僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第2章

2-48午前:姉の様子 ☆

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「姉の様子、見に行っても良いですか?」
 また凛紗さんと泳いでから休んでいた時、凛紗さんが申し出た。

「いいよ」

 施設内を歩くと、幸恵さんに出くわした。

「冴羅さんと宮国は?」

「二十五メートルプールの方だよ」

「え?」

 僕たちは幸恵さんを伴って向かうと……。
 確かにその長方形の広いプールの縁に座る、冴羅さんを見つけた。その視線の先には水しぶきが起こっていて……。
 そのしぶきが収まった所に宮国が立った。

「息継ぎしっかり!」冴羅さんの檄が飛び、

「は、はい!」疲れていそうな宮国の声が返った。

 その様子はまさに……。

「特訓だそうだ」

「やっぱり!?」

 僕は驚き、凛紗さんは呆れ笑いの後にため息を吐いた。

「火が着いてしまったみたいです……」

「宮国の金づちに冴羅さんが気付いて始まったとかそんな感じ?」

 そして今ここでは口に出せないけど、多分凛紗さんのところに宮国が行っていない状況に対する苛立ちのようなものがそうさせている気がする。

「そうそう。生徒会の会長がそんなのでいいのか!って言ってた」

「生徒会の会長って泳げなきゃいけない道理ってあるのかな?」
 やっぱりイライラしているよね。

「ごめんなさい。少し……」

「あ、うん。またね」
 凛紗さんの悩みの種を幸恵さんが察して、その場を離脱させてくれた。

 ベンチにゆっくりと座ってから、凛紗さんは遠い目だった。
 いろいろ考えるだろうな……。その中で二人の関係を悟ったきっかけ、今見た状況、僕に協力を願い出たこと……。
 そう推し量りながら凛紗さんを見ていた僕に、彼女は焦点を合わせて質問した。

「君島さん、姉と仲が良かったりしますか?」

 なっ、え!?
 まさかの質問だ。動揺を隠せているだろうか。なんでそう思ったんだろう? さっきの水着の会話だろうか……。どうしよう? 冴羅さんとの関係……そうだ!

「文化祭の関係で話す機会があったから。幸恵さんと仲が良いこともあって、僕ともそれなりにね」
 これならどうか。

「そう……でしたか」

 それだけじゃないように見えたとか言いたそうだ……。あの時の冴羅さん他人にあまり見せない不安そうな表情だったもんね。僕の答えも事情をよく知っているとしか思えないものだったし。

 凛紗さんは少し迷ってから、また口を開いた。
「私、お話ししていることが特に多いことや楽しそうな様子から、姉は宮国さんに好意があると思っていました。でも、今日の姉を見て、より深い関係というか、その……好意を寄せているのは、君島さんなのではないかと……」

「――そんなことはないよ」

「そうですよね! すみませんでした。変なことを訊いてしまって」
 即座に謝られた。

 納得してはいないだろう。けど、今はまだ何も言えない。
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