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第2章
2-64感謝する二人、目撃した一人
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二学期の始業日。
当面は文化祭か……その前に今日は試験か……とか考えながら校門をくぐる。
「おはよう。君島」
不意に掛けられた声に、まさかと思いながら顔を向けた。
「……え? 冴羅さん?」
先に登校していたらしく、校門の裏に彼女はいた。
「夏休み前もそんな反応だったわね。考えごとかしら」
「いや、声を掛けてくれるとは思ってなかったから。もう個人的に関わる理由も無いし」
冴羅さんは否定するように笑う。
「挨拶ぐらいはするわよ。それに、関わる理由なら私たちからお礼させてほしいというのでは駄目かしら」
「お礼? そんないいよ。前も話したけど僕は楽しい思いをさせてもらったんだから」
「そう……。どんなことでもすると言っても?」
顔を近付け、目を細めながら冴羅さんは囁いた。
僕はただただ狼狽えるしかない。
「なんてね。冗談よ。今度何か困りごとがあったら力になりたいというだけ。じゃあまたね」
そう言って冴羅さんは手を振り、歩き去っていった。
「あぁ……うん。また……」
なんだ冗談か。
冗談でもやめてほしい。
冗談……だよね?
◇
昼休みになって、保健室に入っていく凛紗さんを見かけた。
冴羅さんは「私たち」と言っていたし、こちらもお礼しようとしているはずだ。それに凛紗さんは本気で自分を犠牲にするようなこともしそうだ……。
止めねば。なんならお礼を断るのだ。
僕は保健室の戸をノック。
「ひゃ、はい! 今、先生は……き、君島さん!?」
凛紗さんがその戸を開けてくれた。
あれほど一緒にいても驚くのは変わらない。意図しない場合というのが条件なのかな。もうこれが凛紗さんらしさなのでこのままでいいと思うけど。
「保健室登校のことは冴羅さんから少し聴いてたけど、今日は調子悪かったんだ」
僕は入室しながら話した。
「はい。少しはしゃぎ過ぎたかもしれません。座ってもいいですか?」
僕が促してから凛紗さんは椅子に座り、情けなさそうに笑った。
「後悔してる?」
「いえ! 今までで一番楽しかったです! あ……君島さんは……?」
「同じだよ。忙しくもあったけどね」
「そうですね」
今度は自然に笑った。
「君島さんにはすごく感謝しています。だから、お礼させてほしくて」
「それなんだけど……度を超さない程度でね」
「え?」
「いや、今朝冴羅さんにも同じこと言われて。嬉しいけどもう僕としては充分だから。ただ言うとすれば何かあったときに頼らせてほしいってぐらいかな」
「私が頼りになるか分かりませんけど、頑張ります!……もしかして冴羅ちゃんからはもう何かしてもらったんですか?」
なんで羨ましそうなんだろう……。冴羅さんから何かしてほしいことがあるとか? そうだとしたら二人の関係変わりすぎじゃない?
「い、いや。そんなことないよ」
「なんだ、そうですか」
なんで今度は嬉しそうなんだろう。
「体調に障ると悪いし、戻るよ」
「あの!」
僕が振り向こうとしていたところで、凛紗さんが跳ねるように椅子から立ち上がった。
「訊きたいことがあるんです!」
「どんなこと?」
「……前に美頼さんをここに運び込んだことがありましたよね」
「ああ、うん。見てた? ごめん、全然気付かなくて」
「いえ、カーテンの向こうでしたので。あとそれから……体育祭の時もここにいたんです。それで君島さんと幸恵さんの話、聞いてしまったんです」
「……それも?」
「ごめんなさい! それで、その……」
凛紗さんが次に訊くことは予想がついた。
その答えは決まらないし、決めない。
そのつもりでも、やはりどうしても気まずく思った。
「君島さんは、どちらが好きなんですか?」
当面は文化祭か……その前に今日は試験か……とか考えながら校門をくぐる。
「おはよう。君島」
不意に掛けられた声に、まさかと思いながら顔を向けた。
「……え? 冴羅さん?」
先に登校していたらしく、校門の裏に彼女はいた。
「夏休み前もそんな反応だったわね。考えごとかしら」
「いや、声を掛けてくれるとは思ってなかったから。もう個人的に関わる理由も無いし」
冴羅さんは否定するように笑う。
「挨拶ぐらいはするわよ。それに、関わる理由なら私たちからお礼させてほしいというのでは駄目かしら」
「お礼? そんないいよ。前も話したけど僕は楽しい思いをさせてもらったんだから」
「そう……。どんなことでもすると言っても?」
顔を近付け、目を細めながら冴羅さんは囁いた。
僕はただただ狼狽えるしかない。
「なんてね。冗談よ。今度何か困りごとがあったら力になりたいというだけ。じゃあまたね」
そう言って冴羅さんは手を振り、歩き去っていった。
「あぁ……うん。また……」
なんだ冗談か。
冗談でもやめてほしい。
冗談……だよね?
◇
昼休みになって、保健室に入っていく凛紗さんを見かけた。
冴羅さんは「私たち」と言っていたし、こちらもお礼しようとしているはずだ。それに凛紗さんは本気で自分を犠牲にするようなこともしそうだ……。
止めねば。なんならお礼を断るのだ。
僕は保健室の戸をノック。
「ひゃ、はい! 今、先生は……き、君島さん!?」
凛紗さんがその戸を開けてくれた。
あれほど一緒にいても驚くのは変わらない。意図しない場合というのが条件なのかな。もうこれが凛紗さんらしさなのでこのままでいいと思うけど。
「保健室登校のことは冴羅さんから少し聴いてたけど、今日は調子悪かったんだ」
僕は入室しながら話した。
「はい。少しはしゃぎ過ぎたかもしれません。座ってもいいですか?」
僕が促してから凛紗さんは椅子に座り、情けなさそうに笑った。
「後悔してる?」
「いえ! 今までで一番楽しかったです! あ……君島さんは……?」
「同じだよ。忙しくもあったけどね」
「そうですね」
今度は自然に笑った。
「君島さんにはすごく感謝しています。だから、お礼させてほしくて」
「それなんだけど……度を超さない程度でね」
「え?」
「いや、今朝冴羅さんにも同じこと言われて。嬉しいけどもう僕としては充分だから。ただ言うとすれば何かあったときに頼らせてほしいってぐらいかな」
「私が頼りになるか分かりませんけど、頑張ります!……もしかして冴羅ちゃんからはもう何かしてもらったんですか?」
なんで羨ましそうなんだろう……。冴羅さんから何かしてほしいことがあるとか? そうだとしたら二人の関係変わりすぎじゃない?
「い、いや。そんなことないよ」
「なんだ、そうですか」
なんで今度は嬉しそうなんだろう。
「体調に障ると悪いし、戻るよ」
「あの!」
僕が振り向こうとしていたところで、凛紗さんが跳ねるように椅子から立ち上がった。
「訊きたいことがあるんです!」
「どんなこと?」
「……前に美頼さんをここに運び込んだことがありましたよね」
「ああ、うん。見てた? ごめん、全然気付かなくて」
「いえ、カーテンの向こうでしたので。あとそれから……体育祭の時もここにいたんです。それで君島さんと幸恵さんの話、聞いてしまったんです」
「……それも?」
「ごめんなさい! それで、その……」
凛紗さんが次に訊くことは予想がついた。
その答えは決まらないし、決めない。
そのつもりでも、やはりどうしても気まずく思った。
「君島さんは、どちらが好きなんですか?」
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