僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第3章

3-1柔和な男子の悩みと憂う僕 ☆

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 油井ゆい福成ふくなりは悩んでいるという。
 放課後、神妙な面持ちで相談を持ちかけられた。
 珍しい。いやでもこの前幸恵ゆきえさんのことで

「幸恵さんのことなんだが」

「あ、え? あ、はい」

「彼女、自分で自分が分からなくなるような時ないか?」

「あ~。自己催眠」

「やはり催眠状態か。それを早めに解く方法は無いか?」

「何が正しくて何が間違っているか根気よくちゃんと伝えるしかないよ」

「ほう。へえ。何度か解いたことがありそうだね」

「うん……。割とよくある。出会って最初の頃はなかったけど、段々増えて、最近では解けるのも早くなってきて。打ち解ける段階に応じているのかなとは思うけど、毎回いきなりだし突拍子もないから心配にはなるよね」

「心配?」
 油井は意外にも訝しげだった。

「そりゃ心配だよ。油井は違うの?」

「……そうか。心配していたのか」

「何? 大丈夫?」

「まるで駄目だ」

「駄目だったよ」

「私から彼女に出来ることなどないと盲目になっていたようだ。助言ありがとう」

「いやいや。油井が言ったことも分かるよ。幸恵さんは天才だもんね。けど万能じゃないと僕は思ってる。だから、何かあったら支えてあげてほしい」

「君らしいな。本当は君島きみじまみたいに理解ある方が、幸恵さんには良いのかもしれないが」

「――そんなことないよ。油井は僕と同じぐらい理解してるよ。それに幸恵さんも油井といると楽しそうだし」

「そうか? それなら良いが」
 言葉選びは少し強めだけど、物腰や声質のおかげで油井の印象は柔和だった。

「……それで、これまでどんなのがあった? 幸恵さんの催眠状態」

「月」

「天……体……」

「重力関連と殺伐とした時代の話が続いたからだろう」

「もう地球にはいられないってこと!? それで月そのものを選ぶのはさすがだよ」

「優しく反射するような話し方でね」

「どんな?」

「幸恵さんでなければあの話し方はできないと思うね。文化祭の演劇が楽しみだ」

「そうだったね……。結局劇になったんだよね……」

 文化祭の出し物は夏休み前に決まっていた。

 二年二組では新城の提案が通っていた。ただその時は僕たちに良い顔をされなかったが故におずおずと発言したらしい。そこは幸恵さんも木庭も否定しなかった。
 しかし結果としてあれよあれよと言う間に決定となっていたのだそうだ。新城の影響力凄すぎる。
 賛同したのは男子も少なくなかったのだという。幸恵さんの影響力も侮れない。

「確かに幸恵さんがどんな衣装を着るのかはもちろんすごく楽しみだよ」
 何が不満なのか訊きたそうな油井に答えた。
「けどさっきの話を思い出してよ」

「自己催眠かな?」

「うん。練習後毎度解かなきゃかもしれない」

「それは厄介だな。新城がまず私たちに演劇を提案した時、それでも君島が強く否定しなかった理由は?」

「冗談だと思った、幸恵さんが乗り気だった、それから、幸恵さんをよく理解する人がいる。この三つかな」

「君島がどうにかするつもりだったということか?」

「僕だけじゃない。油井も幸恵さんを助けてくれるだろうって思ってたよ」

 僕の言葉に油井は不思議そうな表情を見せた。
「幸恵さんみたいなことを言う」

 僕は思わず吹き出して笑った。
「油井ほどじゃないよ」



 ――本当は君島みたいに理解ある方が、幸恵さんには良いのかもしれないが。
 帰り道で油井の言葉を思い返す。

 まさか油井までもが遠慮するとは予見しなかった。

 でも、そっか。

 僕と同じだ。

 好きになった人だからこそ、その人にはより幸せになってほしい。僕も木庭も油井も同じように祈っているんだ。

 ただその遠慮に起因しているのが僕というのが問題だ。どうしたものか……。
 今は解決策は思い付かないけど、幸恵さんがのめり込んでいった時、油井が引き止めて支えるような関係になってほしい。例えば今回の文化祭で。

 それにしても油井、自分で幸恵さんが好きなこと気付いていなさそうなんだよね……。え? 好きだよね? 心配するぐらいだし。
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