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第2章

2-60いいよ

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 一昨日の深町さんたちからの連絡には驚かされた。
 なるほど。最初に二人のことを幸恵さんから聴いた時は厄介なことになっていると思ったものだが、そこから変わろうとしているようだ。

 私としても協力することはやぶさかではない。
>私は構わないよ

 さて、幸恵さんは……。
>いいよ~
>明日とかどう?

 二言目に日取りとは話が早い。

 その後やり取りの末、二日経った今日に予定が決まった。我々としてはいつもの場所、学習室がある施設の外で待っていた。
 やがて前方によく似た二人組が見えた。

「ごめんなさい。待たせたわ」

「すみません。今日はよろしくお願いします」

 先に謝りながらこちらに近寄ってきたのが冴羅さんで、そのあとに頭を下げたのが凛紗さん……で良いはず。先日は確かに間近で見てはいたのだがあやふやで、幸恵さんに教えられてやっと違いを理解できた。

「うん。いいよ」
 妙に力強く幸恵さんが言った。

「その……許してくれたってことよね?」

「許す? そうだね~なんでも許しちゃうね~」

 二人は約束の時間に遅れたわけではない。ならば待ったことに対して怒ったのかと言えば、幸恵さんがそんな無責任な感情は抱くようなことはしない。旧来の友人なら尚更だ。

「なんでも……」
 凛紗さんが幸恵さんの胸を見詰めていた。

「凛紗?」
 冴羅さんはどこか冷たさのある声で呼んで、凛紗さんは頭を振る。

 幸恵さんはいつの間にか両手を使って姉妹二人の手を握っていた。

 そして、驚く双子に言った。
「すごく良いよ! 今の二人が今までで一番良い!」

 これで冴羅さんの誤解も解けたことだろう。
 冴羅さんと凛紗さんとの仲をずっと見てきた幸恵さんの言葉は、誰が言うより深いはずだ。

「ふふっ。ありがとう」
「えへへ。ありがとう」
 同時に感謝を述べた。

「それから、今日は急にお願いした無理を聞いてくれたことも感謝しているわ」

「全然。むしろ嬉しかったよ」

「――そう。とても助かるわ」

「油井さんがあんなにすんなり許してくれるとは思っていなかったです。私たちとあまり関わりがないので難しいと思っていました」

「そうでもない。幸恵さんからはこれまでのことを聴いて、君島からは近況を聴いていた。嫌味に聴こえるだろうが、君島を選んだから、私は君たちのことを知り、見届けたくもなった、と言える。そこで今回の話が来たのでね、喜んで引き受けさせてもらった」

「そうでしたか……。本当にありがとうございます。なんというか、頑張ります!」

「頑張るとも違う気がするけれど……ありがとう。どうお礼すれば良いか」

「あ、じゃあアイス買ってもらおうかな」

「……それで良いの幸恵? もう少し違うものを想定していたのよ?」

「うん。良いよ」

「分かったわ。買ってあげるわよ」
 仕方なさそうに言う冴羅さんだった。
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