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第2章

2-59このまま、いつも通り ☆

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「あ、でも怒ってるわけじゃないよ」

「あっ、良かったです」

「いつもあんな感じだから」

「へえ、そうなの。長い付き合いと聴いたけど、それだから分かるものなのかしら」

「……ちょっと前まですっごく怒らせちゃってたからかな」

「そ、そうなんですか?」

「訊いてはまずかったかしら……?」

「そんなこと無いよ! それに前から何言っているか分からない時もあるし! そんなもんだよ!」

 途端に静かになった。

「え? 何?」

「い、いえ」
「なんでもないわ」

 当然の反応だ。

「あ……でも優哉はあたしのこと分かってはくれるな……。その通りにしてくれるわけじゃないけど」

 また静かになった。

「……美頼。注文は?」

「あ! それでは注文取りますね」

 しばらくして深町姉妹が注文した品が出来上がり、ホールに出ていた美頼が受け取りに来た。
 ……まだ悩んでいるようだ。

「ぼんやりしないでくれ」

「え? あ、うん。ごめん。って誰のせいだと思ってんの!? 二人のためにも協力してよ!」

「勝手に受け入れたのは誰だ?」

「じゃあ断れ……いやでも……うん……ごめん……」

「……どうした?」

「だって、受け入れたのはうちらの関係を見て頼ってきたからだし、今のこの関係は店長たちのおかげだし、そうしてくれたのはうちが心配かけたせいだし……」

「馬鹿。振り返り過ぎなんだよ」

「だって……うぅ」

 俺は呆れてため息を吐いた。
 難しいことを考えて、から回りしている美頼に。
 そして、結局気を咎める自分に。

「こういうのは別にいつも通りで良いんだよ。変に気を遣わなくても。あと……悪かった。美頼が困るだろうとは思っていた」

「はっ? もう! ほんとに意地悪! あとうちのことちゃんと見ててくれて本当にありがと!」

「あ、おう……」
 美頼が不意に素直になって、俺は口ごもった。

 そこではっとした。
 俺は美頼の後ろに目を向けた。

「……こんなもんで良いか?」

 美頼が驚いて振り返った後に一人は一度頷き、もう一人は何度も頷いた。どっちがどっちかは分からない。

「ええ。ありがとう」
「できましたらもう少しそのまま……」

 また俺の方に向き直った美頼と一緒に、安堵の息を吐いた。



 姉妹は会計を済ませる。

「美頼さん、木庭さん、今日は本当にありがとうございました」

「お仕事の邪魔をして申し訳なかったわ」

「気にしないで。姉妹で来てくれて嬉しかったよ! また来てね!」

「見せるようなものはありませんが……またのご来店をお待ちしております」

 二人が同じ顔で微笑む。
「ええ。必ずまた来るわ」
「はい。今後もよろしくお願いします」

 良い笑顔で店を出ていき、同じような笑顔が隣にもいた。

 ふと、自らの夢を思い起こす。
 今回は料理ではないが、こうやってお互いに良いものを渡し合えるようになりたい。
 出来ることなら……今みたいに並んで。

「ん? 何?」

「……なんでもない」

「あ! 馬鹿にしてたでしょ!」

「してない」

「じゃあ何?」

「……深町姉妹と話してた時、二人が黙った時があっただろ」

「うん」

「あれ美頼が馬鹿過ぎて分からないだけとか思われていたからな」

「二人にも思われてたんだ……。頑張ろう」
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