僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第2章

2-53午後:双子の差

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 僕らは草壁が行くと言っていたプールへ向かった。
 そこでは凛紗さんと宮国が二人でいた。
 どちらも依然泳ぎは上手くはないけど、そのおかげで楽しんでいるようだった。

「良かった」

「そうだね。良い間柄に見えるよ」

「それもそうなのだけれど、楽しそうな妹を見られたことも」

 その感想が妙に腑に落ちた。

 映画を見た後の会話からお互いの呼称に違和感を抱くようになっていた。他人の僕を巻き込むほど思い合っていながら、他人行儀な続柄呼びをしていること。
 如何せん僕にきょうだいがいないから、そんなものかと思ってもいた。けど僕が考えている以上にこの姉妹には距離がありそうだ。



「ところで、今日まだ僕は冴羅さんが泳ぐところを見てなくて」

「……何? 双子だから私も泳ぐのが苦手で、それを隠すように宮国の指導やあなたとの会話をしていたと言いたいの?」

 そう言って僕を睨んだ。そのことになぜか安心した。どこか求めていた気もする。

「そこまで言ってないよ!?……あり得るもしれないとは考えていたけど」

「確か、ストップウォッチも貸し出していたわよね」

「そうなん……え? 測るつもりですか?」

 冴羅さんは不敵な笑みを返した。
 かくして、冴羅さんの泳力を見せてもらえることになった。

 先ほど宮国が指導を受けていた二十五メートルプール。

「では、一往復五十メートル泳ぐから、測定はお願いするわね」

「はい」

 プール内に入り、冴羅さんは僕に頷き掛けた。

「位置について、用意」

 ストップウォッチの音とともに、冴羅さんは壁を蹴った。
 確かに速い。周りに見ている人もいた。

 向こうの壁を蹴った。

 さっき凛紗さんが言っていた言葉を思い出す。「火が着いてしまった」――それはただの苛立ちやお節介を指していると思っていたけど、これ程までの速さに至った努力を宮国にも望んだから、というのもあったのだろう。

 こちらの壁に触れた瞬間に僕は測定を止める。
 三十二秒五三。

「この格好なら仕方ないかしら」
 記録を見た冴羅さんは少し不服そうに言った。

「本当に速かったよ……」

「まあ、競泳選手の中に入ったら微妙よ。でも驚いてくれたみたいだから気が済んだわ」
 返してくるわね、とストップウォッチを預かって、冴羅さんはその場を離れた。

「凄かった。久し振りに見られて嬉しかったな~」
 そう言ってまたどこからともなく幸恵さんが現れた。油井も一緒だ。

「あの泳ぎ、最近でも続けてたと見える」

「そっか。そうじゃないとこの速さにならないか」

「本当に努力家だよね。でも、奏向くんといる時はそれだけじゃない感じ。前に張り詰めているって話したけど、今日は緩んでいるところもたくさん見られて良かったよ」

 そう話しながら幸恵さんの口元も徐々に緩んでいき、
「へへへ。やっぱり冴羅ちゃんって綺麗だよねぇ~」

 緩みきった。

「そうだね。本当に」
 今度は答えるのに迷いはなかった。
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