125 / 281
第3章
3-1柔和な男子の悩みと憂う僕 ☆
しおりを挟む
油井福成は悩んでいるという。
放課後、神妙な面持ちで相談を持ちかけられた。
珍しい。いやでもこの前幸恵さんのことで
「幸恵さんのことなんだが」
「あ、え? あ、はい」
「彼女、自分で自分が分からなくなるような時ないか?」
「あ~。自己催眠」
「やはり催眠状態か。それを早めに解く方法は無いか?」
「何が正しくて何が間違っているか根気よくちゃんと伝えるしかないよ」
「ほう。へえ。何度か解いたことがありそうだね」
「うん……。割とよくある。出会って最初の頃はなかったけど、段々増えて、最近では解けるのも早くなってきて。打ち解ける段階に応じているのかなとは思うけど、毎回いきなりだし突拍子もないから心配にはなるよね」
「心配?」
油井は意外にも訝しげだった。
「そりゃ心配だよ。油井は違うの?」
「……そうか。心配していたのか」
「何? 大丈夫?」
「まるで駄目だ」
「駄目だったよ」
「私から彼女に出来ることなどないと盲目になっていたようだ。助言ありがとう」
「いやいや。油井が言ったことも分かるよ。幸恵さんは天才だもんね。けど万能じゃないと僕は思ってる。だから、何かあったら支えてあげてほしい」
「君らしいな。本当は君島みたいに理解ある方が、幸恵さんには良いのかもしれないが」
「――そんなことないよ。油井は僕と同じぐらい理解してるよ。それに幸恵さんも油井といると楽しそうだし」
「そうか? それなら良いが」
言葉選びは少し強めだけど、物腰や声質のおかげで油井の印象は柔和だった。
「……それで、これまでどんなのがあった? 幸恵さんの催眠状態」
「月」
「天……体……」
「重力関連と殺伐とした時代の話が続いたからだろう」
「もう地球にはいられないってこと!? それで月そのものを選ぶのはさすがだよ」
「優しく反射するような話し方でね」
「どんな?」
「幸恵さんでなければあの話し方はできないと思うね。文化祭の演劇が楽しみだ」
「そうだったね……。結局劇になったんだよね……」
文化祭の出し物は夏休み前に決まっていた。
二年二組では新城の提案が通っていた。ただその時は僕たちに良い顔をされなかったが故におずおずと発言したらしい。そこは幸恵さんも木庭も否定しなかった。
しかし結果としてあれよあれよと言う間に決定となっていたのだそうだ。新城の影響力凄すぎる。
賛同したのは男子も少なくなかったのだという。幸恵さんの影響力も侮れない。
「確かに幸恵さんがどんな衣装を着るのかはもちろんすごく楽しみだよ」
何が不満なのか訊きたそうな油井に答えた。
「けどさっきの話を思い出してよ」
「自己催眠かな?」
「うん。練習後毎度解かなきゃかもしれない」
「それは厄介だな。新城がまず私たちに演劇を提案した時、それでも君島が強く否定しなかった理由は?」
「冗談だと思った、幸恵さんが乗り気だった、それから、幸恵さんをよく理解する人がいる。この三つかな」
「君島がどうにかするつもりだったということか?」
「僕だけじゃない。油井も幸恵さんを助けてくれるだろうって思ってたよ」
僕の言葉に油井は不思議そうな表情を見せた。
「幸恵さんみたいなことを言う」
僕は思わず吹き出して笑った。
「油井ほどじゃないよ」
◇
――本当は君島みたいに理解ある方が、幸恵さんには良いのかもしれないが。
帰り道で油井の言葉を思い返す。
まさか油井までもが遠慮するとは予見しなかった。
でも、そっか。
僕と同じだ。
好きになった人だからこそ、その人にはより幸せになってほしい。僕も木庭も油井も同じように祈っているんだ。
ただその遠慮に起因しているのが僕というのが問題だ。どうしたものか……。
今は解決策は思い付かないけど、幸恵さんがのめり込んでいった時、油井が引き止めて支えるような関係になってほしい。例えば今回の文化祭で。
それにしても油井、自分で幸恵さんが好きなこと気付いていなさそうなんだよね……。え? 好きだよね? 心配するぐらいだし。
放課後、神妙な面持ちで相談を持ちかけられた。
