早いな」
 他の四人を順に見る大原。

「油井に言われてきたが……その口振りからすると誰にも何も言われてないな?」
 口に出す木庭。

「その通り。言っていない」
 あっけらかんと言う油井。

「え? なんで来てしまったん?」
 追い打ちをかける新城。

「ただでさえ寂しい状態の大原をついでみたいに悪者に……?」
 呆然とする僕。

 大原は、微笑んだ。

「……ごめん」「……すまん」「……悪い」「申し訳ない」
 僕たち四人は揃って謝った。

「……謝られたことは分かったけど全員違うから正直何言ってたか分からなかった」

「まあ、早く来ると思っていたから言わなかっただけだが」

「何手の平返してんだお前」

「もういいよ……。で、何か話があるんだよね?」

「そう。幸恵さんのことで。最近疲れているようでね、何か変わった点は無いかい?」

「いや。分からなかったな」

「油井と君島に言われたから俺たちで気にしてはいたんだ。でもそんなに変化があるようには……」

「そうか、ありがとう。君島は?」

「気付いたことはないかな。昨日部活だったけどいつも通りだったと思う」

「映像部の日でも来てくれたりすんだよな~。無理させてんだろうな」

「でも幸恵さん楽しそうだから」

「そうなんだよ。『好きで来ているから』って言うんだよ。じゃあいっかってなるじゃん」

「分かった。何、大丈夫。私の思い違いだと思ってくれ」

 その言葉をそのまま受け入れかねなかった。
 十二分に動いてくれて、しかもそれを楽しんでいる。そんないつもの幸恵さんだったからだ。
 劇に出演すると言ってもいつもと変わらなかったからだ。

「西沖さんって……変わったというより、変わっているというか」
 大原が呟く。

「大原」
 それに対して木庭が睨んだ。

「あっ、とはいえ前言ってたような無茶苦茶はしてないんだろ?」

 大原が焦って言った「無茶苦茶」はクラス全員で劇の世界の雰囲気を作ること。そうすれば幸恵さんが演技で真価を発揮するのではないかと新城が考えたことだった。

「できるわけないよね。あの時の俺何考えてたんだろうね」

「そんなことをする必要も無かったみたいだがな。良い演技をしていると思う。取り敢えず、今後も注視する」

「よろしく頼む。私が言うことでも無いが、感謝するよ」

「いやいや、油井は感謝しろよ。ま、彼氏からの献身の方が効きそうだけどな」

「そうか、恋人……」

 大原の何気な……くはない一言に、油井は手がかりを得たと言わんばかりの表情になった。
 おっと、これは……。

「それは誰だ?」

 そういうこと言うか~。少し疑ってはいたけど。

「へ? あ~例え話だよ例え話!」
 大原は混乱しながらも核心を突いたことは言わないでいてくれた。

 木庭と新城からは無言で「どういうこと?」みたいな顔を向けられた。

「えっと……いろいろあるんだよ」

「……いや、他人のことを言えた義理じゃなかったな」

「俺なんかもっと酷かったわ」
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