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第2章
2-56過ごした夏は本当で ☆
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説明すると言ってリュヌの店内に入る。今は昼前だけど、思った以上に薄暗かった。
灯りを中央の一つだけ点け、冷房は弱めにかけた。
僕が準備している間に、冴羅さんと凛紗さんは距離を取ってテーブル席に座っていた。僕は潰れた二等辺三角形を作るように椅子を選んで座った。
それからこれまでのことを話した。お互いがお互いの幸せを考えて、二人同時に夏休みの間僕と付き合うふりをしたいと持ちかけてきたこと。僕はどうすれば良いか分からず、草壁と幸恵さんに相談したこと。話し合うことが難しいならば、僕はお互いが気付かないように二人のどちらにも協力することに決めたこと。
黙って聞いていた二人は、僕が話を終えてもしばらく何も言わなかった。
やがて、冴羅さんと凛紗さんがおもむろに立ち上がり、落ち合った。
それから会話を交わし、僕のテーブルの所に来て、
頭を下げた。
「この度は申し訳ありませんでした」
声を出したのは冴羅さんだった。
「……こんな馬鹿馬鹿しい私たち姉妹のつまらない意地の張り合いに巻き込んだ上、気を遣わせてしまって、誠に申し訳ありません」
次は凛紗さんが言った。
「今後は姉妹で確実に話し合います。――お詫びとして、どのようなことでも構いません。要望される通りにいたします」
そう言った冴羅さんの声は、聞いたことの無いような声色だった。
問い詰められたわけでもない。
睨み付けられたわけでもない。
それなのに、今の言葉がこれまでで一番冷く、刺すようだった。
その言葉で痛いのは僕だけではなかったからだ。
冴羅さんは言葉を詰まらせていたからだ。
凛紗さんは肩を震わせていたからだ。
急なことにどうすれば良いか分からなかった。要望って……。
でも、こんな二人を好き勝手できる機会なんて二度と無いだろう。
そうだ、好き勝手にすれば良いんだ。
「冴羅さん。凛紗さん」
呼び掛けると、二人から目を向けられた。感情を圧し殺した虚ろな目であることが薄暗い中でも分かった。
「僕は、二人が幸せになれるようにしてほしい」
「どういうことでしょうか」
「例えば、今回ここまでの行動を起こしたのはお互いのためになりたかったからだよね? そうすることで自分も幸せだと思えるから。そこはそのままでいいと思う。今度は話し合ってから行動を起こせばいいんだよ」
他に例は……あ、あれだ。
「最近だって、冴羅さんが苦手なホラー映画を観たことを凛紗さんは喜んでいたよね? だから、できると思う。それでも難しい時は周りを頼ってよ。巻き込んだとか気を遣わせたとか気にせず僕も頼ってもらえないかな」
二人は呆然として、目を閉じて、俯いて……冴羅さんの失笑し、凛紗さんは嘆息した。
「どうして私たちが迷惑を掛けたのに、また気を遣われているのかしらね」
「全部、返されてしまいましたね」
「……いいの?」
「本当にお詫びになりますか?」
次に向けられた二人の目には、感情があった。
「うん。僕は二人と楽しくデートというかお出かけというか、一緒にいられただけでも充分だっだから」
凛紗さんははっとした顔を見せ、その口元が震えた。
「口にしないで……よ……」
冴羅さんの声も震えていた。
二人は抱き合って、声は抑えることもできなくなって、涙とともに止めどなく溢れた。
灯りを中央の一つだけ点け、冷房は弱めにかけた。
僕が準備している間に、冴羅さんと凛紗さんは距離を取ってテーブル席に座っていた。僕は潰れた二等辺三角形を作るように椅子を選んで座った。
それからこれまでのことを話した。お互いがお互いの幸せを考えて、二人同時に夏休みの間僕と付き合うふりをしたいと持ちかけてきたこと。僕はどうすれば良いか分からず、草壁と幸恵さんに相談したこと。話し合うことが難しいならば、僕はお互いが気付かないように二人のどちらにも協力することに決めたこと。
黙って聞いていた二人は、僕が話を終えてもしばらく何も言わなかった。
やがて、冴羅さんと凛紗さんがおもむろに立ち上がり、落ち合った。
それから会話を交わし、僕のテーブルの所に来て、
頭を下げた。
「この度は申し訳ありませんでした」
声を出したのは冴羅さんだった。
「……こんな馬鹿馬鹿しい私たち姉妹のつまらない意地の張り合いに巻き込んだ上、気を遣わせてしまって、誠に申し訳ありません」
次は凛紗さんが言った。
「今後は姉妹で確実に話し合います。――お詫びとして、どのようなことでも構いません。要望される通りにいたします」
そう言った冴羅さんの声は、聞いたことの無いような声色だった。
問い詰められたわけでもない。
睨み付けられたわけでもない。
それなのに、今の言葉がこれまでで一番冷く、刺すようだった。
その言葉で痛いのは僕だけではなかったからだ。
冴羅さんは言葉を詰まらせていたからだ。
凛紗さんは肩を震わせていたからだ。
急なことにどうすれば良いか分からなかった。要望って……。
でも、こんな二人を好き勝手できる機会なんて二度と無いだろう。
そうだ、好き勝手にすれば良いんだ。
「冴羅さん。凛紗さん」
呼び掛けると、二人から目を向けられた。感情を圧し殺した虚ろな目であることが薄暗い中でも分かった。
「僕は、二人が幸せになれるようにしてほしい」
「どういうことでしょうか」
「例えば、今回ここまでの行動を起こしたのはお互いのためになりたかったからだよね? そうすることで自分も幸せだと思えるから。そこはそのままでいいと思う。今度は話し合ってから行動を起こせばいいんだよ」
他に例は……あ、あれだ。
「最近だって、冴羅さんが苦手なホラー映画を観たことを凛紗さんは喜んでいたよね? だから、できると思う。それでも難しい時は周りを頼ってよ。巻き込んだとか気を遣わせたとか気にせず僕も頼ってもらえないかな」
二人は呆然として、目を閉じて、俯いて……冴羅さんの失笑し、凛紗さんは嘆息した。
「どうして私たちが迷惑を掛けたのに、また気を遣われているのかしらね」
「全部、返されてしまいましたね」
「……いいの?」
「本当にお詫びになりますか?」
次に向けられた二人の目には、感情があった。
「うん。僕は二人と楽しくデートというかお出かけというか、一緒にいられただけでも充分だっだから」
凛紗さんははっとした顔を見せ、その口元が震えた。
「口にしないで……よ……」
冴羅さんの声も震えていた。
二人は抱き合って、声は抑えることもできなくなって、涙とともに止めどなく溢れた。
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