珍しい。いやでもこの前幸恵さんのことで
「幸恵さんのことなんだが」
「あ、え? あ、はい」
「彼女、自分で自分が分からなくなるような時ないか?」
「あ~。自己催眠」
「やはり催眠状態か。それを早めに解く方法は無いか?」
「何が正しくて何が間違っているか根気よくちゃんと伝えるしかないよ」
「ほう。へえ。何度か解いたことがありそうだね」
「うん……。割とよくある。出会って最初の頃はなかったけど、段々増えて、最近では解けるのも早くなってきて。打ち解ける段階に応じているのかなとは思うけど、毎回いきなりだし突拍子もないから心配にはなるよね」
「心配?」
油井は意外にも訝しげだった。
「そりゃ心配だよ。油井は違うの?」
「……そうか。心配していたのか」
「何? 大丈夫?」
「まるで駄目だ」
「駄目だったよ」
「私から彼女に出来ることなどないと盲目になっていたようだ。助言ありがとう」
「いやいや。油井が言ったことも分かるよ。幸恵さんは天才だもんね。けど万能じゃないと僕は思ってる。だから、何かあったら支えてあげてほしい」
「君らしいな。本当は君島みたいに理解ある方が、幸恵さんには良いのかもしれないが」
「――そんなことないよ。油井は僕と同じぐらい理解してるよ。それに幸恵さんも油井といると楽しそうだし」
「そうか? それなら良いが」
言葉選びは少し強めだけど、物腰や声質のおかげで油井の印象は柔和だった。
「……それで、これまでどんなのがあった? 幸恵さんの催眠状態」
「月」
「天……体……」
「重力関連と殺伐とした時代の話が続いたからだろう」
「もう地球にはいられないってこと!? それで月そのものを選ぶのはさすがだよ」
「優しく反射するような話し方でね」
「どんな?」
「幸恵さんでなければあの話し方はできないと思うね。文化祭の演劇が楽しみだ」
「そうだったね……。結局劇になったんだよね……」
文化祭の出し物は夏休み前に決まっていた。
二年二組では新城の提案が通っていた。ただその時は僕たちに良い顔をされなかったが故におずおずと発言したらしい。そこは幸恵さんも木庭も否定しなかった。
しかし結果としてあれよあれよと言う間に決定となっていたのだそうだ。新城の影響力凄すぎる。
賛同したのは男子も少なくなかったのだという。幸恵さんの影響力も侮れない。
「確かに幸恵さんがどんな衣装を着るのかはもちろんすごく楽しみだよ」
何が不満なのか訊きたそうな油井に答えた。
「けどさっきの話を思い出してよ」
「自己催眠かな?」
「うん。練習後毎度解かなきゃかもしれない」
「それは厄介だな。新城がまず私たちに演劇を提案した時、それでも君島が強く否定しなかった理由は?」
「冗談だと思った、幸恵さんが乗り気だった、それから、幸恵さんをよく理解する人がいる。この三つかな」
「君島がどうにかするつもりだったということか?」
「僕だけじゃない。油井も幸恵さんを助けてくれるだろうって思ってたよ」
僕の言葉に油井は不思議そうな表情を見せた。
「幸恵さんみたいなことを言う」
僕は思わず吹き出して笑った。
「油井ほどじゃないよ」
◇
――本当は君島みたいに理解ある方が、幸恵さんには良いのかもしれないが。
帰り道で油井の言葉を思い返す。
まさか油井までもが遠慮するとは予見しなかった。
でも、そっか。
僕と同じだ。
好きになった人だからこそ、その人にはより幸せになってほしい。僕も木庭も油井も同じように祈っているんだ。
ただその遠慮に起因しているのが僕というのが問題だ。どうしたものか……。
今は解決策は思い付かないけど、幸恵さんがのめり込んでいった時、油井が引き止めて支えるような関係になってほしい。例えば今回の文化祭で。
それにしても油井、自分で幸恵さんが好きなこと気付いていなさそうなんだよね……。え? 好きだよね? 心配するぐらいだし。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?


覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる